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03.よーちゃん

鳥居れなには、ふたつ年上の兄がいる。

本当に鳥居れなの兄なのか?
と疑う程に綺麗で、山のように高い鼻が
シュッとした輪郭の顔の中央にくっついている。
しっかりと。

みんなに(よーちゃん)と呼ばれていた。

兄は小学5年生までは
ふっくらとしていた。
まゆげが濃くて、くせっ毛。

うっすらお髭なんかも生え始めていて、
芋っぽい、という印象だ。

それがある時、突然。
「おれは今日から、お母さんとも、
   れなとも、もう風呂には入らない。」
と断言した。

母は衝撃を受けたようで、たまにこの話をするが
妹はあまり覚えていない。

だが恐らくその断言以降、兄はみるみるうちに
イケメンという枠に入っていったのを覚えている

よーちゃん。
空手が強かったよーちゃん。

大会ではよく表彰されていたし、
トロフィーやメダル、賞状なんかも部屋に飾られていた。

鳥居れなが、
「読書感想文」や「動物の絵コンクール」で、
これが私の輝けるものか!!と気付く前。

兄の勉強机の周りにこれでもかと飾られていく
トロフィーやメダル、賞状を羨んで仕方ないので
祖母が賞状を書いてくれたこともあった。

ありがとう、おばあちゃん。
なんて良いおばあちゃんなんだ。
おばあちゃん。

中学生になり、
思春期という時代を生きていた時には
兄は中学3年生。妹は中学1年生。
鳥居れなの同級生には
「れなちゃんのお兄ちゃん格好良くていいな」
なんて言われた。

実は妹は、それが嬉しかった。

「いや全然。家だとお風呂場で下手くそが気持ちよさそうに歌っててキモいよ。本当に。」
などと答えていた。ごめん兄。

モテる兄が自慢だったし、兄の同級生に
「よーちゃんの妹」と声をかけてもらえるのも
なんだか優越感があった。

妹が高校を卒業し、上京しようという時には
兄は社会人だった。

地元を離れる時、
これなら一番素直になれるだろうと
手紙を書いて渡した。

のちに母から、
お兄ちゃんれなからの手紙にすごく感動して
「俺もれなに手紙書こうかな」って言ってたよ
と聞いた。

あれから5年。
妹はよーちゃんからの手紙を待ち続けています。

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