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歌詞を読み込むとは。「野菊」

みなさんこんにちは。おっちβです。
先日行った、所属先の講演会で話した内容を文章に
書き起こしてみようと思います。
詩を読む ≠ ひらがなの音読 ということが伝わればうれしいです。


『野菊』   作詞:石森延男

この歌詞からイメージできる内容は何でしょうか。


1行目:「遠い山から 吹いてくる」

このたった10文字、意味は難なく理解ができるでしょう。
しかし、この文には“主語"がありません。
そのため、「何が?」の答えはこの文の主語ということになりますね。

たぶん、小学生でも意味のわかる単純な文章です。
では、この文章1つ1つの単語の意味を理解できているでしょうか?

☆キーワードチェック

「遠い」
①距離を表す遠い

✓近いお店⇔遠いお店(長さ)
✓親しい人⇔心の距離が遠い人(心情)

②モザイクの遠い
✓近くの国、、、中国,韓国,台湾,→断定はできないが推測できる
 遠くの国、、、どこ? 推測ができない。
✓近い将来、、、実現の予測ができている
 遠い将来、、、まだ断言出来ないor願望
✓電話が遠い、、、はっきり聞こえない

「吹く」
①(風専用の)移動を表す単語
✓風が吹く

②中から外に系単語
✓新芽が吹く(土の中から)
✓口笛を吹く(楽器から・口から)

*「吹雪」:「吹く①」+「雪」

「来る」
→始点と終点の決まっている移動

✓家から来た
 始:家   
 終:現在地
✓時期が来た
 始:過去
 終:現在
✓太ってきた
 始:ガリ・痩せ(過去)
 終:デブ(現在)

「遠い」「吹く」「来る」
決して難しくない単語ですがこんなにたくさんの意味を持ちますしこれでも簡素化したごく一部の意味です。

10文字の文章に2つも“移動系の動詞”が含まれています。
また「から」には矢印の役割が含まれています。

遠い山   ⇒⇒⇒   ここに
か ら

Q:「吹いてくる,何が?」の答えを探すのに、
  この移動系の動詞を無視するわけには行きません。

主語探しの旅、次の行に行きましょう。


2行目:「小寒い風に 揺れながら」

なんだかここだけ切り抜くと、鳥肌が立ちそうな文章ですが、、、

寒い:補足情報→「風」に引っかかる⇨「寒い風」
小:補足情報→「寒い風」に引っかかる⇨「小寒い風」

この2つはそれぞれ後ろの単語をより詳細なイメージをさせるために
前からひっかけて説明していますね。

これを「ネタバレの情報」と呼ぶとしましょう。 

対して、「揺れながら」は
どのように扱いましょうか。

「揺れる」
→外力が必要な動きを表す単語

✓地震でビルが揺れる(外力:地震)
✓酢豚かニラレバかで気持ちが揺れる(外力:選択権)

この場合、
外力:風 によって 揺れているんですよね。
ただ、2行目には「何が」揺れているか書かれていません。

⭐︎ 揺れているもの = 2行目の主語
 外力
主語揺れる(述語)


3行目:「けだかくきよく 匂う花」

西尾のレッスンでは歌詞をひらがなにしたものを印刷して「漢字に直せ」という宿題をよく出します。

けだかく→気高く
きよく →清く

と変換したくなってしまいますが、この詩ではひらがなが正しい表記らしい。
しかし、意味としては漢字にしても同じです。

小学生を相手にするレッスンだとここで初めてつまずく子かでてきます。

「ケダカクキヨクってなんですかぁ…」

気高い=高級感・リッチ感
清 く=清潔感・きれい系

〇〇感 → 状態を表す形容詞

まぁ、本当は「上品で高貴な〜」とか「汚点のない〜」とか正しく説明する必要があるのかも知れませんが、そんなの小学生に言っても固まって終わります。

重要なのは

「形容詞」を見抜く事 
「形容詞」を見つけたらどうするか

この2つが重要であり、西尾のレッスンでは「形容詞」のわからない単語を質問されたら、あえて〇〇感と答えるようにしています。

形容詞とは、物事の状態や性質が
「どのようであるか」を表現する言葉です。
→景色をイメージするのにとっても重要な役割。

1人だと何もしてくれないけど
主人公のサポートをしてくれる秘書的な存在です。

話を2行目に戻してみましょう。

「風」という名詞に
「寒い」という形容詞がかかっています。

「風」とは空気の動きを表す単語であり、日常的に私たちが体感している風にも強弱やさまざまな温度があります。

ここに「寒い」という形容詞が加わるだけで、
まだ断定はできないけど、

・少なくとも猛暑日ではない。
・ボロ扇風機みたいな弱い風ではない。

などと候補を減らすことができます。

そのために形容詞を見つけるのは非常に重要な事です。
また形容詞を見つけたら、それはどこにひっかかっているのか。「遠い山」「小寒い風」のように名詞が後ろにいるのか。もしくは「山から遠い」「風が寒い」のように前に戻って探す必要があるのかも知れません。

ちなみに、西尾のレッスンでは

形容詞の後ろに名詞:ネタバレの情報
形容詞の前 に 名詞:後出しの情報 

と呼んでいます。

3行目の文章に戻りましょう。

けだかく(形)きよく(形)匂う(形)花
↑3つも形容詞を横に並べています。

これは、「花」だけではどんな花か特定できません。後ろから順番に見ていくとすると

まず「匂う」で
①無臭ではない情報を与えてくれます。

また、「匂」という漢字から
②マイナスのにおい(≒くさい・不愉快形)ではないという情報を与えてくれます。

この情報から
・造花
・ドライフラワー
・枯れた花
・独特の匂いを持つ生花
などを候補から消すことができます。

次に、「きよく」という情報から
③形が変な花や特徴的な花ではない。ちゃんと成長して開花した花。
④邪魔者がいない状態
⑤踏み潰されてない

ということがわかります。
この情報から
・土を被ってしまった花
・緑の葉が出てきてしまった葉桜
などを候補から消すことができます。

※葉桜に汚いというイメージは私自身ありません。ただ、曲の風景・情景をイメージするための作業であり、クイズ番組の〇×がつくわけではないのでこの消去法の作業は正確ではなくてもOKだと思います。

そして、「けだかく」という情報から
⑥繊細そうなイメージ
⑦上向きに、もしかしてちょっと身長高めの花?
などがイメージできます。

求めている
「花」=「けだかく」+「きよく」+「匂う」


4行目:「きれいな野菊 うすむらさきよ」

さて最後の行まで辿り着きました。
「きれいな」は形容詞ですね。
もうお分かりかと思いますが「野菊」に引っかかるネタバレの方です。

対して、うすむらさきという情報は名詞ですが、補足説明として「野菊」に引っかかる後出しの情報です。

形容詞というと、どうしても「〇〇 い」など最後に「い」が付いていると思いませんか?
例えば、薄紫が他の色ならどうでしょうか?

赤→赤い
白→白い
黒→黒い
青→青い

他の色ならば「い」で終わるものもあります。これらは名詞を形容詞に変形することができます。「黄色い」は例外です。

そして、この前後2つの情報によって説明された「野菊」ですが忘れてはいけません。
"3行目がまるまるネタバレの情報"として
「野菊」に引っ掛かります。


吹いてくる,何が?

(さて、4行ガッツリ説明したのでここまでちゃんと読んでいる人がいるのか怪しいのですが…)

4行にわたって探してきたのは
「遠い山から吹いてきた」主語です。

日本語は主語が抜けても文章は成立します。
そのため、今回は主語探しの旅をしてきました。
主語=「〜が、〜は」ぐらいの
イメージしかないと思いますが

重要なのは「名詞」が主語になります。
もっと詳しく説明すると
述語の動詞が表す動作をしている名詞 です。

つまり、述語「吹く」が動作をしている名詞です。


詩の中から名詞を抜き出してみましょう。

・山
・風
・花
・野菊
・うすむらさき

つまり、この5択問題になるのです。

実際に、小学生を相手にレッスンをすると必ず出てくる回答の1つに「花の匂い」があります。
「吹いてくる」の説明で風専用という話をしたからか、匂いが風に乗ってきた〜と考えるのでしょう。

しかし、この回答にはWでツッコミを入れなければいけません。

①風専用やねん。
→匂いは風に乗せられて移動します。
しかし、「吹く」というのは「風」専用
すなわち、乗っているお客さんには使えない単語なんです。

ex)新幹線のレールは新幹線専用です。
→新幹線の車両しか走れません
→お客さんは新幹線に乗れるけど、
 レールは走れない!!

②匂いは する・漂う もの。

主述関係を考えた時、主語が「匂い」になるとそれに適した述語を選択する必要があります。


5択問題に戻ります。
主述関係から考えて、「山」と「うすむらさき」は論外であるのがわかるかと思います。

次に、「花」「野菊」です。
この2つの単語が主語の場合、「吹く」は②内から外へ系の単語として使用することはできます。

しかし、この場合の内側は土の中ではなく
「来る」の始点:遠い山 になってしまいます。
そのため、日本語がおかしくなるのです。
(遠い山からここまで生えてきた…長さ数キロメートルの花)

という事で、答えは「風」です。
3行目以降は結果的に関係なかったですね。


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