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【リモホス】Club Venere 第6話【リモート☆ホスト】

――朝9時、東京駅、東海道新幹線ホーム。
そこには午前の太陽の光が明らかに似つかわしくない男が立っていた。

――夕星である。

まだ東に浮かぶ太陽の光が、夕星自慢の高級ロイヤル陶器のような白い肌をまぶしく輝かせていた。
今日はお店での勤務ではない為、服装はカジュアルな私服。といっても、白いオープンカラーシャツに白パンツと上下共に白でまとめており、ビジネスマンの多いこのホーム上では、かなり異彩を放っている。

夕星は左手首の高級腕時計で時刻を確認すると、やれやれと呟いた。

夕星「フッ……やはりまだ誰も来ませんか。集合時間、30分早めにしておいて正解でした」

どうやら誰かと待ち合わせをしているらしい。
実は夕星が待っているのは『Club Venere』のホスト達。

これからオーナーのルシフェルと『Club Venere』の売り上げトップ5のホスト達で、京都に向かうことになっている。
もちろん、店も2日間休みだ。

――なぜ休業してまで京都に向かうのか?

実は、先日行われた『推しホス・ラストソンググランプリin TOKYO』の予選で、なんとこのトップ5のホスト達が晴れて全員通過した。11月中旬からは投票が始まりには、年明けには優勝者が決まる。

そこでルシフェルは、そのご褒美と優勝のゲン担ぎをすべく、予選通過したホスト5人と京都旅行を企画したのだ。

――9時10分。
夕星の次に新幹線ホームに辿りついたのは、ラフな私服にリュックを肩にかけた明星だった。

夕星「おはよう、明星」
明星「――ん? もしかして、まだお前だけか?」
夕星「ええ」

夕星は苦笑して頷いた。

明星「ったく……みんなしょーがねーな。姫がいないと途端に揃いも揃って時間にルーズだ」
夕星「まぁ、昨夜の勤務明けの今朝ですしね。これくらい想定内でしょう」
明星「だとしても、だらしねーって。俺は姫とのアフターで帰りが何時になろうと朝はしっかり起きる!」

明星が力強く言うと、夕星は不思議そうに首を傾げて言った。

夕星「明星が早起きなんて意外ですねぇ」
明星「当然だろ。早起きしてラブちゃんに餌やらねぇとなんねーし」
夕星「……ラブちゃん?」
明星「あ、い、いや……その、うちで飼っているペットで……」
夕星「あ、ああ……例のうさぎちゃんですね」
明星「今朝も餌あげてから、ペットホテルに預けて来た。アイツらと違って、俺は朝からアクティブに色々やってんだ」
夕星「なるほど……」

二人でそう話している間にも、次々と新幹線がホームにやってきては、慌ただしく出発していく。改めて新幹線の発車本数の多さを感じてしまう。

気づくと9時20分になろうとしていた。
出発まであと10分だ。
まだ現れていないのは、輝石、愛抱夢、金多、そして肝心のルシフェルも来ていない。

明星「おいおい、みんなちゃんと来るのか?あと10分だぞ」
夕星「輝石がまだ来ていないのが意外ですね。彼はいつも時間を守るタイプですし」
明星「ルールーうるせー愛抱夢はオーナーと一緒に来るとして……」
夕星「私が一番心配なのは金多ですね」
明星「確かに。あいつ、東京駅までの電車代ちゃんと持ってんのかね」
夕星「昨日も競馬でスリまくったって話してましたしね」
明星「どーせ、また誰かに金出して貰うんじゃねーの? それか誰かに甘えて車で送ってもらうか」
夕星「金多なら普通にありえますね……あ、噂をすれば何とやらですよ」

――夕星がホームのエスカレーターの方を見るよう促す。そこには金多と愛抱夢の二人の姿が……。
金多は遠くから大きく手を振っている。

金多「グッモーニン! エブリバディ! 東京駅の出張ビジネスマン&ウーマン達、元気~? さ、朝から俺に賭け狂え!」
愛抱夢「お弁当何がいいかなって選んでたら遅くなっちゃったぁ」
金多「俺も!東京駅のあなご弁当、愛抱夢に買ってもらったぜ!イエー
イ!」

でかい声で話す金多と、エキナカで一体何日分の食料を買い込んだのかというくらいでっかい袋を抱えた愛抱夢。

明星「俺、あんな奴ら、知らね……」
夕星「ええ、私も全く知らない人ですね……」

明星と夕星は思わずそっぽを向き、他人の振りをする。

抱夢「あれあれ?Lu様は?Lu様は?」
夕星「まだ来てませんが」
明星「つーかお前、オーナーと一緒じゃなかったのか?」
愛抱夢「うん。Lu様にお弁当いっぱい買ってサプラーイズ!ってしようと思ったから、別々で来たんだ」
夕星「それで、その大量のお弁当……」

夕星は愛抱夢の持つ大量のお弁当をもう一度一瞥する。

彼らが乗車する予定ののぞみ号がホームに入線してきた。

金多「お! 来た来た! な、俺達の乗る新幹線ってこれ?」
夕星「ええ」
金多「よっしゃー! 余裕で間に合ったぜ!」
明星「集合時間は9時だったがな」
金多「間に合えばいいじゃん!オッケー!オッケー!」
明星「何がオッケーだよ。だいたいお前、今日はどこから来た?」
金多「今日はもちろん、姫のトコ。姫とここまでタクって来ちゃった」
夕星「やはり……予想通りでしたね」
明星「ああ」

そうこうしている間に、発車のベルが鳴り始めた。

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