見出し画像

【リモホス】Club Venere 第5話【リモート☆ホスト】

慌ただしい街に夕日が差し込み始めた。
オレンジの夕焼けとあちこちで点灯し始めたカラフルなネオンの光が混ざり合う。

――東京K町。
――Club Venere。
――17時半……。

売り上げトップ5のみが使用できるヴィクトリールームにはホスト5人全員が集合していた。今朝、オーナーのルシフェルから大事な話があると一斉メールが届いたのだ。


夕星「オーナーの話って何でしょうね……」

夕星が顔に美容スチームを当てながら言う。
隣のメイク台でスマホをいじっていた明星が、愛抱夢に声をかける。

明星「なぁ、愛抱夢。お前、『Lu様』に何か聞いてねーの?」
愛抱夢「全然……。なんでこの僕にも内緒なんだろ……僕とLu様の仲なのに……なんで、なんで、なんでぇ~……」

愛抱夢は寂しそうにうつむいた。
そこへ髪を整え終わった金多がカットイン。

金多「わかったー!臨時ボーナスじゃね?ちょうど今日のレース、全負けだったから、すげー助かる~っ」
明星「お前さ、今日のレースだけじゃなくて、毎日全レース、負けてんだろーが」
金多「明星ちゃ~ん、それ言わないでよ~。
 俺が負け続けてるのは、この先、すっげぇ大穴当てて、でっかく儲ける為なんだからぁ」
明星「ったく……コイツに何言っても無駄だったな。――ね? ラブちゃん」

明星はスマホの待ち受けになっているうさぎに声をかける。

――うさぎのラブちゃんは明星が唯一心を開いているペットである。

輝石が上から明星のスマホをのぞく。

輝石「……へぇ、明星、うさぎを待ち受けにしてるんだ」
明星「(!)てっ、てめぇ!勝手に覗いてんじゃねぇ!」

明星は慌ててスマホを隠す。

輝石「今のうさぎって、ロップイヤーだよな。好きなの?」
明星「っるっせーな。関係ねぇだろ」
輝石「俺、昔、ロップイヤー飼ってたことあるから、懐かしいなって」
明星「――え? 飼ってた? お前が?」

明星は輝石の意外な発言に興味を示した。

輝石「飼うというより、保護してたって言うのが正しいかな。うさぎだけじゃなく、捨てられたりしてかわいそうな動物達を里親が見つかるまでうちの施設で保護してた」
明星「はぁ?……施設で保護?」

あまりに壮大な輝石の話に明星があっけに取られていると、金多と夕星も会話に入ってきた。

金多「さすが、輝石はスケールがでっけーよなー。施設作っちゃうなんて、そこまで行くともう福祉事業じゃん」
夕星「ええ。なかなかできることではありませんね。輝石くん、何かきっかけでも?」
輝石「ああ。きっかけは『捨て牛騒動』さ」
金多「『捨て牛騒動』?……何それ」
輝石「昔、狂牛病が流行ったことあっただろ?その風評被害で、牛の価値が下がって、牛が捨てられたことあって。確か埼玉で二頭の牛が町中を走ってたっけ……」
金多「――埼玉の町中を2頭の牛が???」

金多は思わずその図を想像する。
埼玉の町中……走り回る二頭の牛……
すごい光景だ。

夕星「それなら私も覚えています。その後、熊本でも6頭の捨て牛が熊本城周辺をさまよっていたとか」
金多「――熊本城周辺に6頭の捨て牛!?」

金多はまたその図を想像する。
熊本城……その周辺をさまよっている6頭もの牛の姿……。しかも捨て犬ならぬ、捨て牛。なんだろう……なんて哀愁漂う姿だろうか。

輝石「な?哀しいだろ、捨て牛……思い出すだけで切なくなる……」
金多「ああ。捨て牛……マジで哀しいじゃねーか! うん、そりゃあ、なんとかしてやりたくなるよ!」
夕星「確か干支で言うとウマ年の年末の出来事でしたよ、金多くん」
金多「マジで~!? ウマ年に捨て牛なんて、よく分かんないけど、なんか余計に切ない、切な過ぎる~っ!!」

――そんな捨て牛話を黙って聞いていた明星は、輝石に対し、妙な敗北感を覚えていた。

明星もかつて大阪の夜の街に捨てられていたうさぎを保護し、ラブちゃんと名付けて飼い続けている。別のそれを褒めて貰いたいとは思っていない。だって、今、自分がこうやってホストとして頑張ろうと思えたのはラブちゃんがいるから……。

いや、もしかしたら保護されたのは自分の方かもしれない。ラブちゃんのおかげで今があるのだ。そのことに不満も不安もないはず。

――でも、いつも輝石を見ていると、心の奥にモヤモヤとしたものが生まれる。

なぜなんだ……。

自分より恵まれすぎている輝石。
何でもいとも簡単にやってのける輝石。
それに……必死に手に入れたこの店のナンバー1の座もあっけなく輝石に奪われた。

悔しい……

明星が自信を取り戻すには、輝石を破り、再びナンバー1になるしかない。その時、愛抱夢が急に立ち上がって言った。

愛抱夢「あ、Lu様だ!」

その声で一斉にヴィクトリールームの入り口ドアを見つめる5人のホスト達。
――そこには今日も完璧にスマートなスーツを着こなしたオーナー・ルシフェルが立っていた。

ルシフェル「……みんな、集まったな。フロアに来てくれ。話がある」

   ×   ×   ×

ここから先は

6,457字

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?