温泉旅館で蟹づくし 山陰の朴訥とした甲州ワインと蟹スキの完璧な調和
温泉に浸かった後、蟹のフルコースに白ワインを合わせた。
年末に実家に帰省した際、妹夫婦と一緒に両親を温泉旅行に誘う。それぞれの部屋にチェックインして荷をおろし、一部屋に集まる。温泉旅館らしい大部屋で子供たちが走り回り、両親にじゃれつき、皆に笑みが溢れる。幸せなひとときだ。
温泉で息をついた後、宴会部屋に用意された夕食に。メニューは蟹づくしのコース。
前菜のサザエの生姜煮、イカの明太塩辛、エビの甘辛煮、タイの刺身、マグロの刺身に続いて、蟹みそ豆腐、蟹刺し、蒸し蟹、焼き蟹、蟹天ぷら、蟹スキ、蟹飯。生、蒸し、焼き、揚げ、煮、炊きと、様々な調理方法で蟹を味わい尽くす。
合わせたのは日本ワイン。鳥取県北条ワインの甲州品種のもの。日本酒党の妹夫婦が地酒、八郷の純米吟醸をやっている横で、私はワインをマイペースで進める。年末の温泉旅館、蟹づくし、どう見ても日本酒が合うシチュエーション・・・。やはりワインのオーダーがあまりないのか、よろしければとワインオープナーを仲居さんに渡される。一方で仲居さんは蟹の食べ方のショートレクチャーを始めて下さる。コルクを抜いてもらうより、その方が私には必要だ。地方の温泉旅館の牧歌的で温かいサービスが素敵だ。
北条ワイン, 3,300円(レストラン価格)
ボトルに貼られた鳥取県の形のシールがかわいい。
香りには大ぶりの和梨が広がる。大樽などで適度に空気を含ませて仕込まれたか、やや落ち着いた印象。そのため品種特有のヴェジェタルなニュアンスは控えめ。
風味には甲州品種にしてはやや力を感じる果実味、それでいて優しい滋味が染みゆく、果皮からの成分抽出のためか心地よい渋みが広がる。酸味は中庸で的確。果皮の成分のアクセントがあってか、良い意味でどこか朴訥としていて、果実味は武骨さが感じられ、山梨の甲州とは明らかにひと味異なる個性が楽しい。
料理にワインを合わせていく。
サザエの生姜煮に。
生姜とワインの繋がりが良い。サザエ特有のほろ苦さとの相性は少々微妙か。相性: ★★☆☆☆
イカの明太塩辛に。
イカの塩辛に明太子がブレンドされた一品。イカの塩辛は肝の風味を、明太子は魚卵特有の個性的なコクを含み、日本酒以外の酒に合わせるのは賢明ではないが、このワインの朴訥とした果実味は肝と魚卵の生臭みスイッチをみごとに避けて料理に合わさった。相性: ★★★☆☆
エビの甘辛煮に。
ワインと合わせた瞬間に生臭みが痛烈に広がる。こんな可愛い小ぶりのエビのどこの臭みスイッチを押してしまったのか。煮込まれたエビは風味が凝縮していて、ぶつかりの衝撃もその凝縮度に合わせてアップしてしまう。相性: ★☆☆☆☆
タイの刺身に。
上品な脂に、鍛え上げられた筋繊維の食感、皮に近い部分の豊かなフレーバーは目をつぶって食べると赤身の魚を食べているかのよう。豊かなフレーバーにワインの和梨の穏やかな香り、滋味豊かな果実味が絶妙に合わさる。相性: ★★★★☆
マグロの刺身に。喧嘩はしないが赤身に含まれる鉄分との相性は難易度が高い。相性: ★★★☆☆
ここからは蟹のオンパレード。
蟹みそ豆腐に。
蟹みそのコクと磯の香りが大豆のミルキーさでまとまった一品。蟹みその個性的な味わいも、ワインの朴訥とした果実味が包容力を示す。相性: ★★★☆☆
蟹刺しに。
カニ酢を軽く付け、生の蟹の旨味が口内で爆発する。滋味深い山陰の甲州ワインとの相性はグッド。相性: ★★★☆☆
蒸し蟹に。
生で食べるのとは異なる食感と味覚を刺激。程よく残った水分に乗った蟹の旨味は山陰の甲州ワインとの波長とシンクロ。相性: ★★★☆☆
焼き蟹に。
焼かれたことで蟹の水分が飛び旨味は凝縮、またフレーバーが一気に増幅。そこにワインのよく抽出された果皮のフレーバー、朴訥とした果実味が絶妙に調和。相性: ★★★★☆
蟹天ぷらに。
個人的な感想にはなるがやや強い衣の存在感は蟹の風味を楽しむのを少々妨げるか。ここまでの料理をチビチビと食べてワインに合わせてきたので料理を冷ましてしまったこともよくなかった。それでも衣の香ばしさをまとった蟹の旨味にワインの穏やかな果実味は良く調和。相性: ★★★☆☆
蟹スキに。
これが山陰の甲州ワインと素晴らしい相性をみせた。長ネギ、シメジを含む出汁が蟹の風味に重なり、多面的に味覚を刺激する旨味の重奏。ここにワインの果実味の滋味、果皮成分が加える心地よい渋みの奥行きが渾然一体となり完璧な調和を見せる。相性: ★★★★★
蟹飯に。
ご飯ものにお酒を合わせる機会は少ないものの、漏らすことなく相性検証。蟹を前面に出すスタイルではなく、エノキタケ、シメジ、油揚げなどの具材でほのかな蟹の風味を引き立てる仕立て。米の甘みにも乗った柔らかい蟹の風味が、ワインの穏やかで朴訥とした果実味と良く繋がった。相性: ★★★☆☆
蟹づくしのコースに鳥取は北条ワインの甲州品種を。滋味深く、どこか朴訥としたワインのスタイルは、旨味の重奏の蟹スキと完璧な調和をみせ、最も強い印象を残した。
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