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2014/4/20「ラブ・チェイス」

◆天使と悪魔と男役

 私が「ラブ・チェイス」という作品を見ることにしたのは、ひとえにリカさん(宝塚歌劇団元月組トップスター紫吹淳)と水さん(同じく元雪組トップスター水夏希)のダブル主演を見るためである。二人共宝塚時代は本当に華やかでカッコいいスターであった。宝塚時代はお二人とも組替え(異動)の常連だったが、見事にすれ違っている。私は二人が同じ舞台に出ているのをほとんど見たことがない。しかも、今回の役柄は天使と悪魔。二人のバトルが勃発することは想像に難くない。これを見ないという手はない。

 物語は、恋に悩む人間たちを面白半分に翻弄する夢魔(水夏希)を見かねた神が、天使ガブリエル(紫吹淳)と悪魔アザエル(玉野和紀)の二人に夢魔を人間界から連れ出す様に命じるところから始まる。さて、どんなファンタジーだ?と身構えていると、その後の展開は予想の斜め上へと突っ走って行く。(以下は本作品のあらすじに触れています。これからご覧になる方はご注意下さい)

◆男と女、一人二役

 舞台上では、一見何の脈絡もないコント?が次々と繰り広げられていく。二人の男からプロポーズされた女がある理由から二人共振ってしまう。女性にプロポーズしようとする男性が、その条件としてこれまでの「記念日」をすべて言わされる。友人の紹介でネットで知り合った男女が初めて会うのだが、女の子のあまりの要望に男は他人の振りをして逃げる。雪山のテントの中で残された食料をめぐって二人の男女が争う。おかまバーでなぜか運命の出会いをする男同士、だったりする。

 起こり得る様々な「恋」のパターン。そこに夢魔とガブリエルが絡んで来る。夢魔を演ずる水さんは男役時代を再現するかの様なカッコいい「男性」として黒づくめの衣装で登場、女たちをむやみやたらと誘惑していく。かと思えばテンションの高い女性キャラ「ドリちゃん」として男たちを振り回す。まぁ、たしかにこんな人がウロウロしていたら、私たち平凡な人間には迷惑この上ない。かたや天使ガブリエルのリカさんはロングヘアに白い衣装、胸に白い百合の花を付けたの美しい姿で登場。恋に破れた者、思わぬ恋に戸惑うものに励ましのメッセージを与えるのだが、どこか調子ハズレである。

◆「もしも」宝塚の男役が日常に現れたら?

 普通の男女に混じって登場する、リカさんと水さんの宝塚芝居ばりのテンションの高さがメチャクチャ可笑しい。舞台上では、宝塚トップスターの様な振る舞いの男女が突然世間に現れたら、という「もしも」の世界が繰り広げられている。キザでカッコ良くて大げさで芝居がかっていて、そもそも同じ「人間」とは思えぬ抜群のスタイルと存在感と押し出しの強さ。その上、男の夢魔はときおり片方の目を手で押さえながら「オスカル、どこだ」というアンドレの名台詞を吐き、フィガロのお得意のポーズを決めたりするのだから、宝塚時代の水夏希を知る者にはたまらない。

 そしてついにはリカさん演ずる天使ガブリエルまでが満を持して「男」として登場する。あの低い声と慣れ親しんだ独特のキザな台詞回し。男役紫吹淳の復活は強烈だ。男の水さん、じゃなくて夢魔と真っ向から対峙して、ついにバトル開始・・・かと思いきや、物語はさらに意外な方向に展開する。一幕の終わりには、実はここまでのシーンのほぼすべてが劇中劇。恋に悩む若者を対象にしたカルチャースクールの演劇セラピーで、それを本物の恋愛だと勘違いした天使と悪魔がまぎれ込んでしまった、という種明かしがされる。

 この世界では男の夢魔は「クール」、女の夢魔は「ドリーム(ドリちゃん)」、女のガブリエルは「リリー」、男のガブリエルは「スタイル」という名で呼ばれ、周囲の人間たちにはそれぞれ二人の男女であることになっている。それ以外の登場人物も全員本名ではなくあだ名で呼ばれるという設定なのだが、なんだかそういうところまで宝塚っぽいのがおかしい。

◆ロミオとジュリエットにハーミア登場?

 ラブチェイスという作品の面白さは、劇中劇が次々と繰り広げられ、いつのまにかこの劇中劇の嵐の中に、ガブリエルと夢魔が取り込まれて行くところにある。二幕では登場人物たちが全員で「ロミオとジュリエット」を演じる。ロミオ役はクール。つまり、観客はかつて宝塚の舞台で見た水夏希のロミオ姿が見られる。何と言うサービスだろう!。ジュリエット役はリリー、つまりリカさん。リカさんの女役は男役同様にビジュアルの作り込みが凄い上に声まできっちり作ってあるので、ちゃーんとジュリエットなのだ。そして、宝塚ファンにはおなじみロミオの敵役ティボルト役はスタイル。なんと一人でジュリエットとティボルトを両方やってしまう。リカさんの男役演技には「長い春の果てに」のステファンとか、「薔薇の封印」のフランシス風味がふんだんにちりばめられていて、宝塚時代を知る者には美味しい。

 でも、このロミオとジュリエットはシェークスピアが描いた様には進まない。途中で「真夏の夜の夢」が混じりこんで来るのだ。ジュリエットの妹がハーミアになり、惚れ薬が登場し、ロミオは乳母を口説き始める。元々ロミオとジュリエットを演じていたはずが、登場人物たちはそれぞれが好意を抱く人物に思いを打ち明けて、自分自身の恋を成就させようとする。そして、舞台はシェークスピアからどんちゃん騒ぎへ、そしてアクション満載の大活劇へとなだれ込んでいく。

◆「男役」は「男優」よりカッコいい

 普通の男女が身の丈で登場する芝居に、元宝塚トップスター二人だけが宝塚風の誇張された演技で登場すると、まさにそれは天使や悪魔並みにに人間離れしている。そして、男装した女であるハズなのに、困った事にホントの男優さんよりカッコいい。男優陣がギャングの紛争で登場するシーンや、シェークスピア劇の扮装で登場するシーンを見ながら「うん、やっぱり男役の方がカッコいいよね」」と思ったのは私だけではないハズだ。

 共演者の男優・女優の皆さんはミュージカルの常連や新進気鋭の若手俳優さんたちで、
皆さん歌って踊れて芸達者である。だが、物語の設定上は「ギャングの演技をしている一般人」、「ロミオとジュリエットの登場人物を演じようとする素人」なので、そこは割り引いて考えないと気の毒ではあるのだが。
 「男役ってかっこいいでしょ、でしょ、でしょー」っていうのが、要するにラブ・チェイスという物語の裏に流れるメッセージであり、私はその有り難いメッセージをしっかりと受け取ることができた。ありがとう!

【作品DATA】「ラブ・チェイス」は、東宝制作のミュージカルコメディ。紫吹淳、水夏希の元宝塚トップスター二人によるダブル主演。作・演出・振付の玉野和紀は自らも出演。他に原田雄一、野島直人、木村花代、綿引さやか、馬場良馬、青柳塁斗、廣瀬大介、小野田龍之介。2014年4月9日〜24日に東京・シアタークリエにて上演。5月に名古屋、大阪での続演予定。

#takarazuka #宝塚


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