マテリアルの開発者としての建築家像

あけましておめでとうございます。

昨年の末に始めたこのブログ。お陰様で(少ない閲覧数ながらも)好評を頂いています。本当にありがたい限りです。
本年も、色々な建築家の方々と対話していく中で得られた事柄を皆様と共有して、少しでもお役に立てられればと思っています。
何卒宜しくお願いいたします。

本日、書いてみたいのは、昨年末から漠然と考えていたこと。昨今の日本の建築家を取り巻く状況をみていて思った事を書いてみたいと思います。
いつもの話題とは少しことなりますが読んでいただければ幸いです。

きかっけは、スイスの世界的な設計事務所に勤務している友人と色々と話していた際の内容でした。もちろん聞ける範囲の話ですが、事務所に工房があること、そして、そこで、実際の建築に使用するマテリアルの開発もおこなっているという事を少し伺いました。

私は、スイスの、例えばヘルツォーク事務所にも工房的なものがあり、職人も勤務しているのは、色々なところから耳にしていたのですが、そこで行われているのは、木工で模型やモックアップをつくったりしているイメージを持っていたのです。しかし、その友人の事務所では、木工は勿論だと思うのですが、色々な素材を配合したりしてマテリアルのサンプルを作るそうなのでした。
これは、ちょっとした驚きでした。

そして、同時期に、若い建築家の方々の作品を、弊サイトにて紹介させて貰う機会も頂きました。その作品は、小さなスケールのひとつの空間に仕上げを与え、制作家具を設えるというものだったのですが、確かにそこに空間が存在していて、建築であることが分かりましたので、弊サイトでも特集記事としてご紹介させて貰いました。

この作品は、新しく仕上げられた床の素材に、建築家の意思が込められた作り方をされており、そしてそれが、そこで求められる機能に対しても効果的に働いているように思いました。

そこで、私の中で、「マテリアル」という切り口で、この二つの経験がつながるような感覚があったのですね。そして、昨今の日本の建築を取り巻く状況とも繋がるのではないかとも思ったりしました。

現在の日本は、大規模な組織事務所が巨大な建築を手掛けることや、住宅に関しても商品化住宅が建てられる事が大部分であることは間違いないと思います。そして、新築よりもリノベーションという潮流もできつつあり、以前とは状況が変わっていると思います。

その状況下の中、建築家の手掛ける作品の規模感も変わっていると感じます。2016年末に発行された新建築誌を閲覧した時も、その小規模な作品が多数掲載されている状況に、少し驚いたことも記憶に残っています。

例えば、友人でもある403architecture [dajiba]が、最初に手掛けた「渥美の床」という作品があります。( https://goo.gl/mzr68o
これは、マンションの一住戸のさらに一室のさらに床だけを改装した作品です。
私は、いままで、正直なところこの作品をどう見ればよいのかわからなかったです。何が革新的なのか、何が新しいのか。

しかし、先に記載した経験を経て、
この作品を、「マテリアルの開発」という視点で見れば凄く面白いのではないかと思うようになりました。

床を改修・仕上げたのではなく、床に求められる「新しいマテリアルを開発」しそれによって空間を変容させたとしてみてみると、現代日本の社会状況の中で、建築家が行う仕事をクリアに表現した作品なのではないかと思うようになりました。

つまり、プランニングが変えられない、空間構成がつかえない、といった状況の中で建築家が行うべき仕事を示しているようにも感じたのです。(そのような状況は今後増えていくようにも思います。)

また、現代の日本の商品化住宅は、全て既製品で仕上げられていると言っても過言ではありません。しかし、サンプル帳に無数にバリエーションが用意されていると言っても、求められる空間に最もふさわしいであろう、仕上げがそこに存在している可能性は低いと思います。

そのような状況に対するもう一つの回答として、建築家による「マテリアルの開発」は価値を持つのではないかとも思うのです。

そもそも、建築家は、既製品に新しい視点・価値を見出したり、それらを組み合わせたりすることで価値を生み出すという技能に長けている人たちだと思います。例えば合板への塗装に関する知識や、美意識だけを取り出しても凄いものがあると、話していて思ったりしています。

もちろん、今までどおりの、設計という行為に価値があると思っているのは大前提なのですが、社会の状況の変化の中で、建築家の職能の一部である仕上げの選定を「マテリアルの開発」と読み替えてみることで、可能性が広がるのではとも思うのです。

クリアな文章にすることができませんでしたが、変わり続ける社会の状況と、建築家を取り巻く状況を見ていて、漠然と考えていたことを書き綴ってみました。

時々は、今回のような、すこしコアな建築の世界に触れるような話題も書いてみたいと思います。

改めて、本年もどうぞ宜しくお願いいたします。


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