「見方」を固定すると、「経験」が蓄積できる

こんにちは。

今日は、モノの見方について少し書いてみたいと思います。
私自身、これまでに、色々な方の書籍を読んだり、対話をしたりして、考えてきましたが、「モノの見方」という視点では、大学時代にお世話になったエルウィン・ビライ氏と、現在東京藝大の教授をされている、佐藤雅彦さんの考え方の影響が大きかったなあと思っています。その当時のことや、佐藤さんの思想を紹介しつつ、書いてみたいと思います。

佐藤雅彦さんは、当時、電通時代の小池屋のCM等で、知られていてすでに有名でしたが、その後、だんご三兄弟、ピタゴラスイッチなどの国民的ヒットなどにも関わるなど注目を集めていた方です。(今は藝大でより研究的な分野で活躍されていると聞きます。)

私が佐藤さんに魅了されたのは、ある種「才能」という抽象的な概念で語られがちなデザインやクリエイティブな分野を、理論・ロジックによって解明していこうとする姿勢を強く表明していて、なおかつ、実際に作られたものも多くの方々に受け入れられているという事実をリアルタイムで見ていたからです。

そして、私は、同じように感覚で良い・悪いと判断されることもある「建築」を理論立てて考えるヒントを佐藤さんの思想に求めていたのような気がします。

私が、その佐藤さんの思想の中でも、興味を持ったのは、「要素還元」という考え方でした。
説明してみますと、(私の解釈ですが)「面白い」とおもった作品に出合った時、それを様々な要素に分解していく、そして、それぞれの要素がどのように決められているかを注意深く分析していく、そうすると、そこにはある種のルールのようなものが浮かび上がり、「面白い」を生じさせている原因を突き止めることができるのではないか。というような考え方です。

当時、佐藤さんは、慶応大学湘南藤沢キャンパスに勤務されておられましたが、その当時の授業では、映像作品を分析する事を行っており、ある効果を生むためには、シークエンスを何秒で作れば良いのかというようなことを追求していたそうです。(このあたりの話は、広告批評273号に書かれてます。)

この考え方は、私が建築を考え、理解するのに、凄いヒントになるのではと感じたことを覚えています。

同じ時期に、a+uの編集にも大きく携わっていた、エルウィン・ビライ氏とも色々なトピックについて対話する機会がありました。(ビライ氏は、いま、シンガポールに設立された新しい国立の大学の建築学科長を務めています)彼は、『素材の美学』という著書を出版したばかりで、建築をその素材に注目して見ていくことで、建築を理解できると考えていた時代でした。(今、その考えはアップデートしていると思いますが。)そして、色々と議論する中で、建築とは「素材(マテリアル)」、「プロポーション」、「光」の3つの要素が重要だという話が出たことが強く記憶に残っています。

当時の私の中で、そのビライ氏との議論から出てきた、3つの要素の話と、佐藤雅彦さんの「要素還元」という思考が組み合わさって、
「建築」は、「素材(マテリアル)」、「プロポーション」、「光」の3つの要素で、「要素還元」して理解できるのではと、考えるに至りました。

その少し後に、ヨーロッパに建築を見学するための旅に行ったのですが、その際に、歴史を問わず全ての建築物を、上記の「素材(マテリアル)」、「プロポーション」、「光」の3つの要素に注目すると決めて、様々な建築物を訪れました。

このように、視点を自身の中で固定してしまうと、不思議な事に、今までに興味がなかった、歴史的な建造物や教会が、当時、自身が興味を持っていた現代建築と同じように見学できてしまう事に気付いたのです。これは、私自身にとって大きな発見であり、驚きでした。そして、注目するポイントが定まっているため、見たものが経験として、蓄積されやすくなるということにも気づきました。

ヴェネチアの教会の内部空間のプロポーションと、メルクリやヘルツォークによる美術館の内部空間のプロポーションを比較したりと、一気に発想が自由になった気もしました。

それは、「視力の落ちた人が、メガネをかけることで、世界がクリアに見える」というような経験にも例えられるものでした。(私もメガネ愛用者です。)

そして、「見方」を固定する前の自分が、如何に漠然とモノを見ていたかにも気づかされました。

もちろんですが、この建築を見るための3要素は、私自身が納得して、採用したものですので、それぞれの人が、自身の判断で発見・採用すべきものだと思います。ただ、それがどのような視点であれ、一度固定してしまうことで、様々なものが見えてきたり、分析ができるようになると思います。

また、これは、建築に限らず、どの分野にでも言えることだと思います。自身が重要だと感じる要素を抽出する。そしてその視点で、全てのモノを捉えてみる。これは、非常に有意義な手法ではないかと思います。

是非、自身の、モノの見方について考えて、それを固定することを意識してみてください。それは、自身が世界を捉え、分析するための良い「メガネ」になってくれるだろうと思います。



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