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【初愛】~君に捧ぐいのちの物語~④

この駅に降り立つのは、もう4年ぶりだった。懐かしいと思うと同時に津波が来る前の当時の匂いと少し違うかな、とはじめに感じた。
でも、それは致し方ない事だろうね、時はどんどん先に行く。
同じようにあの当時のほとんどが
新しく生まれ変わっていく途中のこの街。
街もまた新たな形に変わっていく。駅の中の待合室だって新しくなっていたもの、人も街も移り行く川の流れのように有為転変していくのかな。
そう、ういてんぺん。

牧野石駅の改札を出て、
いろんな想い出が詰まった駅前広場に出た。バスのロータリーは、
昔のまま。バスのデザインも、昔と変わってないのもいい感じだな。
なんか安心する。

あたりをゆっくりと見渡してみる。

ああ、やっぱり故郷ッていいな。ここで生まれ、ここで育った故郷とその終着駅の広場。
お母さんの胎内にいるような安心感があるなぁ。
でも午前中なのに、人通りが少ないのが少し寂しいけど。

ふうっと深呼吸をして、久しぶりの故郷の空気をゆっくりと吸う。うん、やはり匂いが昔と違う、、、。
まぁ、それは仕方ないかな。
さて、急がないと。時間を大切に使わないといけない。

調べた経路をたどって、道を、川のほうへと向かう。もう何度も何度も歩いたことのある道。右を見て、左を眺めてひとつずつ確かめながら、先へゆっくりと歩いた。

この交差点を右に曲がると、左手に「街あわせ」があると最新のマップには表示されている。この辺は飲み屋さんとかがあったような気がするんだけど、、。
わぁ、あった。大きく「街あわせ」って看板もあるんだ。なんかドキドキするなあ。みんな元気でいるかなぁ。
でも驚かせてしまうだろうなぁ。4年ぶりかぁ。4年も経ったのか、4年、。

「街あわせ」の扉を開けて、そっと中を覗く。もうだんだん、涙が溢れはじめてくる。今日はみんなここにいるかな。

「こんにちは」と挨拶をして、勇気を出して中に入った。
女性が三人見える。。。。あ、みやくみがいた。。。。。。。あふれる涙がとまらなくなる。何でだろう、4年ぶりに会えるのに、嬉しいのに涙が溢れてくる。。。
ほかの2人の女性は見覚えがない。誰だろう。

入口の扉を閉めて、そこに立った時、大きな悲鳴のようなみやくみの声が響いた。みやくみが私を見ながら、驚きの表情を硬直させたまま、動かない。
そして
みやくみは両手で顔を覆って、しばらくうつ向いて嗚咽を我慢しているようだった。やがてその手を離して、あらためて私を睨めつけるように見ながら不思議そうな、悲しそうな強張った表情をしながら、ぽつり、ぽつりと涙をこぼしながら近づいてきた。

その涙を人差し指で拭いながら尋ねてくる。
「え、どうして?どうして?」
座っていた菜月と美瑠が立ち上がって何が起こったのかわからずにみやくみの背中と今入ってきた女性を見ている。
「みやくみ、元気でいた?貴女、とても美しくなったわ」
「本当に、万里江なの?山平万里江なの?どうして、どうして?」
「そうよ、わたしよ。わたしはあまり変わってないかな?昔のまんまかな?」万里江も涙顔でみやくみを見つめた。

「なんて言ったらいいのか、まりっぺはいつも美しいよ、でも少しやせたのかな、見た瞬間に、もちろん万里江だとわかったわ、だから。。。」
みやくみは万里江の足元から顔まで見つめなおして、いきなり抱きついた。
そして、号泣し始めた。万里江もみやくみの背中に手をまわして擦るように抱きしめた。みやくみは、子供のようにただ泣くだけだった。うぉっ、うぉっとしゃっくりのように泣くだけだった。。。。

そしてしばらくして
「万里江、、、信じられないよ~~本当に信じられないよ~~」みやくみのようやく言葉にした震えたつぶやきが、みやくみの嗚咽が静かになった分、「街あわせ」の1階の会議室をいくらかしんと静まった。菜月も美瑠も何が起きているのか、わからない。
ただ、”万里江”というみやくみの言葉に驚きの表情を見せて、お互いを確かめ合うように見つめ合った。

みやくみは、万里江の背中のリュックを下ろしてあげて、テーブルの上に置いた。そして万里江の両手を包み込むように握った。
「わたし、あまりにも、びっくりしてしまって、今も、まだ、頭が混乱状態を、抜け切れてないんだけど、とにかく、万里江、ここに座って。あ、美瑠ちゃん、部屋の暖房、強、にしてくれるかな」みやくみは万里江の手が冷たいので、その手を握りしめながら万里江を椅子にゆっくりと腰かけさせた。

「みやくみ、大丈夫よ。寒くないから。毛糸の手袋を、どこかに落としたみたいで、仙台駅から、ずっと手袋してなかったの」
「ああ、だから手が冷たいのね。ちょっと待って。しばらく私の手袋使って。部屋の中でもしばらく手袋していたほうがいいわ」みやくみは急いで自分のバッグから、毛糸の手袋を取り出すと、万里江に渡した。万里江、は涙で瞼がうるんでいる目をハンカチで拭いたあと、ゆっくりと手袋を嵌めた。
「菜月ちゃん、レモンティ、もう一度沸かし直してくれるかな。出来たら
4人分、作ってほしいんだけど、お願いできる?」
「ハイ、いま直ぐ用意します。お待ちください」菜月は急いでキッチンに向かった。

エアコンの風の音が少し強くなった。それまで動かなかった空気が一斉に対流し始めて、部屋全体が生き返ったように温かい風が流れ始めた。

「ちょっと」男の声が天から聞こえた。皆いっせいに階段の上を見上げた。田辺が呆然と立って、みやくみと万里江を見下ろしている。
「どういうこと?」
「え、なんで?」冷静なのか、思考停止したのか、放心したように独り言を言った。

それを見たみやくみが、田辺を呼んだ。
「なべっち、下に降りてきて。まずは落ち着いて下に降りてきて」みやくみの声はまだ擦れたり、震えたりしている。田辺は手摺りにつかまりながら一歩一歩階段をゆっくりと踏んで1階におりてきた。
そして万里江の横に立って、万里江を見つめながら呟いた。
「相変わらず、フランス人形さんだな。まりっぺ、全然変わっていないよ」田辺はまだ信じられないという表情を残しながら、万里江に呼びかけた。
万里江は田辺を見て、また泣きそうになりながらも応じた。
「だってフランスの血がながれてんだもん」そう言いながら、立ち上がって手袋を取った。
ゆっくりと田辺の前に右手を差し出した。
「なべっち、元気だった。あの頃より少し太ったみたいだよ」
田辺は万里江の差し出した手を軽く握りしめて握手した。そうして初めて少し笑顔になった。
「うん、幽霊やない。本物のまりっぺだ」
万里江は少し微笑んで言った。
「ごめんなさい、みんなにずっと悲しい想いさせてしまって」涙をハンカチで拭きながら、田辺に頭を下げ、そしてみやくみに微笑みを返した。みやくみは、ちょっと間をおいてから美瑠に言った。
「美瑠ちゃんごめん、5人分になったから、菜月ちゃんのお手伝いをしてくれるかな。ミーティングは今日はもう終わり。なべっち、勉強会も今日は中止でいいよね。美瑠ちゃんたちは何がなんだかわからないでしょ。私もまだ動揺して混乱してるの。まずはみんなでテーブルで、レモンティを飲みながら落ち着きましょう」
美瑠は、ハイ、と言いながら台所に行った。田辺は万里江から少し離れた椅子に座って、頭を抱えた。
「もう勉強会どころじゃないよ、みやくみ。まだ信じらんないし」
みやくみは頷いた後、万里江を見た。
「まりっぺ、あの子たち二人はこの牧野石の復興のお手伝いで今ここに泊まってるの。どちらも東京からわざわざ来ていただいてます。美瑠ちゃんはこの牧野石市に移住をすることになったの。ふたりともまりっぺのことは少し話しただけで、ほとんど知りません。あの子たちもまだ何が起きてるか混乱していると思う。でもあの二人も交えて、まりっぺの話を聞かせて頂いていいかしら?」みやくみは万里江に尋ねた。
「大丈夫よ。これまでの4年間の出来事を話したいわ。ところで春べぇ、は今日はどこに行ってるのかな?」
「ひまわりの種の件で、仙台まで行ってるの。夕方ぐらいには帰ってくると思うけど、私、万里江が帰ってきたことを連絡していいかしら?」
「春べぇの電話番号とか、いろんな連絡先、すべて今はまだわからないの。何人かの牧野石の人とは、繋がったんだけど。そこで今の牧野石の状況と、「街あわせ」の細かい経緯とか教えてもらったの。これから話すけど、春べぇには私から直接電話したいの。あとで電話番号教えてくれる?当時の電話番号もまだ思いだせない。もちろん携帯の番号も変わったと思うけど。ここに来る前に連絡したのは、パパだけよ」
「ああ、なるほど、私まだ混乱してるけど、マスターとは連絡がついているのね?でもそもそもなぜ父親であるマスターが万里江が生きていたことをなぜ知らなかったのかしら、。。。あ、ごめんなさい、それも含めてまりっぺ、お話し聴かせて」みやくみは自分を落ち着かせるように、胸に手を当てて、深呼吸を何度かした。

台所から、菜月と美瑠が一緒におぼんにレモンティと、お菓子や飴の入ったボールをそれぞれ載せて戻ってきた。菜月がレモンティをテーブルに置き、
美瑠はお菓子ボールを万里江と田辺の前に置くと、椅子に座った。美瑠は涙顔になっていた。菜月は深刻な表情で、万里江とみやくみの双方を見つめている。

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@作者のお願い:第4話の終わりですが、実は読者様にお願いがあります。この第4話には、ラストにふたつの展開が用意されています。①がいいのか②がいいのか、出来ましたらnoteの下にコメントを書くアイコンがありますので、どちらが物語の展開にふさわしいのか、またはどちらでもない別な展開を望まれるのかコメントをしていただけると嬉しいです。この物語は始めるときに少しお伝えしましたが、「クリエーション」というジャンルとしました。過去に物語の展開を読者にゆだねる手法を一人の作家がしていたように記憶してますが、誰だったのか忘れました。いずれにしましても、なんでも結構ですので、コメントを頂けると嬉しいです。もちろん、スルーしていただくのも全然ありです。読者様個々人にお任せします。第5話以降がそのコメントによって変わっていくこともあり得ますし、作者の思い通りに進んでいくこともあります。そのあたりは作者にお任せください。皆様のコメントや批評など、いただけると嬉しいです。以上、作者のお願いです。

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①田辺が、万里江に向かって呟いた。
「春べぇから、おらは震災以来、もう何度も聴いていたんだ。万里江、戻ってこないかなぁ、帰ってこないかなぁって。あいつは俺の前で涙を流しながら何度も呟いていたんだ、だからもう今、万里江を目の前にして思うよ。春べぇが万里江を蘇らせたんだって、、。そして春べえが初めに創った歌がこの歌だよ。万里江のことを思って創った歌だって言ってたんだよ。春べぇは仮設住宅に行って初めて創った歌なんだよね」
田辺は、スマホを取り出して、その歌を流し始めた。

万里江は田辺のつぶやきを聴いて、歌を聴き始めると再び涙を流し始めた。その歌を聴きながら、やがてテーブルに顔を伏せて、泣き始めた。その号泣はしばらく止まらなかった。みやくみがその背中を優しく何度も擦り続けた。

②田辺が、万里江に向かって呟いた。
「春べぇから、おらは震災以来、もう何度も聴いていたんだ。万里江、戻ってこないかなぁ、帰ってこないかなぁって。あいつは俺の前で涙を流しながら何度も呟いていたんだ、だからもう今、万里江を目の前にして思うよ。春べぇが万里江を蘇らせたんだって、、。そして春べえが初めに創った歌がこの歌だよ。万里江のことを思って創った歌だって言ってたんだよ。春べぇは仮設住宅に行って初めて創った歌なんだよね」
田辺は、携帯を取り出して、その歌を流し始めようとした。
それを見てみやくみは急いで立ち上がり、携帯を取り上げた。
「なべっち、この歌は春べぇが創った歌だから、まりっぺが春べぇと会った時に聴かせるか、それをしないか、つまり春べぇに任せるべきだと思う。
そうすることがいちばん大切なのかな、と今思った。だから、なべっち、今はやめましょう」
田辺はみやくみを驚くように見たが、すぐにみやくみの想いが分かった。
「そうだね、そうしよう」
田辺はみやくみから携帯を受け取ると、ポケットにしまった。

            ~⑤に続く~

@作者注:作者がここで使う歌は以下の歌です。作者が11年前に創ったオリジナルの歌です。よろしければ参考にしてください。田辺が万里江に聴いてもらおうと思った歌は参考のためにアップいたします。聴いた方もありかもしれませんが。

https://www.youtube.com/watch?v=yBmIIio-v5o


             ~⑤に続く~



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