詩(いち、に)
「彼は混合ということにのみ讃辞を送っている」
1
「テノチティトラン──では、メカパルやワカルで運んだ。だがベルナル・ディアス・デル・カスティリョによると、赤い街を囲む水路はすでにカヌーで満たされていた。おれはそれには乗れなかった」
トオヤマくんが言った。
「おまえも乗れないだろう」
*
2
「サンタ・テレーサの遺棄された醜い教会のはずれ、死のたえず打ちよせる沼地にコーラ族の祭禮が執り行われる(「おまえはそれを目撃した」)。うねる紋様の仮面をかむり、黄色い丸薬をふくませて、なじるというか、そそのかすようなリズムで、白線の渦へと身を屈折してゆくのだ。杖を手にした若年の男がゆったりとした足取りで近づいてくる。続いて何人もの男に囲まれる! コアトリクエ(「ウィツィロポチトリのママよ」と、トオヤマくんの声が言った)の石像のまわりに冷たい大理石の聖台が瓦礫のように積み上げられ、(太陽デ)赤茶けた廃墟にはいつのまにか孕める山羊の群れがあった。鈍重な大気を刺すように、三本足の烏が一羽、旋回していた。「我々は、世界に戻ることを望むより、むしろ恐れて、島に住むフィロクテテスのように、自分の孤独の中に住んでいる」(オクタビオ・パス「孤独の迷宮」) バルバスコを採って、川の石を毒に染めよう!」トオヤマくんの声が言った。
3
「おまえは言わない、言わない。おれは、天使を歌うことができない。みずみずしく黒い果肉の甲虫のような堅さを舐めとったときから、たえまない死と出生への期待が湧き上がってくる。おまえは瞼のなかでねむってるあいだ、ふと不可視の鉾に貫かれ、太陽の暗がりを遊泳する稲妻となって、液体的な死を迎えたんだ(それを旋回しながら見守るんだ)。過ちやすき鳥たちにまじって、おまえは生温かい風の質量を感じる。われわれには温いものが冷いものになり、冷いものが温いものになり、堅いものが軟くなり、軟いものが堅くなり、生きたものが死に、まだ生きていないものから生じてくるようにみえる。(Melissus, DK. 30 B 8.14-17) ひとつの大きな死を分有するわれわれは全身の核膜孔がいっせいに裂けヒラケ深きより時の声を聴くと肉桂色と白色との混交した影を積み上げたなかを黯い淵をナゾルようにシテその先に遥ケキ潮ノ目ヲ孕ンダ!」
4
「灰ガ
あなたの眠る場所に
トンデユク」
(声──)
5
トオヤマくんは語り終えた。(そして書き加える)
「彼は混合ということにのみ讃辞を送っている」(アリストテレス『生成消滅論』三三三B一九)
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