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詩(肉体的なもの)


ひのいり

ぼくら姉弟はずっと 柚子の
木に群がる椋鳥を眺めていた
そして考える あのどろりと
熟れきった肉に沈む種こそは
かつて姉が産みつけた 卵だ
円形に散開し整列し食われる
クリイム色の卵から 微かに
甲高い幼児のような笑い声が
聞こえてくる 姉は横でひっ
きりなしに息を吸いこんでい
る いっこうに膨れない影の
ような身体は蛙が失神した時
のようにふるる と揺れぼく
は吐精する たえまない倦怠
と共に歩き始めるとどこから
か野焼きの匂いが流れてきた
川辺だろうか 地平線に薄い
煙がたちのぼり生ぬるい風と
腐臭と黒く細い肢体のような
ねじ曲がった木々をくぐると
下方に横たわる真っ白い姉の
肉の山を甲虫の鞘翅のような
瞳をしたイヌが貪っている音
腹の腐爛した部分から黒い球
のようなものがのぞいている
なめらかな表面にははるか昔
の水食の跡を残す大地が映る
岬には白波が打ちあがり暗い
海から老いた牛が駆けてくる
ような朝に 姉は二段ベッド
の下で 弟の首をしめながら
ふやけきった記憶を沈め 透
明な悲鳴を上げる それでも
深い澱みは消えず ぼくはと
いえば 暗くなったところを
見つめていると手前の木々の
形がぼやけ 姉の群れになる
そして考える 姉の群れはぼ
くをぼくの群れとして見てい
る 姉の群れはいっせいにぼ
くの群れを見つめ いっせい
にぼくの群れを見て泣き 笑
い いっせいに 美しい声を
響かせる 「ひのいり、だよ」
たしかにひのいりだった


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