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別れ船 (田端義夫)。

田端義夫の歌う「別れ船」。清水みのる作詞、倉若晴生作曲で、田端の新境地を開くキッカケになった一曲です。二十歳の時に受けた新人歌手オーディションにて見事合格を果たした異彩の若者は、程なく「島の舟唄」を入れてデビューし、続いて「大利根月夜」がヒットを記録。また「月下の歩哨線」や「男召されて」などの時局歌謡も好評であり、つい此の前迄は名もない職工だった歌好き青年は大化けして、入社後僅か一年余りで会社を背負う看板歌手となりました。同時期に長くポリドールを支えた東海林太郎が退社した事もあり、上原敏に並ぶ主力としてアピールされる事になったバタヤン。その周りには戦後はライバルとしても活躍する近江士(俊)郎や、倉若晴生と言った逸材が集結しており、その充実した音楽環境は否応なく、田端義夫を更なる一流歌手へと成長させるのでした🎼。

「別れ船」はバタヤンの十八番となる「船ものシリーズ」の第一弾でした。最初から出征兵士を送る歌のつもりで書かれたのですが、あまりにも感傷的な歌詞と旋律だった事から御上から叱られた…と、復刻盤の解説で読んだ記憶があります。発売するやレコードはジワジワと売れていき、飾らない庶民目線の歌唱と遣る瀬無いメロディが哀しみに溢れていまして、歌手田端の株が上がった事は云うまでもありません。伴奏もまた秀逸で、イントロでの絃さばきは船が徐々に埠頭から離れて行く様を思わせており、続く笛の音は甲板に吹く寒風の如し。スティール・ギターの揺らめく様な音色は未練の現れでしょうか、全体的に灰色掛かったサウンドは、此の時期のポリドール流行歌の醍醐味と言えるでしょう。裏面には結城道子の「雨の日曜日」が組まれ、昭和15年初夏に発売されています😀。

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