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逢ふ日は寂し (淡谷のり子)。

秋も深まる宵、こんな時はタンゴが聴きたくなります。と云う訳で今夜は、淡谷のり子の歌う和製タンゴ歌謡から「逢ふ日は寂し」を。奥山靉作詞、平川英夫作曲で、佳曲ながら時代の荒波に消えて行った中の一曲です。日華事変が勃発して三年目、歌の世界は時局を反映する楽曲で溢れかえり、検閲も段々と厳しいものとなっていました。そのご時世でも、淡谷のり子は歌う曲のえり好みが激しかったせいか、御上からも会社からも冷ややかな視線を浴びており、提供される楽曲の数も激減していました。そんな頃、少しづつ頭角を表していた作曲家が平川英夫。服部良一主催の響友会のメンバーでもあり、それが縁でコロムビア入りを果たし、昭和12年に淡谷のり子に「別れのタンゴ」と云う曲を提供します。暫く間が空いた後、更に「雨のたそがれ」「黒い薔薇」を提供しました🎼。

「逢ふ日は寂し」は、ジャズソングの歌詞多くを手掛けた奥山靉の作詞で、二番構成のスロー・タンゴ。別れた恋人との僅かな再会を描いており、途中では“暫くでした”と、淡谷自身によるクールで突き放す様なセリフが入ります。どんなに愛し合っていた元恋人に再び会い見え、些かでも嬉しい気持ちが湧こうとも、一度切れた縁は二度とは繋げない…そんな寂しさと諦めが溢れた歌でした。伴奏にはアコーディオン、サックス、ピアノ、ギター、シンバルなどが用いられていて、重く控えめなサウンドが、悲しい再会の遣る瀬なさを伝えます。平川とは此の後も「エッフェル塔の嘆き」「なつかしの心」と組みますが、全てタンゴの旋律で書かれました。恐らく服部が淡谷に一連のブルース歌謡を提供したので、向こうを張ってタンゴで挑戦したのかも知れません。昭和15年夏の発売です😀。

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