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瞼の母 (葭町勝太郎)。

葭町勝太郎、即ち後の小唄勝太郎の歌う「瞼の母」。長谷川伸原作の人情劇が日活で映画化された際の主題歌で、作者自身の作詞、ジェームス・ダンが作曲しています。これは昭和五年に雑誌「騒人」で短期連載された小説が基になっており、映画化に際しては稲垣浩監督がメガホンを取り、無論は脚本は長谷川伸でした。出演は片岡千恵蔵、山田五十鈴、常磐操子、浅香新八郎など。本作は何度も舞台化映画化されましたが、これはその記念すべき第一弾。粗筋は下野を根城にしていた俠客“番場の忠太郎”が、仲間の危急を救ったついでに幼少期に生き別れになった母を探しに、遥々江戸へとやって来ます。そこで実母である“水熊のお濱”と再会し、忠太郎は博打で得た百両を渡そうとするも彼女は頑なに拒否。忠太郎は悲しみながら母親の下を後に。母は妹に促されて後を追うのですが、忠太郎は現れた追っ手の仇を斬ったが為、再び流浪の身となり何処へと去って行きました🍂。

“俺ぁこう上下の瞼を合わせ、じっと考えてりゃ会わねぇ昔のおっかさんの面影が出て来るんだ…それで良いんだ。逢いたくなったら、おらあじっと瞼をつぶろうよ”

此の台詞に忠太郎の悲しい身の上と無念さが滲み出ていて、今見てもグッと来るものがあります。主題歌はA面は根本美津子、そしてB面を勝太郎が三味線伴奏で歌いました。双方間奏に台詞が入っておりまして、主演の片岡ではなく武井純が務めていました。彼は同時期に「別れませう」と云うジャズソングを入れているのみで、果たして如何なる人物かは分かりません。しっとりとして物悲しい旋律で、勝太郎の方は幼くして捨てた我が子、今や渡世人の忠太郎を思う母の心境を綴っており、三味線の他、ピアノ、バイオリンが使用されていて其の音色は悲しみから流れる涙の滴音の様。勝太郎は先輩の二三吉よりも低い音で絞るように歌います。作曲者ジェームス・ダンは日米ハーフで、新潟県の出身。東京音楽学校卒でドイツ留学も果たし、ピアニストとして活躍。そして歌手の村山道子と結ばれて、夫婦揃って音楽活動を続けましたが、昭和25年にダンは急逝しています😔。

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