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皇國の母 (音丸)。

音丸の歌う「皇国の母」。深草三郎作詞、明本京静作曲ですが、深草とは作曲者自身の変名であり、漸く名前が売れ出した明本の初期のヒット曲でした。民謡出身の音丸は、その瑞々しい菖蒲の色を思わせる歌声からか、純邦楽や御座敷ソングよりも流行歌に於いて重宝され、現に「船頭可愛や」「下田夜曲」などが大ヒットして、方々から高評価を得ていました。また時局歌とも縁があり、デビューして間もない頃には「主は国境」「君は満州」を録音。更には「銃執りて」「満州想えば」「防空音頭」と、この方面でも多くの楽曲を残しているのですが、中でも傑作として有名なのが此の「皇國の母」。日華事変勃発後、戦線の拡大に比例して男性らが出征して行き、そしてどんどん戦死者が増えていく中で、銃後を支える女性達を歌う曲が出るのも自然の成り行きだったと言えるでしょう🎼。

「皇國の母」は四番構成で書かれた、シリアスで引き締まった陰旋法のメロディです。白木の箱に納められた丈夫を、神妙な面持ちで胸に抱える家族達の葬列を思わせ、一番では亡き夫が駅頭から日の丸の旗に送られて戦地へと赴いて行く光景が回想で歌われ、二番の歌詞は戦死の報せが来た時に背中の幼子を涙を流す…と云う内容です。間奏にはスティール・ギターが用いられて、健気ながらも悲しみを隠せない未亡人の心情を奏でていました。既に似たテーマである「軍国の母」と云う曲があり、美ち奴のレコードが売れていたのですが、後発ながら「皇國の母」も劣らない人気を勝ち得たのです。コロムビアでは新曲宣伝も兼ねて、自社の街宣車で此の歌を各地の駅や埠頭で流したのですが、歌を聴いて出征兵士や家族らが泣き出して士気を下げる為に、軍からクレームが来たそうです😿。

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