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乾盃 (徳山璉)。

徳山璉の「乾盃」。西崎義輝作詞、阪東政一作曲で、徳さんが遺した夥しい数の流行歌中の一曲です。「侍ニッポン」「ルンペン節」「天国に結ぶ恋」「恋に泣く」など、日を追って売上枚数が上昇していた彼は昭和7年だけで軽く40曲以上をリリースしており、事実上ビクターの大黒柱となっていました。またこの時期「酒は涙か溜息か」を初めとして、嘆きや悲しみを酒で紛らす…と云うテーマの歌が流行しており、徳山も早速「赤いグラス」や「夜の酒場に」を歌ってヒットさせた程。さてさて、ここに紹介する「乾盃」は、嘆きとは逆に恋人との逢瀬をテーマにしている楽しい歌…の筈なのですが、何というか明るい歌詞に反して行進曲調のイカつく重く男臭いメロディと云うのが特徴的な一曲です🎼。

「乾盃」は三番構成で、陰旋法四拍子のリズムで書かれています。小太鼓やギターの奏でる”タッ、タッ、タッ“と云う前奏は重い足取りを思わせる堅苦しい雰囲気なのですが、歌に入ると♬恋人よ、恋人よ…と、楽しげで語らう様な歌詞で意表を付かれます。また軽いタッチの「乾杯」ではなく、契りを交わす盃を思わせる「乾盃」と云う漢字が与える雰囲気も、一層とシリアスさを際立たせている様に感じました。此の歌は勿論酒場を舞台にしているのですが、銀座の様な華やかな酒場と言うよりも場末の居酒屋か、或いは幾つもの煙突が立ち並ぶ工業地帯にある、煤けた町角の屋台を思わせる武骨な世界が浮かんでなりません。裏面は小林千代子の「哀しい女」で、昭和8年初頭に発売されました😀。

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