旅笠道中 (東海林太郎)。
ご存知、東海林太郎の会心の大ヒット曲「旅笠道中」。藤田まさと作詞、大村能章作曲で、有名な時代劇スターの一人である市川右太衛門が主演した映画「東海の顔役」の主題歌として書かれました。本作は市川自らが経営していた“右太衛門プロ”の奈良市あやめが池遊園地内の撮影所で製作され、若き日の清水次郎長を描いた二時間近い大作でした。中川信夫が監督を務め、出演は市川の他に梅田菊三、南光明、山口勝久、白石明子などで、フィルムの配給は松竹が担当しております。粗筋は清水の1博徒に過ぎなかった次郎長が、関東の大親分の竹居安五郎の手先に父親を殺された事から復讐を決意。最初は一匹狼として旅に出ますが、衆寡敵せず呆気なく撃退されてしまいます。一旦清水に帰り、大政に小政、森の石松らを中心に一家を構えて、再度竹居一家に挑むと云う物語でした🎬。
「旅笠道中」は陽旋法で書かれた流れるような朗らかなメロディ、昭和10年代のポリドール流行歌特有の懐きやすい温もりに満ちた一曲です。新曲を出す度に名前が売れて行った東海林太郎ですが、彼は此の歌で更にその名前を深く世間に刻む事となりました。伴奏には全体に渡ってスティール・ギターが効果的に使用され、その音色は不思議な色気を纏っています。東海林はいつもの折り目正しい歌い方ですが、流行歌慣れして来たのでしょうか、独特のなめらかさが感じられます。作曲の大村能章は江口夜詩と同じく帝国海軍軍学隊出身で、編曲と楽器の使い方に定評がありました。一社専属とならず、殆どのレーベルに現れた稀有な作曲家でしたが、SP盤時代の終焉と共に逝去なされたのは残念でなりません。裏面は浅草〆香の歌う映画同名主題歌が組まれ、昭和10年春の発売です😀。
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