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海に咲く花 (浅草小雪)。

浅草小雪の歌う「海に咲く花」。佐藤惣之助作詞、佐々紅華作曲で、鶯芸者ブームの中でひっそりと咲いて、そしていつか散る様に姿を消した浅草小雪の残した一曲です。当時、流行歌の世界では御座敷から上がって来た人気芸者達の新曲が多くリリースされていました。特に地方都市の新民謡ではA面を有名歌手が洋楽器伴奏で歌い、B面を地元に縁ある綺麗所が三味線伴奏で入れて、アピールに一役買っていたのです。そうしてプロの芸者歌手が大いに注目される様になり、そのスター達も大正時代の山村豊子や朝居丸子から、藤本二三吉や南地久龍の世代へと移り代わり、また新潟から来た美声の持ち主たる小唄勝太郎、長野出身の美貌の新人市丸の二人は早々から人気を獲得。特に前者の「島の娘」は今で言う「メガヒット」であり、芸者歌手はドル箱として無視出来なくなりました✨。

「海に咲く花」は、昭和初期に「君恋し」など数多のヒット曲を書いた佐々紅華が作曲しております。陰旋法で二番から成る完全洋楽器伴奏の歌であり、リュート、ギター、フルート等の細い音色が裏寂しい初秋の静かな海辺を思わせます。前奏は「佐渡おけさ」の引用からスタート、歌う小雪の声も勝太郎を思わせるものがありました。一面曇り空、歩く人の影さえない波音だけが響く砂浜、その外れに咲く一輪の花…そんな風景が浮かぶ歌と云えるでしょう。作曲者の佐々は奥山貞吉の勧めで移籍して来たのですが、コロムビアでは思った程のヒット曲はそう多くはなく、主力作曲家の座が新進の古賀政男に移って以降は、お好みの邦楽調流行歌を中心に手掛けて、自然豊かな荒川上流の玉淀を見下ろす邸宅で創作に励みました。A面は中野忠晴の歌う「君と一夜」で、昭和8年秋の発売です🍂。

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