見出し画像

むらさき時雨 (新橋喜代三)。

しばしば歌謡曲の題名や歌詞に出てくる「時雨」と言う言葉。秋の季語であり、降ったり止んだりする俄か雨を指し、派生語として「小夜時雨」「村時雨」などがあります。雨を表す言葉には他にも「春雨」「五月雨」「梅雨」「夕立」とあり、いずれも詩情に富んだ響きを感じます。この辺り、四季折々の豊かな自然に恵まれた日本に住んで来た人々の、慎ましい迄の尊敬と畏怖がよく現れていると思います。さて昭和一桁の半ば、鹿児島の宴席で発掘されて遠路遥々上京して来たのが喜代三でした。新橋の検番に所属していましたが、やがてその歌声が認められて、晴れてコロムビアから歌手デビューする事に。当初は民謡を入れておりましたが、流行歌としては佐々紅華作曲の「乱れ髪」がその第一弾でして、続いてリリースしたのが「大東京小唄」と、此の「むらさき時雨」でした🎼。

「むらさき時雨」は佐藤惣之助作詞、佐々紅華作曲。歌詞は二行八連から成り、片面に四番づつ歌われております。同じ新橋検番所属の芸者である小多美と豊吉の二人による三味線伴奏、他にピアノやフルートが用いられていますが、恐らく前者は作曲者が弾いているのでしょう。喜代三は此の後も「水の京都」「うす雪小唄」を入れましたが、コロムビアではパッとせず。その後はポリドールに移籍して、早速「わしゃ知らぬ」が好評を得、続いて「鹿児島小原良節」が売れて忽ち出演料の高い人気歌手となりました。裏面は洋楽器伴奏で、淡谷のり子が歌っております。こちらは三味線の代わりにマンドリンやリュートが使用されていて、その“か細い”音色がシトシト降る時雨の音を奏でておりました。共に奥山貞吉のアレンジが活きており、レコードは昭和7年秋に発売されています😀。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?