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故郷の夢 (松平不二男)。

今宵の首都圏は久々に肌寒い雨がポツポツと。そんな夜に相応しい一曲が松平不二男の歌う「故郷の夢」で、もちろん彼は松平晃のキングでの芸名です。本名を福田恒治と云い、明治44年に佐賀県の裕福な家に生まれた彼は、長じて東京音楽学校に学ぶのですが、不況の煽りで実家が傾きかけてしまい退学の瀬戸際へと追い込まれます。幸いにも同校には同い年の一年先輩、増永丈夫=藤山一郎がおりました。家計が苦しい為に仕送りが細る事を相談すると『退学を覚悟の上でなら…』と、念押しして一度録音に訪れた事がある日東レコードを紹介。吹き込みのテストにもピアノ伴奏で立ち会い、見事に合格すると昭和7年夏に大川静夫の名前で「夏は朗らか」「讃えよ若き日」の裏表で歌手デビューを飾りました。彼の最大の幸運は江口夜詩との出会いであり、早々から快進撃を続けたのです🙂。

「故郷の夢」は西岡水朗の作詞で、江口と組んだ楽曲では通算して早くも17曲目です。三番構成の緩やかなメロディで、伴奏にはアコーディオン、バンジョー、バイオリン、ピアノ、クラリネットなどが確認でき、全体的に暗めのサウンド。歌詞は都会に一人出て来た若者を描いているのでしょうか、アパートや下宿の窓から都会の夜空を眺めては郷愁感に浸り、ただ一人きりで故郷に居た頃を偲ぶと云う内容でした。松平はデビューして半年でしたが、一曲毎に歌唱が洗練されており、初期の辿々しさも幾分か改善されている事が歌声から感じ取れます。キングでの松平のキャリアは昭和7年秋に出した「島で一夜を」から始まり、その後も「口笛吹いて」「椿咲く島」「空の行進曲」「マストの船歌」と歌い続けて、翌年夏の「振分け小平の唄」まで、全11曲をリリースしました😀。

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