見出し画像

浪子の唄 (中野忠晴)。

中野忠晴の歌う「浪子の唄」。内山惣十郎作詞、奥山貞吉作曲で、オリエンタル映画「浪子」の主題歌とあり、云うまでもなく此は徳冨蘆花の小説「不如帰」が原作です。本作は明治31年から半年間、國民新聞に連載された哀話であり、陸軍の将軍の一人娘である浪子の短く悲しい一生を描いています。18歳の時に意地悪な継母から逃れる様に海軍士官の武雄と結婚するも、彼は日清戦争で出征。その間は武雄の義母と暮らすも、折り合いが良くない中で浪子は結核を患い、やがて離縁されて病の床へ…と云う流れです。発表後大変な人気を呼び、何回か舞台化映画化されたのですが、此の主題歌は作者の没後に製作された「オリエンタル発声映画」バージョンの為に書かれました。田中栄三監督で、キャストとして水谷八重子、汐見洋、大日方伝の他、古河緑波や大辻司郎も出ていました🎬。

「浪子の唄」は浅草で活躍した作家の内山惣十郎が四聯の歌詞を書き、編曲家もである奥山貞吉自らがスロー・トロットのメロディを付けています。物語の流れに沿った歌詞で、漸く訪れた幸せもあっという間に去り、夫とも引き離されて寂しい籠の鳥となる身を、中野は語る様に寂しく歌います。間奏にはヴェルディのオペラ「椿姫」の劇中歌である「そは彼の人か」の旋律が、バンジョー、バイオリン、サックスの伴奏で二度出て来ますが、その椿姫と浪子は物語上重なる所が多いので、中々上手いチョイスと言えるでしょう。中野忠晴はデビューしたばかりの新人であり、これが第一弾の「夜霧の港」に次いでリリースしたセカンド曲。後年の透き通る様な声とは違った、辿々しい歌唱が印象的でした。裏面は関種子の歌う「不如帰の唄」で、レコードは昭和7年初夏に発売されています😀。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?