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恋の鳥 (荘司史郎)。

荘司史郎の歌う「恋の鳥」。小説家の久米正雄の作詞、原野為二作曲で、久米原作の「沈丁花」が松竹で映画化された際の主題歌です。此の物語の原作は東京大阪朝日新聞の連載小説であり、名もなき天才的な若き画学生を描いております。主人公の青年は大御所画家の倅なのですが、保守的な父親は自身の作風を踏襲する兄を可愛がり、新しい絵を求める次男に冷たく当たるばかりで、とうとう破門追放の憂き目に。困窮する中である芸者と知り合い、そして励まされ、再起を図るべく絵のコンクールに出す作品製作に取り掛かるのですが、哀れにも病に侵され力尽き亡くなってしまいます。しかし一命を賭けて描いた絵は大賞に輝く…と云う物語でした。全12巻で、監督は野村芳亭、出演は岡譲二、竹内良一、田中絹代、川崎弘子など。昭和8年11月16日に公開されています🎬。

「恋の鳥」は破門された主人公の青年を歌っており、感傷的な三拍子のワルツで書かれております。荘司史郎とは、デビューしたばかりの東海林太郎の変名で、既にトウの立った35歳のおじさんでした。しかし癖のないその美しいテノールは、二十歳前後の若者を歌うには充分であり、窮乏した主人公の哀しみが存分に溢れております。作曲はパルロフォンから来た原野為二、移籍後も引き続きディレクター兼作曲家として活躍するのですが、此の歌がコロムビアでの最初の一曲となりました。伴奏はアコーディオン、バイオリン、ビブラホン、フルートなど。終奏で高音を聴かせるアコの音色はどこかシャンソンの様であり、まさに夢破れて命儚く散って行く青年の運命が、悲しくも美しい旋律となって昇華しているのです。A面は赤坂小梅の歌う同名主題歌で、昭和8年秋の発売でした😀。


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