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しんとろとろり (日本橋きみ榮)。

日本橋きみ榮の歌う「しんとろとろり」。佐藤惣之助作詞、大村能章作曲で、松竹下加茂作品「雪之丞変化」の挿入歌とあります。戦前戦後何回も映画化された人気時代劇であり、原作は三上於菟吉の書いた新聞連載小説でした。女形の歌舞伎役者が両親の仇を討つと云う内容ですが、本作では主人公雪之丞に瓜二つの盗賊“闇太郎”が活躍して、第二の主役としても人気を攫いました。此の時は衣笠貞之助監督がメガホンを取り、脚色は伊藤大輔が担当。主演は林長二郎こと後の長谷川一夫、千早昌子、伏見直江、藤野秀夫等が名を連ねております。映画は昭和10〜11年の間に三篇に分けて公開されており、いずれも大ヒットを記録。矢張り林長二郎の中性的なルックスと演技力が物を言ったのでしょう。彼の人気は完全に不動のものとなり、また時代劇の人気も黄金期真っ只中でした🌟。

「しんとろとろり」は、日本橋きみ榮のポリドール移籍後の一曲です。江戸情緒溢れるしっとりとした歌ですが、伴奏は完全に洋楽器のみの構成であり、昔の面影が残る夜の浅草や柳橋界隈が浮かぶ様な雰囲気。「しんとろとろり」とは一見造語の様な曲名ですが、これは男女の仲が濃厚である事を差す古い言葉で、油のトロリとした様を意味する擬態語が転じたものと思われます。きみ榮は東京都出身で、その名の通り日本橋の検番に属しており、当初は日東レコードの東京支社で吹き込んでおりました。豆千代らと並ぶ美人芸者歌手として人気を獲得し、戦後に至るまで活躍。近年ビクターから円熟期の録音が復刻された事は記憶に新しいでしょう。昭和40年代の懐メロブームでも活躍しており、既に故人だった新橋喜代三の「明治一代女」を歌っている映像を見た記憶があります📺。

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