作品紹介【霞たなびく〜朧の女王 飯豊皇女〜】


かすみたなびく〜おぼろの女王・飯豊皇女いいとよのひめみこ
主人公:飯豊皇女いいとよのひめみこ(古代天皇空位時の女帝)

5世紀後半大和の地…

〜天皇弑逆しいぎゃく

安康天皇あんこうてんのうが連れ子であった眉輪王まよわのおおきみに寝込みを襲われ暗殺される。

全ては人の寝静まった静寂せいじゃくの中で始まった。

長兄のむくろを前にその対応を巡って次期皇位継承者候補ともいうべき残された兄弟間で、お互いがお互いの共謀きょうぼうを疑い感情的な摩擦を強め、次第に喪に服す事も忘れてののしり合いとなった。

静寂から狂騒きょうそうへ。

そして…

暗闇に一際ひときわ大きい咆哮ほうこうがこだました。

・・・

事件は起こるべくして起こったのだ。

末弟の大泊瀬皇子おおはつせのみこは心に秘めし野望をこの時とばかりにき出しにして、もう後戻りの出来ない狂気に踏み込んだ。

まず次兄である八釣白彦皇子やつりのしろひこのみこを一刀のもとに斬り殺し、次に同じく兄である坂合黒彦皇子さかあいのくろひこのみこ眉輪王まよわのおおきみと共に最大氏族であった葛城円かつらぎのつぶらやかたに逃げ込むや、館を囲い込み氏族諸共焼き殺す。

そしてその混乱に乗じて声望せいぼう高く次の天皇の衣鉢いはつぐべき位置に最も近いと目されていた従兄弟の市辺押磐皇子いちのへのおしはのみこと、その弟の御馬皇子みまのみこまでをも騙し討った。

そして長兄であった安康天皇の敵を討ち政敵を全て排除した大泊瀬皇子おおはつせのみこは新しく雄略天皇ゆうりゃくてんのうとして即位する。

そんな時代にまだけがれを知らない純粋無垢な少女だったのが市辺押磐皇子いちのへのおしはのみこの娘の飯豊皇女いいとよのひめみこ16歳であった。


彼女は父の死を知るとすぐに弟の弘計王をけのみこ6歳と億計王おけのみこ5歳を難から逃す為に秘かに隠し、地方に匿った。

折しも近江おうみ国の彦主人王ひこうしのおおきみと息子の男大迹王をほどのおおきみ6歳も邸宅に遊びに来ていたが、彦主人王ひこうしのおおきみは巻き添えにあい殺され、男大迹王おほどのおおきみは母である振媛ふりひめと共に脱出するも、その後は母の実家である越前に避難せざるを得なかった。

ちなみに男大迹王おほどのおおきみとは後の継体天皇けいたいてんのうである。

しかし…それはまた後の話し、、、


飯豊皇女いいとよのひめみこは騒乱のあと雄略と相対峙する。

弟たちは何処だ、と。

しかし頑なに飯豊いいとよは口を割らない。

雄略はおどしめいた処分を一旦は口にするが巫女的な神格を帯びたその姿に少し躊躇ちゅうちょが入り混じる。

弟たちには既に刺客が放たれていた。

・・・

しばらく雄略ゆうりゃく飯豊いいとよと沈黙を過ごしていたが、けたたましい足音と共に部下から急ぎの一報が入る。

匿った場所で仕留め損なったものの崖まで追い詰め渓谷けいこくに転落。

遺体は確認出来なかったが2人共生き残る事は不可能であろうと。


飯豊いいとよは不問に付された。



その後の雄略ゆうりゃく天皇は凄まじく、国内を徹底的な武力制圧のもと専制君主として君臨。

しかし年月も過ぎ、老いを感じ始めた雄略は次の後継者を求め始める。

天皇として天下を睥睨へいげいして十数年。

あまりにも敵となり得る勢力を雄略は潔癖なまでに潰しすぎたが故に、独裁者である雄略自身を揺るがす様な存在も一切認めなかった。

そしてそれは溺愛できあいした正室の子の白髪皇子しらかのみこの邪魔をする存在を消そうとする態度にも繋がり、朝廷は前途の不安から不穏な空気に包まれていた。

その名の示すように生来色素がなく髪が白く病弱であった白髪皇子しらかのみこは子を授かる事が難しかったが雄略は望みを捨てず、また白髪皇子も期待に添えるように健気けなげな姿勢を見せた。

しかし問題は一向に吉報をもたらす気配もなく、ただただ時間だけが過ぎていった。

皇位は一時空に浮き、だからと言って誰も口を挟めなかった。

雄略ゆうりゃくは余りにも恐怖によるむごたらしい血を流し過ぎたのだ。

しかし他に全く候補がいない訳ではなかった。

それが愛妾あいしょう吉備稚媛きびのわかひめが産んだ星川稚宮皇子ほしかわのわかみやのみこである。

ただし星川皇子ほしかわのみこ衣鉢いはつぐという事は吉備氏による大和朝廷の乗っ取りを意味した。

徐々に雄略ゆうりゃくの牙城はほころびを見せ始めた。。。


そしてある山奥では…

元気な2人の少年がのびのびと暮らしていた。

名を変え身分も捨て生き延びていた弘計王をけのみこ億計王おけのみこである。

漂流に身をさらわれ流されていた王子たちであったが運良く川岸に体が乗りあげられ九死に一生を得た。

そしてその際に偶然通り掛かった神仙の道を追い求めるおきなに救われ日々順調に育っていたのだ。

兄の弘計王をけのみこはこのまま平和に一生を終えるつもりでいた。

弟の億計王おけのみこは仇を討つまでは死んでも死に切れないと武人として日々鍛えていた。

彼らの本当の名は誰も知らない。


そんな事は露知らず飯豊いいとよ雄略ゆうりゃくとの対決姿勢を強めていた。

水面下で雄略との攻防を繰り広げ耐え忍んできた時代は終わったのだ。

あの忌まわしき騒乱の中に幼少の身でありながら逃げ延びた男大迹王おほどのおおきみたくましく成長を遂げ、北越で雄々しく旗印を掲げる。

越前で育った彼は成人するや父の領地であった近江おうみを雄略の腰巾着から奪い返し手中に収めていた。

飯豊いいとよはここに至って完全に雄略と敵対する事を決断した。

父の無念を晴らす。

その一心で飯豊いいとよはここまで心を強く持つ事が出来て、その想いが今ここに集約され一気に輝きを放とうとしていた。

しかし時代は無常にも正しさとは無関係に鳴動めいどうし始める。

弘計王 をけのみこ億計王おけのみこの2人に追手の魔の手が近づいていたのだ。

大臣おおおみ平群真鳥へぐりのまとりは崖からの転落を疑い密かに任務を続行させていた。

成長し街へ繰り出した彼らは庶民とは違う雰囲気をまとっている為に疑われ、執念の網に引っ掛かった彼らは急襲きゅうしゅうされ丹波たんばから播磨はりまへ逃げ潜んだ。

雄略の亡霊ともいえる密令みつれいに従う急襲きゅうしゅうは失敗したものの、弘計王をけのみこ柳行李やなぎごうりから出て来たのは王の勾玉まがたまであり、その存在が遂に捉えられたのだ。

王子たちは逃げまどうだけではなく対決する必要が生じた。


その頃朝廷では…

吉備稚媛きびのわかひめほうけて寝たきりの雄略ゆうりゃくに息子を次なる天皇にと、毎夜甘美かんびささやきと共に耳元で吹き込んでいた。

しかし死を漠然ばくぜんと覚悟し、意識を朦朧もうろうとさせながらも雄略の選んだ後継者は白髪皇子しらかのみこであった。

雄略ゆうりゃくは老いてもやはり国家を背負う偉大なる大王だいおうであった。

雄略ゆうりゃくは夜が明けたらおおやけに後継者を告げると宣言。

、、、

しかしその夜雄略ゆうりゃくは息を引き取った。


果たして守りきれるのか大和朝廷やまとちょうていを…


王朝おうちょう玉座ぎょくざを守る為に立ち上がる、飯豊皇女いいとよのひめみこ
こしの王として力を持ち手をたずさえる、男大迹王おほどのおおきみ
知恵にちょうじ平和と幸せを願う、弘計王をけのみこ
武力にちょうこころざしに燃える、億計王おけのみこ
病弱である事で朝廷を左右する、白髪皇子しらかのみこ
白髪皇子を支え続ける忠臣ちゅうしん大伴室屋おおとものむろや
朝廷乗っ取りをくわだてる妖女ようじょ吉備稚媛きびのわかひめ
その息子であり暴力の権化ごんげ星川稚宮王子ほしかわのわかみやのみこ
稚媛の元恋人で吉備きび王者おうじゃ吉備上道田狭きびのかみつみちのたさ
雄略の側近そっきん辣腕らつわんを振るう大豪族、平群真鳥へぐりのまとり
葛城かつらぎ支流しりゅうであり再興さいこうを望む、蘇我高麗そがのこま
朝廷に反旗はんきひるがえす機会を探す、筑紫君磐井つくしのきみいわい
武蔵むさしの地においていきおさかんな、笠原小杵かさはらのおき

古代朝廷の存亡そんぼうけた戦いが今始まる


そんなお話。

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