らぶルーレット〜逆転恋愛白書〜第1話

第1話:婚活マニアじゃない!

数々の結婚相談所や恋活婚活サイト、マッチングアプリに登録して運命の相手探しをするも、余りにも高すぎる理想を求めるあまり完璧に条件が揃った相手には、いつまで経っても巡り合わず苦悩する32歳OLの赤井イト。

そんなある日ふと訪れたバーでクダを巻いていると、怪しげな老婆から話しかけられ酔った勢いで結婚相談という名の愚痴を…

「あのね…」

「私は普通の男で良いの!ふとぅ〜の男!」

「年収は最低600万円以上で正社員、大学はMARCH程度はクリアしてて、身長は175㎝以上の普通の身長で普通の顔で普通の体型、もちろんハゲデブお断りで、40歳まででジジィは勘弁、当たり前だけど長男以外で、清潔感があって、常識があって、マナーがしっかりしてて、会話がちゃんと出来て、何よりレディーファーストの何でも許してくれる優しい男。」

「要は普通の男よ!」 

「だけど…だけど、だけどぉ!その普通の男がどう言う訳か、全然わたしの周りにはいないのぉ!?」

「何で?…何か私、何かワタクシ悪い事でも、し・ま・し・た・かってんだよっ!!!」

黙って頷いていた老婆であったが、心に寄り添うようにヒッソリと口を開いた。

「そりゃ可哀想に。それでそんなにお酒を。」

「では、貴方はそういう相手と巡り合いたいんじゃね。」

イトはうつらうつらと眠りに誘われながらも断言した。

「当たり前だぁ!!そもそも私みたいな良い女を放っておくなんて、世の中の男は間違ってるぅううううう!」

泣き崩れるイトに老婆はニコッと微笑んで

「ではもし貴方が〇〇を望むのなら…」

朦朧と意識が薄らぐ中で、老婆が何やら話かけている。
うんうんと頷くも、理解してる様なしてない様な、何やら色々と数十分ほど説明してくれていた様だが、気がついたらタクシーの後部座席に揺られていたイトは、ハッと目を覚ました。

古ぼけたデータがバグって反芻する様に、イトの頭の中では同じ言葉が何度もリピートされた。

もし貴方が望むのなら…

望むのなら…

のぞ…む 

「あ、まずい。なんか勢いで契約しちゃった様な…」

必死で記憶を辿る。

老婆が姿を消した後カウンターに突っ伏したイトは、バーテンダーに介抱されながらタクシーまで乗せてもらった事は朧げながら思い出してきたが、老婆の言葉がなかなか思い出せない。

「ん〜っと、マスターにいつもみたいに…」

「って、あれ?なんか変だ」

周りの何かがおかしい。

というより、マスターの顔が違う、、、

「そうだ!思い出した!!!」

イトは老婆との契約を思い出した。

コレから貴方と巡り逢う異性の世界観が逆転する魔法をかける。
例えば…
イケメンはブサメンに
ブサメンはイケメンに
金持ちは貧乏人に
貧乏人は金持ちに
性格良しは性格悪しに
性格悪しは性格良しに
などなど…

しかし全てではない。

もしかしたらルックスや体型が逆転しているかもしれないし、財力や金銭感覚が逆転しているかもしれないし、性格や頭の良し悪しが逆転しているかもしれない。
何かが逆転していて、それは1つかもしれないし、複数かもしれないし、全く何も変わらずそのままかもしれない。
それは出逢う人によってそれぞれ違う。

そこで貴方はその中から選び抜いた異性を見つけ出し運命の相手を見つけるのだ。

条件の変化によって今まで手が届かず接点のなかった様な別世界の人間だと思っていた好条件の相手も、もしかしたら貴方の周りに現れるかもしれない。
ブサイクで貧乏な性格が悪い人間の全てが逆転要素だとしたならば、それはイケメンで金持ちで性格が良い人間で、そういう奇跡に巡り逢えるかもしれない。
ただしそのままである可能性も当然ある。
メリットは眠っている掘り出し物と遭遇する機会が訪れるという事で、デメリットはその条件が目の前にいても分からないという事だ。

このまま婚活を続けていても同じような相手にしか巡り逢えないだろう。
だとしたらギャンブルしてみないかと。

運命の相手ともし巡り逢えたならば、それは魔法が解ける時。
両想いになり口づけを交わす、その時である。

そんな馬鹿げた事が起こるもんかと、勢い任せで契約した事を、イトは思い出した。

「ただ…もし〇〇を望むなら、××を条件に願いを叶えようってババァは言ってたけど…何だっけ???」

約束させられた内容はど忘れしたものの、そもそも世界が逆転するなんて不思議な事はあり得ないし、契約したと言っても口約束だし、なんら金銭的身体的な被害のない事を確信して、イトは老婆が放った数々の言葉を真面目に思い出すのを止めた。

「あぁこんな怪しげで訳のわからない婚活まで斡旋される様になるなんて、私も舐められたモンだ。」

「ったく、私は婚活マニアじゃないっつーの!」

しかしイトを取り巻く世界線は既に大きく変わっていたのだ。
現実は既に魔法にあやどられていた。

果たしてイトは運命の相手を見つけて幸せになれるのであろうか

そして、それはどんな相手なんだろうか

イトの不思議な婚活が新しく始まった…が、本人はまだ知らない。

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