知らず知らずのうちに、心が狭くなっている
それは、アイスランドで氷の洞窟ツアーに参加した時のことだった。
1泊2日で、ヴァトナヨークトル氷河や滝などを回るツアー。寒かったが、ここでしか見れない景色は見ることができた。そして次の日に飛行機でロンドンに飛ぶ。ここまでは完璧だ。
しかし、思わぬハプニングが起きる。
全てのツアーの工程を終え、首都レイキャビクに戻る。その最中だった。なんと、天候が悪くて道路が封鎖されているという。
ツアーガイドのクリスティーナはこう言った。
「今日は帰れないかも」
車内がざわつき始める。次の日の朝にフライトを取っている者もいる。僕もそうだ。
カナダ人のカップルも同じツアーにいたが、彼らは僕よりも早い飛行機に乗る。
当然、帰れなければ飛行機には乗れない。
せっかくロンドンまで飛行機予約したのに。
焦りと苛立ちが出てきた。この飛行機補償してくれるんかな。明日どうしよう。飛行機を飛ばすとまた新しい飛行機を取らなければならない。前日予約は高い。なんとか帰れないものか。祈りに祈っていた。
しかしそれは無駄だった。30分後、クリスティーナは近くのホテルに車を止め、言った。
「今日はもう動かないからホテルに泊まろう。ホテルは無料で手配した。」
ん?もう動かない?迂回して帰るとかちょっとは粘らないの?明日の飛行機諦めるの確定では、、?どうするの?アイスランド永住?
いろんな考えが頭を巡らせる。この時明らかに苛立っていたと思う。
その時席の後ろから「Thank you クリスティーナ!」という声がした。
見ると、あのカナダ人カップルだった。
彼らもまた飛行機を諦めるのが確定し、また予約し直さなければならないにも関わらず、ツアーガイドにThank you!という暖かい言葉をかけたのだ。
そうだ。自分は何を苛立っていたのだろう。レイキャビクに帰れないのは、ツアーガイドじゃなく、天候のせいじゃないか。彼女は何も悪くない。むしろ良くやっている。
この瞬間、ふと我に返った。自分が心が狭くなっているのを肌で感じた。
大学4年生の時にインドに行ったが、その時も電車が20時間遅れたりなどのハプニングはあった。観光日数は減ったが、インド旅が終わる頃には確実に心は広くなっていた。
しかし今はどうだろうか。日本で2年以上も引き篭もり、またヨーロッパに慣れていたせいで、明らかにサービスに求める質が高くなっている。
知らず知らずのうちに、自分の心はあの時より確実に狭くなっていた。そしてその現実を、アイスランドでカナダ人カップルに気付かされた。
ありがとう君たち。
次の日、乗る予定だった飛行機の時間が過ぎた後、無事レイキャビクに到着。クリスティーナは僕がバスから降りる時に、遅れてごめんと謝ってくれたが、笑顔で「No, problem! Thank you!」と言い、握手を交わすことができた。
失うものは多かったが、得るものも多かった。
その日の飛行機は諦めたので、次の日の飛行機を急遽予約し、結局昼間はワールドカップ決勝を見て、夜は4日粘って見れなかったオーロラツアーに参加することにした。
その日に初めてオーロラが見れた。
飛行機を諦めたからこそ見れたオーロラ。
自然のせいで飛行機を諦めることになったが、自然のおかげでオーロラを見ることができる。
自然に泣かされ、自然に感動する国、それがアイスランドだ。
こうして次の日、予定より1日遅れて飛行機に乗るべく、空港へとバスで向かった。
……………
ここで終われば完璧だったが、この時はさらに2日連続で飛行機が欠航し、予定より3日遅れてロンドンに行くという現実を僕はまだ知らない。。。。
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