見出し画像

【2022年4月1日】江藤香奈に、萌死ィ!!!

 【2022年4月1日付】

 三河安城をば通過せり。のぞみ号の、疾きこと風のごとく、侵掠すること火のごとく、かの今川義元公の領国をばとく過ぎて、清須城下の手前にて一時の停車をせんとす。

余が東行せん折りには、旧帝大のクラウゼヴィッツ教授の門下にて斯界をわがものにせんとの野心も、心ある人はいかようにか見けむ。今にして思えば、おのが夜郎自大を愧ずるのみ。富士の霊峰も余の心をとらえず、ただただ、紙工場の煙をば、鳥辺野の煙と見ける我が心は、いずくにかある。青雲の志などついえしか。あらず、これには別に故あり。

感傷に耽溺するにはいと易ければ、ツイ廃とならむもことわりなれど、余は書き物とてPCに向かうなり。

余は武藤頼尚。旧帝大のクラウゼヴィッツ教授門下にて、青雲の志、道半ばなるを嘆きしが、教授、東行を勧めし。大阪にては余に出番なし。東行し、大通りにて旗をたてよ。余は、中学・高校・駿台にて右に出る者つねにありて、旧帝大にてもかわらず。余の講義ノートは石橋にて紙価を高めしかども、答案用紙に余の文言あまねくして、同門の中に埋もれぬ。余が秘めし野心を見抜きし伯楽は、クラウゼヴィッツ教授なり。

東行し、町田に拠点を構えしが、余を有用に使役する者現れたり。馬場町なり。「馬場町」。大阪の夜のタクシーにて問わば、「馬場町(ばんばちょう)」を知らぬ者はなし。馬場町は、余が町田より霞が関・永田町へと見聞を広め、木村汎・袴田茂樹・下斗米伸夫・上野俊彦など、今をときめく学識者、鳩山邦夫の政界人、某A省の官界、経団連に出入りせし企業人、時の日露外交に通暁せし殿上人と親交を結びしをことのほか喜びけり。47都道府県競争にて、神奈川県警をば打ち負かし、大阪府警を警視庁の次の席につける快挙をば果たしぬ。

或る日の夕暮なりしが、余は菅原神社に参拝して、町田高校を過ぎ、小田急町田駅第2踏切をわたりぬ。今この処を過ぎんとするとき、鎖(とざ)したる寺門の扉に寄りて、声を呑みつつ泣くひとりの少女あるを見たり。年は16、7なるべし。この青く清らにて物問ひたげに愁(うれひ)を含める目の、半ば露を宿せる眼鏡の覆う顔立ちをば、何故(なにゆえ)に一顧したるのみにて、用心深き我心の底までは徹したるか。

わが臆病なる心は憐憫の情に打ち勝たれけり。

「君、何ぞ泣きたまふか」

少女の嗚咽は、夕の静寂(しじま)をかすかに波打てり。
 少女は、江藤香奈と名乗りけり。

「君も知るべし、滝高嶺(たき・たかね)を。原町田の劇場の主(あるじ)なり。我、オーディションに落ちたり。先輩と吹きたかりけるを」

余の心は、江藤香奈に奪はれぬ。

原町田のとらふぐ亭の水槽に寄りて、我が大胆なる振舞におどろきぬ。

「彼、君に似れり」

 水槽に泳ぐは、ふぐなり。

「君、朝御飯に何をば食らふぞ」

「フレンチトーストなり」

「我、君を馳走せん。いざ食はむ。君を」

 クレープ屋の女主人は、艶なる微笑の眉間より、余の猥言を睨せり。
余、たちどころに居ることもさはりありて、江藤香奈の手をひきて、入店せり。
皮刺し・ブツギリ・てっさ・白子・ふぐ鍋・・・・・・ひれ酒を除く美食をば、江藤香奈に饗ぜり。その美味なること、たちまち江藤香奈をば、魅了す。

「君、遠慮することなかれ。余は黄金カルトの持ち主なれば」

 余は年会費無料の黄金カルトにて毎夜決済せり。

我学問は荒(すさ)みぬ。

みぞれ舞い落つる日なりしが、余は、江藤香奈の歓心をひきつけんとするあまり、天に向かい、原町田の路傍にて叫びぬ。

「余を『原町田の王』と認むる者どもよ。こは、『ドンペリ』なるぞ!」

「万歳!万歳!万々歳!」

歓喜の声が原町田にとどろく。

余は、ドンペリをば、シャッフルして虚空に泡沫を飛ばしけり。
第二のドンペリをば、道行く老若男女に振る舞いけり。
道行く人、一人の例外とてなく、余をば「原町田の王」と礼をつくしたり。

我学問は荒(すさ)みぬ。

西より、たよりあり。
クラウゼヴィッツ教授の定年なり。
余は数学IIIを習得せざるがゆえに、教授の生年に六十余年を和する数字と、西暦年号とを比することを怠りけり。

我学問は荒(すさ)みぬ。

余の畏友、大手前久美子に写真いりLINEを送りけり。
大手前久美子。余が馬場町にて勲功をあげしを、桜田門にて迎えうつ好敵手なり。
町田は東京なり。余はふぐのひれ酒を飲みながらLINEを送りけり。

境川
武相のこいは
知らねども
けふとくがわに
成りにけるかな

 大手前久美子。返歌す。真名にて

「佐久」

とあり。
 余は、大手前久美子の怒りを思い、町田高校の大手門にて許しを乞う。

町田高校は、文化学芸の学徒の集うところなり。
余が大手門にて許しを乞う図をみて、吹奏楽部は、コーラス部と与して聖歌を奏す。リコーダーの音色の美なること、さては、中世ルネサンスの楽曲をも習得したるか。こは、カノッサの屈辱なり。

 美術部は、余を模して、「伴大納言絵巻」をコンクールに提出せり。そは、大手前にも大手門にもあらず。応天門なり。

 大手前久美子が、大手門の脇より、現れり。
 
無言。

 余は、随身するのみ。

 やがて、本町田の菅原神社に至れり。

 大手前久美子が第一声。

「君、八幡大菩薩にて誓うか」

 余、しめたり、と拳にこめり。この神社の祀れるは、八幡大菩薩にあらずして、菅原道真こと菅公なり。誓ふ神が異なれば、虚言を弄するにはあらず。余、心にもなきことを幾言をも吐きけり。

「滅相もない。我が衷心、つきとどろくこと天に達せり、その・・・・・・」

「もう、いいよ。江藤香奈ちゃん!」

 脇の石鳥居より出でしは、江藤香奈その人なり。

「江藤香奈。君は、原町田の人なり。ここは、本町田なり。なんぞ、君は、ここにありける」

「かちよりいでにける。大手前久美子先輩の案内にて」

 江藤香奈は、青切符にて、余をビンタしけり。
 それは、のぞみ号の乗車券なり。

「JR町田駅からJR新横浜駅までの乗車券は、私のおごりだから。それと、私の後輩におイタをすると、写メを、君のだーーい好きな、小笠原晴香部長に送るよ」

 青切符。JR町田駅からJR新横浜駅をへて、のぞみ号にて新大阪への乗車券なり。

「佐久」

は、まな板の鯉の如き余を、江藤香奈(ふぐちゃん)と余の仲を、表象せり。

嗚呼、大手前久美子が如き良友は世にまた得がたかるべし。されど我脳裏に一点の彼女を憎むこころ今日までも残れりけり。

【CM.拙著なり↓買うべし。両著とも、日本円777円也】





神谷英邦『【受験小説】併願早稲田2020(2021年版)』(Kindle)
http://www.amazon.co.jp/dp/B09NM9V1PF

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?