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神奈川県警暗闘!町田問答始末記

 以下、筆者(私)以外は、仮名である(登場する文献名は、実在する)。
 仮名といっても、コードネームではない。コードネームは知らない。
 コードネームを用意する必要のあるのは、大阪府警ならばほんの一握り。
 実名を出さない理由は、お読みいただければおわかりいただけると思う。
 
 神奈川県警の山内と初めて会ったのは、2015年12月4日。
 ロシアに関わるビジネスパーソンが集う異業種交流会の忘年会。コロナ禍で会えなくなっているが、ウクライナ侵攻(2022年2月24日)以来、みんなどうしているのだろうか。ロシアに関わる有識者を講師に招いて、その後に懇親会がセッティングされる異業種交流会。会員の紹介を通じて入会できる、異業種交流会。学生の参加は不可。ただし、12月第1金曜日の忘年会は、会員の紹介があれば、学生も参加できる(むしろ、歓迎される)。
 
 私は、町田のイタリア料理店でアルバイト勤務をしていた当時大学生の、矢沢君を招待した。2015年。リーマンショック以来の就職難が言われていた中で、矢沢君にとって、社会人との接点は貴重なものだったのだろう。「人手不足」がさかんに報道される2023年1月には想像することが難しいかもしれない。時代の雰囲気は、浮気なものである。
 
 立食形式の異業種交流会忘年会。
 顔見知りどうしで、テーブルごとに「シマ」ができていく。
 私は、各テーブルで矢沢君を、売り込んでいた。
 気がついた時には、矢沢君は、このような口上で自己紹介をしていた。
 
「神谷(かみたに)さんの紹介で参りました、矢沢と申します」。
 
 ・・・・・・「神谷(かみたに)さんの紹介」というのは、私がテーブルまわりをしていた時に使っていた、ギャグだった。当時の私は35歳。従業員なしの個人事業主。参加者といえば、「東証1部上場(当時)の課長以上」がザラにいる中で、定職についていない私が、この場にいることの方が「ギャグ」である。
 
 矢沢君。彼は今頃(2023年1月)どこでどうしているのだろうか。
 
「名刺を出せば『上級国民』と言われそうな人々が、会費5,000円くらいで忘年会をやっていて、実はそれは割り前勘定である」
 
「そんな、割り前勘定の忘年会で出されている料理は、自分のアルバイト先の料理よりもはるかに『庶民的』だけれども、みんな楽しそうに歓談している」
 
 にわかには信じてもらえなさそうな世界がこの日本の片隅にあったことを覚えてくれれば嬉しい。
 
 彼は、アメフト部で、イケメンだった。
 皆さんは、口々に私に尋ねる。
 
「神谷(かみたに)さん。こんなイケメン大学生と、どのようにして知り合ったのですか」
 
 ここでは、本当のことを書こう。
 私は当時、『聖書』を読んでいた。政治学徒として西洋思想史を学ぶため。
 真夜中。『聖書』を開くと、「羊を生け贄にする」「ワイン」という、空き腹に効果のある表現が頻出する。私は、0時をまわった後にイタリア料理店で常連になった。
 
「『聖書』を読んでいたら、飯テロにあいました」
 
といって。
 深夜の時間帯には矢沢君は帰っていたが、早い時間帯で知り合うことになるのは遠からぬ必然だった。
 
 異業種交流会忘年会。
 会場の片隅で、所在なさげに会場を見渡している若者がいる。
 
「誰かの紹介で来てみたけれど、声をかける勇気がないのかな」
 
 私のこうした予想は、あざやかに翻る。
 宴たけなわの頃、その若者は、私に声をかけた。
 名刺には、神奈川県警・山内とある。
 自家製。
 私は、すべてを察した。
 私は、「武藤」というコードネームをもつ、大阪府警外事課の協力者。
 外事警察が姿を隠して情報収集をしていることを、私は知っている。
 
 神奈川県警が警視庁(東京都警察)の縄張りをやぶって情報収集をしている現場を、大阪府警のカウンターパートに伝えたこともある。私が外事警察(ロシア担当)の協力者、平たくいえば、スパイをしていたころ、47都道府県警察が四半期(しはんき)ごとの「決算」で、順位と売上を競い合っていた。
 
「『東京』が9割の得点(売上)をしめるのですが、『神奈川』には『神奈川』のプライドがありますから、仲が悪いのですよ」
 
「武藤さんが交換した神奈川県警の名刺。あれ、『ウエ』(警察庁)に報告をあげて鑑定してもらったら、『本物』でしたよ。神奈川も『勇気のある行動』をとっているのが証明されました。名刺にあった扇谷さん。後で、『ウエ』に『ちょっとだけ』怒られたと思いますよ。僕(大阪府警)にとっては、実は、ありがたい『敵失』でしたけどね」
 
 山内が差し出したのは、ビーガル君(神奈川県警公式キャラ)の入っていない、自家製の名刺。事件は会議室でも起きているが、現場でも起きている。会議室で問題にされないように、積極的に動いている。
 
 山内は、「所在なさげな若手社会人」を演技しながら、私が大学生の矢沢君を、色々なテーブルの「シマ」で様々な人々に紹介していることを観察していたのだろう。ロシア畑は、当時も「世間」が狭い。就職氷河期の2003年に生命保険会社を4ヵ月で病気をもって早期退職した私を受け入れてくれる会社はなかったが、ロシア畑では受入れてもらえた。思えば、不思議なものである。
 
 矢沢君にとって特にインパクトがあったのは、防衛産業メーカー重役。
 ビールをいれたコップを乾杯する時に、重役が下の方で乾杯した時に、高身長の矢沢君は、それよりも下の方で杯をあわせた。
 たったその一つの動作で、防衛産業メーカー重役は、矢沢君が体育会系であることを見抜いた。色々な人に矢沢君をひきあわせていた私には、そんなことを教えられるわけがない。就職活動で「体育会系」「主将」「部長」といった肩書きを僭称する学生は少なくなかったと思うけれども、大手企業ともなると、僭称している歴代OB/OGが同じ会社で働いているし、ウソは必ず見抜かれると覚悟しておいた方がよい。ウソをつくなら、たった一つだけおぼえておくだけで十分。「御社が第一志望です」と。
 
「山内さん。実は、彼(矢沢君)と同じ店でアルバイトをしている女子大生が、警察官志望なのです」
 
 私は、神奈川県警の名刺にひるむことなく、実話から切り出した。
 
「嬉しいですね。『会社』が不人気で、採用活動で苦労しているのです」
「私は東京都町田市に住んでいるのですが、もしも私が『彼女』と同じ立場であるならば、第一志望を『御社(神奈川県警)』にするか、『東京(警視庁)』にするか、志望動機で困ると思うのですが、山内さんはどう思いますか。もちろん、『酒の上の話』というお約束ですが」
「私は『神奈川』ですが、やっぱり、『東京』ですね。『これ』が違いますから。そのあたりは採用チームも知っているので、ムリしなくても大丈夫だと思いますよ」
 
 山内は、『これ』というところで、右の親指で丸をつくった。
 そして、笑みをうかべた。
 私も同調する。
 私服の警察官は、市井では警戒の対象になる。
 私も、山内がこれまでの忘年会の約90分を観察と声かけに仕込んでいたであろうことは即座に想像できるので、周囲には自然な会話に聞こえるように話した。これが、警察に「隠語」がうまれる理由だと思う。
 
 私は、異業種交流会の忘年会に、誰の紹介で来たのかを問うた。
 その席では、無難なやり取りである。
 
「山内さん。『御社』の扇谷さんの紹介で来られたのですか」
 
 私がかつて名刺交換した、神奈川県警警部補の名前を出した。
 
「いいえ、上杉さんの紹介です」
「そうですか。失礼しました」
 
 武藤は、実のところ、2013年に異業種交流会の幹事を務めていた。与えられた任務は、連絡。勉強会・懇親会の日程告知と出欠確認。この任務のために、異業種交流会の会員名簿を自宅PCで管理していた。帰宅して調べてみると、『上杉さん』の勤務先は、『神奈川県庁』ということになっていた。
 もっとも、世間の狭いロシア業界の人脈をほぼ網羅している異業種交流会である特質上、勤務先が内閣情報調査室や公安調査庁であっても、驚くことではない(前者は接触したことがないが、後者とは、前年(2014年)忘年会で別の男子大学生に紹介して驚かせた)。
 
 これが、山内の異業種交流会でのデビュー戦だった。

【CMです。本稿を引用したのが、首相官邸を隣のビルの35階から撮影した(撮影許可あり)拙著です。拙稿(note)からどのページを大いに「引用」して構成したのか。「引用」した拙稿の数々は、アマゾンの商品紹介でリンク先と題名を公開しています。リンク先をコピペしていきなりアクセスするのはおすすめしませんが、題名をググると安全性の確認できないページは警察庁が削除していますので、安全に拙稿にアクセスできます。】

 さて。
 
 2016年9月9日。
 
 町田が東京都なのか神奈川県なのかという問答は、ネット上での「定番ネタ」なのではないか。問題提起(?)にふれて思ったことがある。筆者は、最も熱い「町田問答」(仮称)をしたのではないか。
 
安達祐子(2016)『現代ロシア経済』(名古屋大学出版会)
 
 を持って、異業種交流会の勉強会に参加した時のことである。この本は、6,000弱の価格。ロシアにおけるインフォーマルな経済についても言及があり、山内に推薦した。
私の「取引先」である、大阪府警警部補は、「『ウチ(警察)』は経済が苦手なので、武藤さんの情報は非常にありがたいです。算数がわからない私ですら、私が『カスミ』(警察庁本庁)に報告をあげる書類が評価されるくらいなのです」と謙虚なやり取りをしていた当時。
カウンターパートも、山内の人物照会もしていたことだろう(もしそうでないという示唆があれば、山内に話題となっていた同書を推薦するような危ない橋は渡らなかっただろう)。
 
「神谷(かみたに)さん」
 
 山内は、光を瞳孔の表面にうかべた目で、私に向かって話した。
 
「『会社』では、書籍代が出ないのです。私には・・・・・・買えません」。
 
 「だったら自腹で買えばいいじゃないですか」、などと言ってはいけない。一人っ子として育ち、社会に出たその端緒で社会生命を落としたような私(非婚)だから、6,000円という「大金」を、仕事につぎこめるのだ。
 
「それよりも、神谷さん。たしか、町田にお住まいでしたよね」
「はい」
「神谷さんのお話をうかがいたいのですが、お時間いただけませんかね。『会社』から、JRで20分くらい、こちらの時間は気にしなくても大丈夫ですよ」
「そこを、なんとか。・・・・・・先生!!!」
 
 その、先生という呼びかけは、低く、小さく、周囲には聞こえないけれども向けられた対象者の耳の奥に刺さるドスの効いた発声だった。
 山内の瞳孔は、重心深くに沈み込み、推定年齢に不相応な重みがあった。
 
「申し訳ありませんが、『町田は東京』です。山内さんのお役に立てるなら、御社の町田支店にうかがいますよ。自転車で10分もかからないですから」
 
 山内は、「町田は神奈川」と主張した。
 私は、「町田は東京」と主張した。
 私が、押し切った。なぜならば、私は、大阪の協力者だから。
 
 この小話を、月例の会食で、大阪府警のカウンターパートに話した。
 
「武藤さん。よくぞ、『神奈川』のリクルートをふりきってくれましたね」
「いや、『町田は東京』と言ってしまいましたから、たとえば、『神奈川』の山内さんが、たとえば同期の人脈を通じて『町田支店(警視庁町田警察署)』勤務の知り合いを通じて、私に接触を試みるということはないでしょうか、私にそれだけの価値があるならば」
「それは、ありません。『神奈川』のプライドが許さないでしょう」
 
 大事なことなので、二度書く。
町田が東京都なのか神奈川県なのかという問答は、ネット上での「定番ネタ」なのではないか。問題提起(?)にふれて思ったことがある。筆者は、最も熱い「町田問答」(仮称)をしたのではないか。
 
 「町田は神奈川」(神奈川県警)
 「町田は東京」(私)
 
 この問答をしたのは、東京都港区での出来事である。
 この問答は、神奈川県警と大阪府警の暗闘。
 私は、大阪府警を裏切らなかった。
 会場には、おそらく警視庁の息のかかった協力者も(おそらく複数)同席していたのだろう、と思う。ランチを食べながら、異業種交流会の勉強会・懇親会でやり取りを警視庁が把握していても不思議ではない。
 
 こんなことがあった。
 ある年の異業種交流会の忘年会。
 大阪府警のカウンターパートから、珍しく、督促されたことがある。
 ひょっとしたら、異業種交流会に最もくいこんでいるのが私(コードネーム:武藤)だと警察庁の情報分析で評価され、警視庁からあがってくる断片的な情報よりも大阪府警経由の私の情報をたたき台にして、警察庁本庁で情報の分析・評価がなされていたのかもしれない、と新年早々に景気よく自惚れすることは良いだろうか。
 このように自惚れるだけの成果は、あげている。なぜなら、警察庁本庁の課長・室長から、大阪府警察本部に直に電話がかかってきたと、大阪府警カウンターパートから聞かされたからだ(警察庁課長・室長から電話が褒められる文脈でかかってくるというのはレアな体験だそうだ)。
 
 俗に、「公安」という言葉が気軽に使われている。
 外事警察は、公安警察の一部である。
 しかし、外事警察は、「公安」と同一視されるのを嫌う。
 外事警察所属の警察官にも本店(県警本部)と支店(警察署)の異動がある。本店勤務であれば「本業」に専念できるが、支店では、その「本業」を知られずに孤独と戦いながら、たとえば警備の業務に従事する。
 「本業」は、外事警察の陣容ではカバーできない。だから、「社外」に協力者をつくって、売上を霞が関(警察庁)に計上している。
 
 協力者獲得は、外事警察にとって重要な任務とされる。
 私は、2006年-2018年のあいだ、大阪府警の協力者として暗躍していた。
 
 「スパイは目立ってはならない」
 
 これは、半分真実だが、半分誤りである。
 私は大阪府警の協力者(スパイ)ということを隠していたが、目立つことをしなければ、大阪府警の協力者候補としてリストアップされなかっただろう。つまり、目立たなければ、スパイにはなれない。
 
 スパイに関する物語は、数多くある。
 2022年には、『SPY×FAMILY』がブレイクした。
 2023年には、『スパイ教室』が放送される。
 
 たしかに、私には、「武藤」というコードネームを持っていた。
 しかし、私(神谷:かみたに)が「武藤」として暗躍していたことを、2006-2018に知られてはいない。コードネームは、「存在しない」ということで社会生活を送っていた。
 
 上記の「町田問答」は、公開されるとは思われなかったが、今の私には、大阪府警に口止めされるゆわれはない。むしろ、「経済安全保障」など、インテリジェンスの住民(警察もその一つ)が市井の協力と理解を得られないと活動できない、すなわち、日本の安全が脅かされていると危惧している(例:安倍晋三元首相暗殺事件)。コトが起きてしまう前に、日本の安全を守りたい。
 
 かつて、従事した一人として、証言する義務が、私にはある。分不相応なオオゴトを書く年初である。

#私だけかもしれないレア体験

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