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田中あすか大阪大学志望校説

 アニメおよび映画『響け!ユーフォニアム』シリーズ(『リズと青い鳥』を含む)を視聴して筆者が感じたことは、「田中あすかは、大阪大学を志望校にしているのではないか」ということです。もっといえば、「○○大学」よりも「『成績が下がった』と母親に言われずにユーフォニアム演奏を続けたい」が最優先事項だということです。
 まずは、母親の介入を受けてユーフォニアムを自由に吹けない事態を打開させた「全国模試で全国30位以内」について考えてみましょう。斎藤葵が「模試のことについて、いけだ先生から話がある」とわざわざ声をかけています。成績表を一見して「全国模試で全国30位以内」だとわかる「成績表」ではなかったような気がします。そこを「全国30位以内」という話法にしたのが、いけだ先生の職員室への呼び出しではないでしょうか。模試の成績表を分析しないと「志望校」との距離を正しくはかれないものです。

 まず、北宇治高校の進路指導について。大学進学クラスは、各学年に一つ。「誓いのフィナーレ」で高坂麗奈が「進学クラスはクラス替えがない」という言葉から、文系理系共通クラスとして1クラスだと思われます。もっとも、高校1年生入学時(高校受験合格直後)に文系・理系をクラス分けして「進学クラスを文理各1クラス(計2クラス)設置する」という可能性はありますが、高校受験のある公立高校が制度面から「進学熱」に熱いかどうかは疑問です(公立高校ではありませんが、例外があることは承知しています。ここではその可能性を排除します)。

 「届けたいメロディ」の冒頭付近で、田中あすかの母親が全国模試に言及していますが、全国模試実施と返却までの間に田中あすかの「成績が下がる」わけですが、予備校主催の模試実施と返却までの時間差を埋める「成績」は、校内で実施される文理共通テストの数学IIIで思わぬ逆転をくらったというのが一つの仮説として浮かびます。
文系クラスであれば数学IIIを試験科目からはずすこともできますが、「文理共通1クラスの進学クラス」で数学IIIの試験を、文系志望の田中あすかが要領よくこなしていたツモリが理系志望の級友に出し抜かれたというケースが想像できます。もっとも、数学IIIと書けばオトナ(鑑賞者)へも「難しいという印象」を与えることができますが、高校課程の数学III・数学Cといっても経済学部では大学入学後に当然のように履修するわけですから、内容自体はそれほど難しいものではないのです。

 「届けたいメロディ」では「今度の全国模試。期待しているわよ(田中あすか母)」のセリフから、職員室に怒鳴り込むまでの「時間差」の中に「田中あすかの『成績が下がる』」という事象が発生するわけですが、それが何なのかは特定できません。「届けたいメロディ」の冒頭付近で田中あすかが母親に言おうとしたら模試のことを「期待している」と言われて何もいえなかった間(ま)の解釈によって、筆者の解釈を崩すことは可能です。ただ、事実だけを申し上げれば、TVアニメ『響け!ユーフォニアム2』でも映画『響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ』でも田中あすか自室の本棚には数学IIIのテキストは存在せず、高い確率で田中あすかが文系志望だと考えられることです。

 田中あすか自室の本棚について精査してみましょう。センター試験の教材が目立ちます。物理・化学・生物・地学?!、日本史・世界史はわかるけれども地理?!、・・・・・・センター試験に限らない、私立大学での選択科目として使えそうな問題集がありましたが、それは日本史のみ。文系で日本史を主軸にすえる受験戦略ですね。
 あと目立つのが、古文。学校の授業では物足りず、自力でなんとかしようとしている感じがでています。おや、漢文がない?!・・・・・・大阪大学では、文学部を除いて漢文が出題されないのです。英文読解のテキストが2冊ありますが、英作文はありませんね。田中あすかは志望校の選択肢から、京都大学の英作文や、大阪大学文学部・外国語学部を敬遠するでしょう。なぜならば、そこに行きたいと思うならば、ユーフォニアムを吹く時間がなくなるから。
 漢文を模擬試験の成績表の評価対象からはずすことも可能です。文学部を除く私立大学では多くの場合に「出題範囲から漢文を除く」と明記されていると想定されますので、「成績表」の中に「漢文の得点を除外した順位」を読み取ることも可能です。全国模試で「国語」(漢文を含む)を受験したとしても、全国模試主催者(大手予備校?)であれば、上位二桁のうち相当数の東京大学志願者(東京大学は必ず漢文を出題します)を受験する確からしさがどのくらいだというデータを持っているハズです。予備校担当者であれば取引先の高校側に(個人を特定できないデータで)東京大学志願者を除外した推定数値を高校(北宇治高校)の質問に答えることは不可能ではないといえます。もっとも、センター試験(当時)は「全国模試○位」の受験生をふるい落とす制度ですから(現役合格や、2浪はできない文系受験生であれば東京大学・京都大学の合格判定におけるセンター試験の配点が低くとも大阪大学などの合格可能性の高い大学を受験するケースもありますから)、精密度の高い順位を出すことはできません。とはいえ、「30位以内」という表現に筆者は違和感をおぼえました。特筆すべき数字であるならば、「28位」のようにドンピシャの数字で伝わるのではないか、北宇治高校職員室もいけだ先生を通じて職員室に田中あすかを呼び出すほどの手間をかけるだろうかといった疑問点が浮かび上がります。成績表の順位を見ただけでは「30位以内」という数字を読み取ることができないのではないでしょうか。

【突然のCM。筆者は、いわゆる「『公安』のスパイ」をやっていました(2006-2018)。本稿執筆当時にはカミングアウトできなかったのですが、インテリジェンス(諜報)の人間だったのか、それらしき思考様式が本稿の以下の部分に反映されている、ような気がしました。アクセスも多い本稿なので、拙著(Kindle電子書籍)のリンクをはります。ご笑覧たまわれば幸甚です。2023年12月6日追記。水樹奈々大使歌手デビュー記念日を祝して】


 田中あすかの本棚を通じて読み取れることの次のポイントは数学。二次試験(文系数学)を受験するにあたって数学IA対策テキストがなくて数学IIBのテキストがあるのも、大阪大学の文系数学の出題傾向からすれば妥当です。数学IAよりも数学IIBの方が難しい。なんとなく思っている方は多いと思いますが(概ねその通りなのですが)「数学IIBや数学IIICの知識を使わずに数学IAの問題を解く」のは難問ですよ。シュワルツの不等式をご存知ですか(2017年早稲田大学商学部第1問「オ」。当時の数学B配当のベクトルで解くと標準レベル)。数学IIBの剰余の定理(因数定理)を知らずに数学IAの知識だけでなんとかしようとすると大変です。ちなみにその難題を課すのがセンター試験(共通テスト)数学IA。田中あすかはセンター数学IAのテキストは本棚においてあり対策をしていることがうかがえますが、大阪大学二次試験(文系数学)では「センター試験で大失敗したから数学で満点をとって一発逆転を狙う(血眼)」にでもならない限り、標準的な出題なので定石。

 「田中あすかの志望校は大阪大学だ」と書くと、「私(斎藤葵)の志望校は、あすかの滑り止め」という言葉が検索でヒットします。斎藤葵は、受験予備校で数学の授業を受けています。「最大値」という言葉がモブで入ってくるので、おそらく二次関数か微分。原作者の武田綾乃先生の母校の同志社大学は、京都大学の併願校として狙われますので、選択科目で数学を選択すると満点受験生が続出している中で「合格」するのはかなり大変なので、おすすめはしません。京都大学(文系数学)は冗談抜きにマジで東京大学(文系数学)より難しいので、そんなライバルを相手に「数学」を選択するのは危険です。したがって、斎藤葵の志望校は神戸大学で、田中あすかの志望校は大阪大学(滑り止めは神戸大学)だというのが拙稿の論旨です。なお、筆者は、小笠原晴香部長推しです。香織親衛隊・あすか派を一掃する晴香機動隊中隊長やります。

 「大阪大学や神戸大学は滑り止めになるだろうか?」

 なります。筆者がそうでした。駿台予備校で1浪しましたが、受験勉強の過程で福沢諭吉の著書に感銘をうけて「上京して東京の慶應義塾大学(私立大学)に行きたい」とは、学費を稼いでくれる親には言い出せないですよ(1998年)。センター試験で大阪大学法学部合格を確実にした上で、受験期間中に宿泊上京して慶應義塾大学法学部政治学科を受験する許可をとって、本命を受けた後に大阪大学(地元の国立大学)を合格した上で「実は話があるのですが」とおもむろに切り出す・・・・・・ハズが、筆記試験のチャンスを二度も合格して、7人に一人くらいしか落ちない面接試験を二度も不合格になって泣く泣く大阪大学法学部に進んだ筆者は、燦然と輝く変人です。まさか、受験期間中の1999年2月に大阪・東京間を3往復するとは思いませんでした(自爆)。
 「神戸大学は滑り止めにする」と神戸大学関係者や関西人を敵にまわすことを書いていますが(筆者は大阪出身です)、オープンキャンパスなどの機会を除いて大学の情報は高校生には届かないものです。偏差値がどーたらこーたらとか云々するのは筆者の本意ではないことをおことわりしておきます。

では、田中あすかの志望校は、関西で圧倒的な存在感を放っている京都大学なのか。違うと思います。夏休みの京大模試などで部活に全力を注げなくなります(練習日程にあながあくのは確実で、部活の合宿と日程が重なる可能性もあります)。「京都大学に行きたいか、ユーフォニアムを吹きたいか、どちらかを選びなさい」。田中あすかに質問すれば、筆者は後者(ユーフォニアム演奏)を選択すると思います。斎藤葵が「志望校に合格したい」のを選んだように。
 教科学習面でいえば、田中あすかの本棚を見る限り、二次試験で地歴のある京都大学や、地歴2科目を課す東京大学を模試の志望校の欄に書いたら、簡単に「成績が下がり」ます。日本史・世界史を両科目ともいつも90以上とる受験生もいますし(←1998駿台生時代の筆者です)、全国模試で日本史・世界史が100点満点連発で「偏差値」の用をなしていないのであれば、その模試の信頼度はたちまちに疑問符がともりますから、ゼッタイに解けない出題をすることで受験生間に差をつけるでしょう。模試主催者なら制度設計の段階で考えますよね。
 田中あすかは「届けたいメロディ」台所で全国模試について言及していますが、京都大学・東京大学受験生を母集団にする「合否判定」みたいな浮気に振り回されたあげくに「成績が下がったから母親との約束通りにユーフォニアムをやめる田中あすか」を、あなたは見たいですか。それならば、最初から京都大学・東京大学を「志望校」からはずせばいい。「成績表」の読み方は、一通りではありません。筆者の場合、全国模試全国50位以内をとっても東京大学文科I類はB判定でしたし、駿台生になって最初の模試では東京大学文科I類はB判定(A判定だったか?)ながらも数学が壊滅的にひどかったのを日本史・世界史でごまかした判定だったことを父はお見通しで叱られた1998筆者です。

 「模試について話がある」。いけだ先生がわざわざ職員室に田中あすかを呼び出すでしょうか。大事なことなので○度書きました。田中あすかがユーフォニアム演奏を強く希望しているが、母親は成績を理由に否定的な態度をとっているということは、教員であれば職員会議で共有して対策を協議していると思います。「生徒を教育する」ということは、一人で完結できるものではありません。滝昇先生が吹奏楽指導者としていかにすぐれていようとも、コンサート会場の使用許可や合宿所の手配や会場移動につかう京阪バスの手配や北宇治高校校内予算配分など、副顧問の松本先生と他の部活の先生との連絡調整があってはじめてできるのではないでしょうか。
 そうなると、いけだ先生が田中あすかに伝授したのは、「『全国模試で全国30位以内』を導くトリック」。母親を説得するための「成績表の分析の方法」をレクチャーするためのキャッチフレーズが「全国30位以内」ではないでしょうか。元業界人として申し上げるならば、「全国模試30位以内」はほとんど意味がないのです。過去の武勇伝といったものならいざ知らず、「どうしても○○大学を受験したいからこの成績表を見て、私の言うことを聞いて欲しい」と親に向かって自分の意見を押し通す時に使うものです。

 東京大学合格を本気で目指す受験生であれば、「センター試験(共通テスト)110点満点の重要性」を知っていることでしょう。政府のえらい政治家のセンセーは「1点刻みの現状をなんとかしろ」とのたまっているらしいのですが、受験における「1点」は大きな差です。私立大学であれば選択科目(地歴公民・数学)の得点に「統計的処理」(仮称)を加えることを願書(募集要項)で明記しているところも少なくないと思いますが、受験生全体の得点状況によっては、自分の選択した科目が高得点であっても、科目間で不公平だと大学側が判断すれば受験生の高得点も圧縮されます(早稲田大学は有名ですね)。
 では、数学を選択すると・・・・・・「センター試験(共通テスト)で失敗したから国立大理系学部を断念した受験生」が大挙して経済学部・経営学部・商学部に押し寄せることにより、満点を狙わないといけない大学・学部は少なくないのです。ちなみに、慶應義塾大学法学部は医学部・理科系崩れの受験生を排除するためか、一般入試では英語と選択科目(日本史または世界史の二択で、理系受験生が多く学ぶ地理は選択肢として登場しない)上に、英語では複雑怪奇な出題(相応の英語力を備えているのが大前提)であることはもちろん、英語と選択科目(日本史または世界史)で一定の得点(非公開)に満たない受験生は、もう一つの試験科目である論述力(いわゆる小論文)を採点対象にすらならないという形で、徹底的に理系受験生を排除しています。

 大学受験は、どれだけ努力したのかをはかるために実施されるものではなく、入学資格を与えるに耐える人物を、受験生の中から「選抜」する通過儀礼だということを前提として『響け!ユーフォニアム』シリーズを鑑賞してみてはいかがでしょうか。
 なお、筆者は『【受験小説】併願早稲田2020――北条、東大受けるってよ』の執筆動機をアニメ『響け!ユーフォニアム』鑑賞から得た経緯がありますので、自らが剽窃行為を行うのをおそれて原作を読んでいません。何かをするためには、何かを断念しなければならない、筆者自身にも起きていることですね。
 成績表の読み方について、筆者は家庭教師として実例に接してきました。ここで例示することはできませんので、1998の自分の「成績表」を傍証として用いました。過去の栄華にすがっている筆者にあわれみをおぼえたアナタは、「受験」を卒業されているとお察ししますので安心してください。


【著書紹介】

大阪府警外事警察(ロシア担当)元・民間協力者(2006-2018)。 
本稿を書いた人は、「公安」の協力者です。
「公安からはカネを無尽蔵にもらえる」なんていうウマイ話はないので、家庭教師(大学受験)をしていたのがオモテの顔です。

参考文献

「響け! ユーフォニアム2」Blu-ray BOX
劇場版 響け! ユーフォニアム ~届けたいメロディ~ [Blu-ray]
劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~ [Blu-ray]

【追記。2021年8月24日】

「ちなみに、筆者(1980生)の頃に文系数学の試験範囲だったベクトルは、今では数学Cに配当されており、大学受験の出題範囲から「数学C」が除外されている(東京大学理科)ご時世です。」の一文を削除しました。先日(2021年7月)に町田駅モディ8階の書店で大人買いしたのですが、「数学C」のチャート式は店頭にはなく、「数学C」の存在を確認できませんでした。また、ベクトルは数学Bに配当されております。お詫びして訂正します。それから、写真をアップしました。

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