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『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』感想 簡単なこと、むずかしいこと

謎のゲームがあらわれた

昼休み、いつものようにTLを見ていると
謎のゲームの日本語版がリリースしたことをフォロワーがRTしていました。

死ぬほどビビりのくせにホラーゲームはいっちょ前にやりたがるという性分や、人の心にグッサリ来る作品が好きだということもあり、帰宅するなりすぐに購入。
インディーズゲームによくある、心の弱くて柔らかいところをチクチクつっついてくるような、それでいてメンタルにガシガシ訴えかけてきて、プレイ中に/プレイしたあとに考えさせられるような作品が自分は好きなのだ。
ドキドキ文芸部!』『OMORI』『papers,please』『リーガルダンジョン』とか、そのへんのヤツです。
どれも名作なので、作品の雰囲気が好きなら見ている人もやってほしいです。(もちろんメジャーなゲームも大好き!)
どうやら上記のツイートで挙げられているMilk outside a bag of milk outside a bag of milkは2作目らしく、
ネタバレにならない程度に調べてみると、1作目である
Milk inside a bag of milk inside a bag of milkからプレイした方がいいとのことだったので、まずはそちらをプレイした感想を書いていこうと思います。
気になった人は買ってみてもいいかもしれません。価格は100円。20分~30分くらいで遊ぶことができます。

また、先にクリアしたよ!orプレイ予定だよ!という方は、
このゲームを翻訳してくれたMohiMojitoさんがnoteを公開していますので、
是非クリア後に読んでみてください。


⚠注意⚠
『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』本編、
『ドキドキ文芸部!』のネタバレが含まれています。
人によってはショッキング・不安になるような
画像が貼られてるので、その点もご注意ください。
(上のリンクのsteamページや、画像を検索して
どんな雰囲気か判断してもいいかもしれません)

また、筆者はメンタル的なことに詳しくないので、
間違ったことを書いているかもしれません。
あくまで『素人が書いたゲームの感想』としてお読みください。


牛乳の袋の中の牛乳の袋の中の牛乳

『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』、DeepLで翻訳してみると
『牛乳の袋の中の牛乳の袋の中の牛乳』。あまりにも謎なタイトルすぎてどんなゲームか想像もつきませんでした。
ストーリーとしては、主人公である女の子が母親におつかいを頼まれ、牛乳を買いに行く、ただそれだけの話。そのはずなのに、スタート画面は
到底『牛乳を買いに行こう!』とは言えないノリの画面が映っています。

全体的に色が暗すぎる

それもそのはず、主人公である女の子はかなり強い不安に苛まれていて、おつかいさえも億劫な状態になっていることが原因。
トラウマや本来の性格、家庭環境、患っている心の病(何の病かは明言されない)もあり、ものすごく乱暴な言い方になってしまいますが、めちゃくちゃ病んでいます。
わたしは心の病に詳しくはないので明言することはできませんが、赤、黒、紫のサイケデリックなビジュアルも彼女の不安の証だと感じます。
後述しますが、彼女は過去のとある事件がきっかけで比喩ではなく本当にこんな視界で過ごしていることがわかります。
そんな時、彼女は自分を『ビジュアルノベルのキャラクター』と定義し、自分の中で対話しながら思考を整理しています。
プレイヤーは彼女の内側の存在、所謂『イマジナリーフレンド』のような存在になり、彼女と会話しながら(選択肢を選びながら)話は進んでいく……といった感じ。
このゲームではずっと主人公の視点で進むため名前は謎なのですが、
ファンコミュニティの命名(?)に則り、以降は『ミルクちゃん』と呼んでいくことにします。

簡単なこと、むずかしいこと

『牛乳を買いに行ってこい』と言われたら、今これを読んでいる皆さんはどうやって買い物に行くでしょうか。
わたしだったら、財布と携帯、鍵を入れたバッグを持って、近くのコンビニに歩いて行って、飲料売り場に行って、お会計をして、帰る。
こんな感じです。
行く場所がコンビニでなくスーパーだったり、移動手段が自転車や自家用車だったり、牛乳がなかったら店員さんに聞いてみるなど、
人によって違うだろうけど、だいたいみんなこんな感じなんだろうなと考えました。
少なくともわたしにとっては造作もないことです。

ただ、ミルクちゃんの場合は違う。
ゲーム冒頭で、彼女は近所のスーパーが閉店する1時間前(おそらく夜)に家を出るし、『家を出るのは久々』だともプレイヤーに告げてきます。
もしかしたら、家を出るのが億劫で夜遅くに家を出たのかもしれない。
もしかしたら、薬の副作用か何かで動けなかったのかも。(ゲームの端々で、彼女はいろんな薬を服用している/してきたことがわかります)
そのうえ、スーパーへ行く道でプレイヤーとの意味不明な問答に時間を使います。(閉店時間……)
ミルクちゃんにとっては、『牛乳を買いに行く』というわたし達にとって些細なことが、本当に難しいのです。

マジで意味わからなくて5回くらい読み返した

この子、本当にひとりで出歩かせて大丈夫なのか?
そんな心配をしてしまいました。

心配が形に

心配だ、と思った出来事は結構な確率で的中するのが、このゲームのすごいところ。
ミルクちゃんがお店の中に入ってまずしたことは、とりあえず「目についた人に声をかける」ことでした。
彼女の視界では他人は全員怪物だし、意味不明な言葉を吐いてくるやつもいます。
だから、『一体全体この人は誰なんだ!?』ということは、彼女にもプレイヤーにもわかりません。

クソデカ何ですか。このモグラみたいなのが言ってるわけではない。
言ってるのはおそらくミルクちゃん。

ミルクちゃんは『O』という文字やシンボルにひときわ強い不安を覚える(なんならプレイヤーはこの不安のイメージを見せられる。本当に言いようのない不安に襲われる)のですが、このモグラみたいなのはずっと『O!』と言ってくるばかりで、彼女は(この人は私を怖がらせようとしているのでは?)と感じて無限ループになってしまい、話になりませんでした。
おそらく、『どうしたの?』みたいなことを言っているのだろうと思います。

それからのミルクちゃんはもうめちゃくちゃ
飲料コーナーで、『ここで牛乳を買おう』と言うミルクちゃんに、
プレイヤーが『ここじゃ買えないね。牛乳の袋を持って、レジに持って行こう』と提案すると、なぜか逆ギレ。

怒んないでよ~

プレイヤーにキレつつも、牛乳の袋(原作者さんの住んでいる地域は紙パックではなく、袋に牛乳が詰まっているからこの描写らしいです)を取るミルクちゃん。『正確には、牛乳が中に入った袋を……』と考え込んでしまい、無限ループに陥ってしまいます。

無限ループ!!

これにはプレイヤーも『早くレジに行け!!あと15分で閉店だぞ!!』とマジギレ。マジギレでつながるコミュニケーション。

その後、なんとかレジに行って店員さんに牛乳を渡すも、
ミルクちゃん『返してもらっていいですか?』
なんで??????????????????????????????

店員さんもびっくり

なんていうか、しょうがないというか、ミルクちゃんを責めているとかそういうわけでは断じてないのですが、この辺は困惑が尽きなかったというのが正直な感想です。
わたしは以前レジ打ちのバイトをしていたことがあるのですがこんなお客さんいたら『えっ何???????』ってなっちゃうと思います。
それと同時に、前述した
ミルクちゃんにとっては、『牛乳を買いに行く』というわたし達にとって些細なことが、本当に難しいということを痛感しました。
プレイヤーに指摘されないと、お金を渡すという選択肢すら頭に浮かんでこないのです。

上2つはさすがに選べない

それと同時に、イマジナリーフレンドのような存在であっても、プレイヤーがいてくれて本当に良かったと感じたシーンでもあります。
メタ要素を含むゲーム(milk1をカウントしていいかわかりませんが……)では、プレイヤーの存在が善にも悪にもなりますが、ただ『いてくれてよかった』と思うのはあまりない経験だったので、新鮮だなと思いました。
俺、ミルクちゃんの話し相手になってくれてありがとう。

対話するということ

無事牛乳を買い終えたミルクちゃんとプレイヤーは、帰路につくことに。
不注意で、熊(トラック)に轢かれそうになった彼女は、プレイヤーの『死んでたかもしれないんだよ』という一言に、『牛乳の袋を持っただけの女の子を、誰かが本気で殺そうとすると思う?』と反論します。

……

ここで、『あんた病気だよ。』と言ってしまうのは簡単です。実際、そうなのかもしれません。でも言えませんでした。
それに、推察になってしまいますが、世界がどれだけ残忍で物騒なのかも、ミルクちゃんは痛いほど感じているはずです。
あとこのあたりで彼女に辛辣に接するとミルクちゃんに捨てられるって知ってびっくりしました。
でもわたしにはできませんでした。どうすれば、彼女にとって正解なのかもわかりませんでした。たまたま、選択肢の正解を引いただけでした。
『DDLC!』で、サヨリが鬱病を抱えている事実を知った時、わたしも主人公も、サヨリに何を言えばいいのか、どうすればいいのか、この言い方で、この行動で正解なのか、わたしの行動でサヨリをもっと傷つけはしないかと、ずっと考えていました。
『牛乳を買う』というタスクが終わった途端に、彼女になんて言えばいいのかが、本当にわかりませんでした。

その後、二人はベンチに座って空を見上げ、『モノローグ』を語り始めます。
そこで、プレイヤーはミルクちゃんに聞かれます。
『最後は何もかもが痛みなく済めばいい。そう願ってる。』
『わたしが言ってること、わかってくれる?』
ここで、プレイヤーは自分の返答を、キーボードで入力することになります。

なんて言えばいい。

めちゃくちゃ悩んで、この回答にしました。
理由としては、自分も痛いのは嫌だからです。痛みなく死にたい、生涯を終えたいと思ってるし……。(理想は、藤子・F・不二夫先生の『ある日……』や、SCP-001 リリーの提言みたいな終わり方)

そして、他人が怪物に見えるけど、みんな本当は傷つけるつもりがないことをわかっていること。
どうして世界が赤く見えるのかについてを、イメージを見せながら教えてくれます。

直接スクショを貼るのは避けますが、
原因はミルクちゃんのお父さんが投身自殺をしてしまったことにあるらしく。
直接グロ画像を見せられるわけではありませんが、ミルクちゃん自身が、プレイヤーとイメージを共有しながら『パパだったモノ』と言われるのは、辛いものがありました。
少なくとも、ミルクちゃんは『パパだったモノ』を見ているわけで……。
ミルクちゃんの話からの推察を含みますが、彼女の家庭環境は複雑で、前後してしまいますが『牛乳を買わないで帰ったらママに窓から捨てられちゃう』と叫ぶシーンもありました。

捨てんな

そう言われると、空に浮かんでいるのがお父さんの遺体/遺骨のように見えてきて心底ゾッとしました。
空を見上げると、(おそらく)トラウマの原因である、お父さんの遺体/遺骨がある。もう還ってこないお父さんが、常にミルクちゃんを見ているようで……少なくとも、いい気分にはなりませんよね。
それに、ミルクちゃんのお母さんも。おつかいを失敗しただけで窓から捨てるぞ、と言うのはかなり行き過ぎな気がします。

そして、ミルクちゃんはプレイヤーに感謝を述べます。
今日は初めて、何事もなく買い物ができたこと。
ビジュアルノベルのキャラクターになりきって過ごしたのがよかったのかも、と。
薬のおかげもあるけど、『君』がいてくれたからできたよ、と。

それならよかった

これを彼女から聞いたとき、わたしはもう、とにかく安心しました。
プレイヤーからしたら失敗もあったけど、ミルクちゃん的には普通に成功だったのだから、褒めるべきだった、とわたしは自分を恥じました。
それと同時に、ミルクちゃんのイマジナリーフレンドとして、ずっとここに……彼女の中にいていいのかな?と、少し思ったりもしました。
わたしがいるから、ミルクちゃんは快方に向かわないのかも……と、論理が飛躍したことを考えたりもしました。

そして家に帰るミルクちゃんを待っていたのはお母さん。

ミルクちゃんのお母さん、怖すぎて写真取れなかった。日本人形みてえだし。

プレイヤーはミルクちゃんの視点でものを見ていますから、彼女にとってお母さんはものすごく怖い、威圧してくるような存在であることがわかります。
全部諦めたような、冷めきった目で「はい、ママ。」だけしか言ってないミルクちゃんからも読み取れますね。それにしてもマジで怖すぎるんだよな。夢出るわ。

ゲームを終えて

ミルクちゃんが家に帰ってお母さんと話をしたところで、
いきなりこのゲームは終わります。
(次回作はミルクちゃんが朝起きるところから始まるようです)
今作はおつかいを頼まれたミルクちゃんが牛乳を買いに外へ出かけるだけ。
ただ、再三言いますが、
ミルクちゃんにとって『外に出て牛乳を買う』という一連の行為は、本当に大変で、我々が想像するよりはるかに難しいことだった。
自分にはできることも、他人にとっては非常に困難なケースがある……ということを、身をもって知れたなと思いました。

そして、話は冒頭へと戻りますが、このゲームには続編があります。
最初にツイートが貼られていた、『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』です。

steamの概要にも、
>『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』の続編。もう一度認知の狂った世界に入って少女を少しでも幸せにしてあげよう。

と、書かれています。
2作目では、ミルクちゃんの内面にさらにフォーカスしていく内容のようです。
ついでに、彼女のビジュアルも明らかになりました。

steamページより。AUTOMATONさんの
スクショの女の子はミルクちゃんだったんですね。かわいい。

わたしはミルクちゃんの人生を劇的に変えたり、不安の原因を取り除いてあげることはできません。
わたしは『プレイヤー』であって、それ以上でもそれ以下でもありません。

だけど、いつでも、彼女が望むのであれば、話し相手になろうと思います。


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