日米FTAについての情報まとめ

最終更新:2019/11/20

●日米貿易協定と日米FTAの違い

・現在国会審議されている「日米貿易協定」は、日米FTAのうちの一部分をなすもの→なので交渉は今後も継続する
・いわゆる「為替条項」「ISD条項」といったものは今回は入っていない
・なお、これらの条項が今後取り入れられたとしても、「財政政策が不可能になる」可能性は限りなくゼロに近く、「公的医療保険が廃止される」可能性も明確な根拠がない(後述)

・日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定(略称:日米貿易協定)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page23_002886_00001.html
・デジタル貿易に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定(略称:日米デジタル貿易協定)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page3_002912.html
・日米貿易協定、日米デジタル貿易協定の概要
https://www.cas.go.jp/jp/tpp/ffr/pdf/190925_TPP_gaiyou.pdf
>通常の経済連携協定にある、紛争処理の規定は設けない。
*これがISD条項の話かなと
・日米貿易協定に「為替条項」なし ムニューシン財務長官が確認
https://this.kiji.is/557364713226978401

●締結までの手続き

・交渉→署名→国会承認→締結
・現在は国会で審議中。

・外務省「国会承認条約の締結手続」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp03_03.pdf

●なぜFTAか

・米国の対日貿易赤字の解消
・自由貿易路線を更に徹底するもの

・日本共産党「日米貿易交渉、TPP11、日欧EPA(2019参院選・各分野の政策)」
*自由貿易路線の問題点がよくまとまった記事。
https://www.jcp.or.jp/web_policy/2019/06/2019-bunya28.html

>現在進められている日米交渉で、USTR(アメリカ通商代表部)のしめした交渉概要では、交渉目的は、対日貿易赤字の解消であり、交渉範囲は22項目に及び、物品貿易、衛生植物検疫措置、税関・貿易円滑化、原産地規制、知的財産、医療・医薬品の手続的公平性、政府調達、紛争解決,為替条項など全面的です(USTR2018年12月21日)
・中野剛志(2019)『奇跡の経済教室【戦略編】』ベストセラーズ。
*グローバリゼーションが何を目指しているのか、よく分かる

●FTAの問題について

・関税の引き下げによる国内産業への打撃
・規制緩和による国民生活への打撃(食の安全への懸念など)
☆FTA自体の監視、反対運動は必要!

・専門家に聞く 日米FTAの行方と暴走するトランプへの対抗策
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/241273
>根本的な構造として、消費旺盛で貯蓄が少ない米国の国内事情を変えない限り貿易赤字は解消しません。そこがトランプ大統領の方針の大きな矛盾であり、最大の問題点なんです。
>米中貿易戦争のあおりで、中国が得意先の米国の大豆農家はこの半年で半値以下でしか輸出できなくなった。彼らの不満を和らげるために、日本に農産品のさらなる市場開放を求めるポーズを見せている面もあるでしょう。TPP離脱で関税措置が受けられない米国の農畜産業界は日米FTAを待ち望んでいます。
*内田聖子さんの見解はバランス感覚に優れていてとても参考になる
・NPO法人アジア太平洋資料センター「日米貿易協定(USJTA)の問題点」
*分析レポート、米国側資料の日本語訳など
http://www.parc-jp.org/teigen/2019/usjta.html

●為替条項について

・為替操作を規制するもの
・新NAFTAでは既に導入
・あまり効力はない模様

*為替条項の危険について否定する見解。
・コラム:日米為替条項に心配無用、政治は為替を支配できない=植野大作氏
https://jp.reuters.com/article/column-forexforum-currency-daisaku-ueno-idJPKCN1SD1B2
米国が日本に対して求める為替条項に金融政策が含まれる可能性を懸念する声もあるが、杞憂に終わるだろう。もし互いの金融政策に対する干渉が可能と解釈されるような条文を挿入した場合には、将来どこかで米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに踏み切った際、日本が「ドル安誘導」と非難して自粛を求めることも可能となるからだ。
・為替条項、恐るるに足らずか 米専門機関が新NAFTAの規定分析
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/190420/mca1904202257003-n1.htm
>報告書は、不当な通貨切り下げを防ぐ狙いの為替条項について、為替介入の実績を報告させたり、主に報告状況を確認する委員会を年1回開いたりすることを求めているだけだと指摘。「加盟国の従来の政策に影響を及ぼす可能性は低い」とした。

●金融政策は「為替操作」か?

・基本的に、「為替操作」とは直接的な為替介入を指す。
・アベノミクス(金融緩和)により円安誘導を行ったと一般的には信じられているが、それを否定する見解もある。

・為替操作国って何?
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/articles/20190806.html
>「為替操作国」とは、自国の輸出に有利になるように通貨安へと意図的に誘導している国のこと。自国通貨を売って、ほかの国の通貨を買うことで、為替相場に介入しているか、中央銀行の金融政策をコントロールしているか、などが判断材料。G20サミットの首脳宣言にも、為替操作は「避けるべきだ」という文言は盛り込まれ、国際的にも問題視されている。
>アメリカ政府は、アメリカの貿易相手国の為替政策を分析した報告書を年に2回、公表している。分析の結果、問題ある国を為替操作国に認定する仕組み。認定は主に次のような基準に照らし合わせて行われている。
▽アメリカに対する貿易黒字が200億ドル以上=日本円でおよそ2兆円以上の国であるかどうか。
▽一方的な為替介入による外貨の購入を1年間で6か月以上、繰り返し行い、この金額がGDP=国内総生産の2%以上となる国かどうか。
▽経常黒字がGDP比で2%以上の国に当たるかどうか。
*そもそもアベノミクス(金融緩和)自体、円安誘導ではないという記事。
・円安はアベノミクスのお陰か?米の為替条項が問いかけるhttps://www.asahi.com/articles/ASLC17SBFLC1ULZU015.html

・考察:主流派経済学というのか、貨幣数量説的には、金融緩和も為替操作なんだろうけど、だったら尚更MMTをベースにすれば何の問題もなくなるのでは?MMTは金融緩和もやらないし、為替操作もやらない。

●財政政策は「為替操作」か?

・為替変動の原因にはいろいろある
・インフレは円安要因だが好景気は円高要因
・貨幣供給が増え輸入が増えれば円安になるが、だからと言ってトランプは「アメリカ製品の輸入やめろ」と言うのか?

・「物価変動」と「為替レート」の関係
https://gentosha-go.com/articles/-/10371

・レイ(2019)ではおそらく為替操作について言及されていない。レイは変動為替相場かつ主権通貨が最も政策余地が大きいと述べているので、為替相場は市場に任せるスタンスだろう。

L・ランダル・レイ著、島倉 原監訳(2019)『MMT現代貨幣理論入門』(Kindle版)東洋経済新報社。
>・変動為替相場で主権通貨→ 最も政策余地が大きい。政府は自国通貨で売られるものなら何でも購入できる「支出能力」がある。自国通貨におけるデフォルトリスクはない。政府支出が大き過ぎると、インフレや通貨安が起きる可能性がある。(第6章第9節 Kindle版位置:5142)
>同時に、国内の雇用と所得が高水準になると、状況によっては貿易赤字をもたらす可能性がある(先に論じたように、輸入品に対する国内の需要が、輸出品に対する海外の需要に比べて増加するため)。これが為替レートに影響を与えるかもしれない(ただし、貿易赤字と通貨安の相関関係は、確実と言うには程遠いものではあるが)。(第7章第1節 Kindle版位置:5239)

・考察:結局のところ、財政支出を増やして貿易赤字になれば(つまり輸入が増えれば)円安基調に向かう可能性はあるが、日本の貿易赤字はそもそも米国の望むところである。よって、財政支出の増加それ自体を「為替操作」とみなすことには相当の論理の飛躍があると言わざるを得ない。

●FTA交渉過程の資料

・米国は、日米FTAの目的についての資料を公開している

・U.S.-Japan Trade Agreement Negotiations
https://ustr.gov/countries-regions/japan-korea-apec/japan/us-japan-trade-agreement-negotiations
*これが共産党が挙げていた資料。
・United States-Japan Trade Agreement Negotiations Summary of Specific Negotiating Objectives, December 2018
https://ustr.gov/sites/default/files/2018.12.21_Summary_of_U.S.-Japan_Negotiating_Objectives.pdf

・内田聖子さんによる日本語訳
http://www.parc-jp.org/teigen/2019/USJTA/usjta_objectives.pdf
*為替条項に関する記述はこれだけ。
>Currency: - Ensure that Japan avoids manipulating exchange rates in order to prevent effective balance of payments adjustment or to gain an unfair competitive advantage.
訳)通貨:効果的な国際収支の調整を妨げたり、不当に競争力を強化したりする目的で、日本が為替レートを操作しないことを確実にする。

・これだけでは、為替操作の範囲が明確でない
・既に締結されている新NAFTAの為替条項はどうなっているか?

●新NAFTA(USMCA)について

*新NAFTAについての解説。
・米国・メキシコ・カナダ協定-Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%80%E5%8D%94%E5%AE%9A
*新NAFTAの本文
・Agreement between the United States of America, the United Mexican States, and Canada 05/30/19 Text
https://ustr.gov/trade-agreements/free-trade-agreements/united-states-mexico-canada-agreement/agreement-between
*為替条項は33章
・CHAPTER 33 MACROECONOMIC POLICIES AND EXCHANGE RATE MATTERS
https://ustr.gov/sites/default/files/files/agreements/FTA/USMCA/Text/33_Macroeconomic_Policies_and_Exchange_Rate_Matters.pdf

>Article 33.3: Scope
This Chapter does not apply with respect to the regulatory or supervisory activities or monetary and related credit policy and related conduct of an exchange rate or fiscal or monetary authority of a Party.2
---
2 For greater certainty, the term “exchange rate or fiscal or monetary authority of a Party” includes a central bank of a Party.

訳)
>第33.3条:適用範囲
本章は規制・監督活動または、通貨政策および関連する金融政策ならびに、関係する為替相場または締約国の財政・金融当局の行為に関しては適用しない。2
---
2 より正確には、「為替相場または締約国の財政・金融当局」には締約国の中央銀行が含まれる。

・このように、新NAFTAにおいては財政・金融政策を適用外とする規定が置かれている
・日米FTAにおいて為替条項が導入される場合に、このような規定を入れれば、為替条項が財政・金融政策を対象としないことを明確にできる

●日米FTAが事後承認あるいは「国会の承認を要しない国際約束」とされる可能性はあるか

・この項目は以前まとめたものだが、実際のところ事後承認にはならず、通常の国会承認の手続きが行われている

・中内康夫「条約の国会承認に関する制度・運用と国会における議論:条約締結に対する民主的統制の在り方とは」『立法と調査』(330)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2012pdf/20120702003.pdf
>国会が事後承認を行ったことは、これまでに承認案件として 11 件あるが(図表3参照)、大多数は 1950 年代半ばまでの事例であり、第 39 回国会を最後に事後承認は行われていない。そのため今日においては、事前承認が通例であり、政府は、締結手続を行う前に条約を国会に提出している。(8頁)
>まず、第1のカテゴリーは、法律事項を含むものであり、国際約束の締結により、新たな立法措置が必要となる場合又は既存の法律を変更せず維持する必要がある場合である。憲法第 41 条が、国会を国の唯一の立法機関と定めていることを踏まえたものであり、領土又は施政権の移転のように立法権を含む国の主権全体に直接影響を及ぼすような国際約束もこのカテゴリーに入る。(5頁)

・ただし、現在審議中の「日米貿易協定」は米国では特例で議会承認がいらない模様(日本では必要)。

・日米貿易協定、米の協定発効に議会承認なし 早期発効へ特例措置
https://www.sankei.com/world/news/190926/wor1909260008-n1.html

●健康保険について

・2011年9月に、米通商代表部(USTR)が出した文書の中には、健康保険払戻制度(後述の田村議員は「医療費償還プログラム」と訳している)の運用に対する意見が述べられている。

・「医薬品へのアクセスの拡大のための TPP 貿易目標」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp02_01.pdf
>ジェネリック医薬品及び革新的医薬品双方が TPP 各国の市場に参入する
最も公正な機会を確保するため、政府の健康保険払戻制度の運用におい
て透明性と手続きの公平性の基本規範が尊重されることを求める。

・共産党の田村議員がこの点について、「公的医療保険制度の見直しを求めている」と指摘

・「医療保険は議論の対象」『しんぶん赤旗』2011年10月28日
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-10-28/2011102802_02_1.html
>田村氏は、アメリカ通商代表部の「医薬品アクセス強化のためのTPPでの目標」という文書(9月)で、新規医薬品の薬価をさらに引き上げるため公的医療保険制度の見直しを求めていることを指摘し、政府の説明と違うこの文書を厚労省は入手していたのかとただしました。

・考察:ただし、これは運用改善を求める要求であるので、公的医療保険を廃止せよという話ではない。また、医薬業界にとっては公的医療保険がある方が売り上げに貢献するはずなので、公的医療保険をなくせという主張をすることはないだろう。

・「国民皆保険が脅かされる」というのは、そもそも医師会が懸念していたこと

・日本医師会「TPP 交渉参加について」
http://dl.med.or.jp/dl-med/nichikara/tpp/tpp20130315.pdf
>日本医師会は、かねてから、将来にわたって国民皆保険を堅持することを強く求めると同時に、ISD 条項により日本の公的医療保険制度が参入障壁であるとして外国から提訴されることに懸念を示して参りました。

・ただし、米国生命保険協会からの、日米FTAへの要求事項には、かんぽや共済についての記載はあるものの、皆保険については触れられていない

・Comment from Leonard B Smith, American Council of Life Insurers (ACLI)
https://www.regulations.gov/document?D=USTR-2018-0034-0061

・外国貿易障壁報告書を見ても、やはりかんぽや共済を問題視しているだけ(285-286頁)

・UNITED STATES TRADE REPRESENTATIVE "2019 National Trade Estimate Report on FOREIGN TRADE BARRIERS"
https://ustr.gov/sites/default/files/2019_National_Trade_Estimate_Report.pdf

・TPPでも公的医療保険制度は対象外となっている

・TPP協定交渉大筋合意にあたって
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/2015/1007_003900.html
>「公的年金計画又は社会保障に係る法律上の制度の一部を形成する活動・サービス(公的医療保険を含む)、締約国の勘定、保証又は財源を利用して行われる活動・サービスには適用されない」となっており、我が国の公的医療保険制度はTPPの対象外とされている

●ISD条項について

・外国投資家と国家の間の紛争を仲裁する仕組み
・損害賠償請求はできるが、制度の変更はできない(損害賠償請求を恐れて、予防的に制度を変えざるを得なくなる可能性はある)
・米韓FTA改定では、ISD乱発を防ぐ規定が盛り込まれた

・国立国会図書館「ISDS 条項をめぐる議論」『調査と情報』(807)
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8331366_po_0807.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
>ISDS 条項とは、外国投資家と国家(投資受入国)の間の紛争を、国際的な仲裁機関に付託するための手続等を定めた規定である。世界中の多くの投資協定や自由貿易協定の投資章に設けられている。
>投資受入国が投資協定の規定に違反したおそれのある場合、投資家は投資受入国との紛争を国際仲裁機関に付託し、損害賠償を請求することができる。ただし、投資受入国の法令や政策の変更を求めることはできない
・ISDS 条項批判の検討:ISDS 条項は TPP 交渉参加を拒否する根拠となるか
http://www.hamamoto.law.kyoto-u.ac.jp/kogi/2012/2012seminar/zemiron_isds.pdf
・ISD乱発を防ぐ韓米FTA改定…「第2のエリオット」減る
https://japanese.joins.com/JArticle/244754
>米国系ヘッジファンドなどが投資家-国家間訴訟(ISD)を乱発するのを予防する規定が韓米自由貿易協定(FTA)改定案に盛り込まれることになった。

更新履歴

2019/9/7 記事作成。USTRのFTA交渉過程の資料と、為替操作とMMTに関する考察を追記しました。日米FTAが事後承認あるいは「国会の承認を要しない国際約束」とされる可能性はあるか、について追記しました。
2019/9/8 ISD条項について追記しました。
2019/9/9 細部を調整しました。
2019/11/14 日米貿易協定と日米FTAの違いについて追記した他、最新情報を踏まえて細部を修正しました。
2019/11/15 国民皆保険とISD条項の関係について、そもそも医師会が出所だったのでソースを変更しました。また、ISD条項に関しても情報源に偏りがあったので、より中立的なものに変更し、コメントも修正しました。
2019/11/16 「可能性がゼロでない限り全否定は良くないのでは」という指摘を踏まえ、若干表現を見直しました。あと、新NAFTAの為替条項について追記しました。
2019/11/20 国民皆保険についての米通商代表部の文書と田村議員の指摘を追記しました。

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