説教は言いたくない
説教くさいオヤジにはなりたくないと思いつつ、気がつけばそんな自分になってしまっているのかもしれない。そんな思いが頭をよぎる朝。カーテンを開け、窓越しにアーンドル・スクエアの公園を眺める。初夏の陽光が新緑の木々を照らし、朝の散歩を楽しむ人々の姿が見える。心地よい光景だ。
コーヒーを淹れながら、今日の予定を確認する。午前中はブログの記事を書き、午後はDr. Goldsteinとの定例ミーティング。そして夕方にはAliceとの約束がある。忙しい一日になりそうだ。
パソコンに向かい、記事を書き始める。テーマは「現代社会における孤独と疎外」。Dr. Goldsteinとの対話から得た洞察を元に、自分なりの考えをまとめていく。しかし、書けば書くほど、自分の言葉が説教じみてくるように感じる。
「若い読者には、こんな文章は受け入れられないだろうな」
そう思いながらも、書き進めてしまう自分がいる。かつての自分なら、もっと斬新で挑戦的な視点で書いていたはずだ。しかし今の自分は、どこか保守的で、教訓めいた文章になってしまう。
「これも年齢のせいか」と自嘲気味に笑う。
時計を見ると、もうすぐDr. Goldsteinとのミーティングの時間だ。急いで身支度を整え、キングスカレッジへ向かう。地下鉄に乗り込むと、スマートフォンを手にした若者たちの姿が目に入る。彼らは一体何を見ているのだろう。SNSか、ゲームか、それとも動画だろうか。
Dr. Goldsteinとの対話は、いつものように刺激的だった。しかし今日は、自分の変化について話してみた。
「最近、自分の言動が説教くさくなっているような気がするんです」
Dr. Goldsteinは静かに微笑んだ。
「それは成長の証かもしれませんね、Ichi。重要なのは、自分の変化に気づいていること。そして、その変化を受け入れつつ、常に新しい視点を持ち続けることです」
その言葉に、少し肩の力が抜けた気がした。
夕方、Aliceとの約束の時間が近づく。テートモダンで待ち合わせだ。美術館に向かう途中、ふと立ち止まり、テムズ川を眺める。川面に映る夕陽が、オレンジ色に輝いている。
「きれいだな」
そう呟いた瞬間、隣にいた若いカップルが振り返った。彼らは一瞬私を見て、そして川面に目を向けた。
「本当だね。きれい」
若い女性がそう言って、スマートフォンを取り出した。写真を撮るのだろう。
その光景を見ながら、私は思う。説教くさくなったかもしれない。でも、美しいものを美しいと感じる心は、きっと変わっていない。そして、その感動を誰かと共有したいという思いも。
Aliceが到着し、一緒に美術館に入る。現代アートを前に、私たちは熱心に議論を交わす。その中で、自分の中にある固定観念や偏見に気づかされることもある。
帰り道、Aliceが言った。
「あなたの意見、最近少し保守的になったかも。でも、それはきっと経験を重ねたからよ。大切なのは、その経験を踏まえつつ、新しいものにオープンでいること」
その言葉に、私は頷いた。説教くさくなったかもしれない。でも、それは自分の一部に過ぎない。大切なのは、常に学び、成長し続けること。そして、自分の変化を受け入れつつ、新しい視点を持ち続けること。
家に帰り、窓を開ける。夜風が心地よい。アーンドル・スクエアの木々がそよいでいる。明日は、また新しい一日が始まる。どんな発見があるだろうか。その期待を胸に、私は眠りについた。
Atogaki
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