【盛夏火 団地演劇 Vol.2】 『夏アニメーション』

令和元年8月32日、つまり9月1日に盛夏火を観てきた。面白かった。「よくできているかどうか」とかはわからないけれど、少なくとも文句なしにちゃんと面白かった。前回以上に展開という展開がないままに進むのに、セリフの面白さで充分観ていられる。

たけきさんを知っていればいるほど、この人ひょっとして本当に畳の上で花火をやる気なんじゃないか、とか、変な緊張感が走ったりもする。僕の知ってるたけきさんは常識人だから流石にやらないはずだけど、でもやりかねない部分もある。そういうのも面白かった。魚釣りは人形で処理するのにソーメンは本当に流すんだ、とか、変なこだわりと、変な割り切りを行ったり来たりする。気が抜けない。

まだ2本しか演劇をやっていないけれども、多分今後続けたとして、盛夏火の演劇は面白いのだと思う。それは作っている金内たけきという人がそもそも無類に面白い人間であるからで、そんな人のパーソナリティを存分に反映させた演劇はやっぱり面白い。

前回同様、何かコメントを寄せてくれと(まだ見てもないのに)今回の「夏アニメーション」にもコメントを寄せた。「今度はどんな憑き物落としに付き合わせるつもりだ?」というようなことを書いた。今回も前回とは別の意味で、やっぱり憑き物落としだった。

前作「スパイダーランド」は個人の中の孤独感とか執着とか性欲とかドロドロとしたものが描かれていて、たけきさんのオブセッションめいたものをほとんど本人のエピソードトークと妄想のような形で描かれていた。

今回は、たけきさん自身のオブセッションめいたものが「夏」というモチーフに引っ張られたのか、全く違う形で表出している。簡単に言えば、もっとずっと明るい。それでも、明らかにずっと「夏」について考え、もうとっくに別に夏休みなんてなくなっても、夏休みという時間に縛られ続けている。そういう執着を作品内と作品作りそのものに反映してみせる。やっぱり憑き物落としじゃないか。と観終わって思った。

2作観てわかるのは、たけきさんの作品は、自分が感じている感覚をどうやって伝えるのかを丁寧にやっている。今回が比較的明るくて、切なかったり楽しかったりするのはたけきさんの思う夏のイメージがそういうものだからなのだろうし、それを称して「夏のアレ」としてコチラに共有させようとする(そしてそれに成功している)情熱というか気迫がすごい。

「これは良くて、これも良くて、でもこっちは良くないんだ」たとえば「サマーウォーズ」は違う、みたいなことをわざわざ言及する。そんなに細かく夏について考えたことなんて少なくとも僕はない。

俺はそんなに夏が好きってわけじゃないけど、なるほど、でも怪談は好きだし、夜の海は好きだし、確かにいいかも。花火も久々にやってみると楽しそうだな。ーーとか、そんな感じで徐々にたけきさんのペースに巻き込まれていく。

とはいえ、僕は今年で31だし、たけきさんだってもう30だ。普通に考えたら、いい大人が集まって花火ってのも、ねぇ。とか、普段の僕ならそんなことも考えないわけじゃない。でも、金内たけきという人は、そういうなんとなくこっちが大人のフリするために使うロジックは使わない。というかそもそもたけきさんが年齢を物差しに遊び方を考えたり変えたりしようとするのをみたことがない。

そういう人が作っているから、この話は成立している。もしこの話をまぁ普通に夏は好きだったよ、みたいな人が作ろうとしたら、誰の共感も得られなかったはずだ。この話にちゃんと共感できる。「スパイダーランド」の孤独感も共有できた。たけきさんは普段の言動以上に、演劇という言語で自分の感覚を共有させるのが上手いのだ。下手すると喋る以上に。

×  ×  ×

演劇についての知識はそう多くないのだけど、通常上手(かみて)と下手(しもて)ではけたり出てきたりするものを、団地の一室という構造上の必然として、手前側と奥のベランダという形で出入りをしているのが面白かった。まるで空間そのものがループするようなめまいのする感じ。

前回が(物語の設定上も)実際に団地の一室だけで進行する話だったのに対して、今回は、団地の部屋をいろんな場所に見立てていく。つまりは普通の演劇に近づいている感もあるのだけど、それぞれの見立てをほぼ音で表現していくのは面白かった。盆踊りを、盆踊りの曲ではなく、全国共通のこなれていない進行ナレーションで表現したりする。多分そういうことの積み重ねが「金内たけきの思い描く夏」の表現になっている。しかも開け放たれたベランダの窓からはセミの鳴き声が聞こえ続け、徐々に陽が短くなってきている晩夏の夕陽が徐々に暮れていく。たけきさんの演劇では、なぜか突然こういう演劇的というよりは映画的な瞬間が現れる。「スパイダーランド」もそうだった。

前回は膨大な量の映画DVDが別に本編とは何の関係もなしに、これ見よがしに客席側に置かれていて、誰かんちに来た感を高めていたのだけど、今回はセッティング全てがそういう生活感を無くしていた。ちゃんとそういうところまで作品に合わせてチューニングしてるんだな、と、ちょっと感心していた。

友達だし、別に褒めっぱなしでも良いのだけど、一応気になったポイントも書いておく。

前回も少し気になっていたポイントなのだけど、今回もラストの落としどころが、もう一踏ん張りしたかったな、とは思った。とはいえ、前回より遥かに良い。夏が終わる。終わったら次の季節が来て、秋には何をしようか?みたいな。(ヒルクライムかよ?)それ自体はとても良かった。「(500)日のサマー」のオチみたいな。

彼らはループしている。それはどうやら、一人の男が「夏が終わってほしくない」と思っているからだ。だったら、「次の季節が来て欲しい」と思えば良いのだ。と、進んでいく流れは自然だし、一連のドタバタは面白かった。スクリーンに映し出される狂ったデジタル時計とか、5次元だ6次元だと「インターステラー」ライクの概念を振りかざして力づくで納得させる。この辺は全部良かった。

でも、この話だったら、僕はループを生じさせているハルキ=たけきが夏を終わらせた、その瞬間の内面をこそもっと観たかった。

ひょっとしたら照れがあったのかもしれないし、流石にそこまでは自分を客観的には見れなかったのかもしれない。単に別にそれは面白いとは思わなかったのかもしれない。

それでも、夏は終わった、ハルキは消えてしまった。というこの展開を「終わってほしくない、でも終わってしまう。終わらせないといけない」という、感情の揺れ動きで描ききれたら、と思う。

何でって、先に書いた通り、たけきさんならそれを共感させられると思うからだ。そして、それをこそ面白く描けてしまうはずだ。

×  ×  ×

最後に、各キャストについて。

新山志保さんは、主人公の主人公たる存在感とか、むすっとしてて可愛いという表情とか、そりゃハルキも好きになるよな、って感じの魅力に溢れていた。たけきさんは自分なりのミューズを連れてくるのが上手い。

鈴木啓佑くんは、コンプソンズでも何度か見ていたのだけど、可愛くも怖くもなる演技力が凄い。ちょっとしたトラブルとかも込みで、ある種の緩さも抱えている演出の中で、メガネが落ちても何しても演技の中で細かく処理していた。凄い。

Namiさんは終盤で推理役を披露したりと、何かと面倒な役回りが多そうだったのだけど、ちゃんとそういう人に見える感じがして良かった。全体の空気感をコントロールしているというか。終演後、他のキャストも込みで打ち上げに何故か参加したのだけど、焼肉を手際よく焼いて配っていたりした。

鳥居トリィさんはそもそも友達なので、初演技に我が子を見るような気持ちでいたのだけど、すぐに何の心配もいらないことがわかった。キャラ付けの段階で無茶な(極端に演技力を要求されたり負荷のかかる芝居を)させない演出もあるけど、それだけじゃなくちゃんと良い。ちゃんと叫ぶ演技もさせる演出側も偉いと思うし、ちゃんと応えて熱量のある演技をやり通してるのも良かった。せっかくだからまた何かの機会に演技してみて欲しい。

三葉虫オーディンみどりさんは、ピンポイントでしか登場しないのだけど、短い時間の中で作品の雰囲気というか、シーンの温度感を変えるのがうまい。たけきさんと比較的付き合いが古いからなのか、何となくちゃんと作品のテンションとかテーマを体現するような佇まいがあってよかった。

で、金内健樹。健樹さんである。この人のお芝居をどうこういうのは難しい。健樹さんにしか演じられない役なのは確かだ。台詞回しはほとんど本人そのままだし、誰よりも噛んでる。予期せぬところで変な笑いを生んでしまう節もないわけじゃない。前回はそれでもまだ細かな表情の芝居をしていたのが、今回は暴走気味なキャラクターを演じることで、その手の演技をそこまで必要としていなかった感じ。僕はたけきさんが敢えてピエロめいた役を演じるのを見るのも好きだけど、何とかコントロールして感情を演技で表現して見せようとする姿が、本人のことのほか雄弁な顔つきも相まって魅力的だと思うので、次はまたそういうのも見たい。

というわけで、別に誰に頼まれたわけでもないのだけど、また会う機会がしばらくない可能性もなくはなかったので、長文で感想を書いておいた。来年の夏もなんだかんだ遊んだりするであろう友達の一人として。

怜人

追記

最後にグリーンデイかけたら丸く収まると思ったら大間違いだぞ!悔しいことに世代的にドンピシャなので、「Wake Me Up When September Ends」がかかり始めた瞬間に自分自身の懐かしさもあってちょっとうるっとしてしまった。最初の歌詞が「夏がやってきて過ぎ去った」で締めが「9月が終わったら起こして」なので。ずるい。


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