銀兵衛新ネタライブに行った
銀兵衛のネタを初めて観たのは、昨年2020年のM-1で2回線のネタがYouTube配信されたのがきっかけだった。
僕はよくいるM-1の時期にだけ現れるお笑い評論家気取りの1人のようなもので、そこまで熱心に芸人を追いかけたりとかはしておらず、2回戦動画にしても、全てをチェックしていたわけでもなく、たまたま誰かのネタを観ようとしていたら銀兵衛が現れたのだった。
で、とにかくこの時の「タンバリン」のネタがとても面白かった。(現在は非公開)
荒っぽいと言えば荒っぽいのかもしれないけれど、とりあえずこの人たちのネタはちょっと追いかけないと、という気持ちになり、マセキのライブでやってる他のネタも観て、最終的に彼らのポッドキャスト「ドレミ転校生」を聴くようになり、今はもうほぼ毎日何かしらの回を繰り返し再生して生活している。
Twitterを眺めていたら突然新ネタライブをやりますという告知が流れてきて、慌ててTIGETのサイトに行って、とりあえず勢いでチケットを予約したら、まだ10分か20分しか経っていなかったのに20番台で、その後1時間足らずでチケットは売り切れてしまった。
席数がそんなに多いわけではないとはいえ、勢いが凄い。運よく告知の瞬間に気づけて幸運だった。
さて、新ネタライブである。
ドレミ転校生で語ってたところによると「マセキは勝手に単独ライブができないのでゲストを呼んで単独じゃなくしてる」とのことで、今回は「太陽の小町」と「赤もみじ」の2組がゲスト。
ちなみに、以下各ネタを備忘録的に感想とか書いていくけれど、いわゆるネタバレ的なものを気にする人は読まず、まっさらな気持ちで今後のライブとかで見てほしい。
1本目「谷間とワイレスイヤホン」
谷間の写真とワイヤレスイヤホンをしまう写真、1枚ずつだったら谷間の方がエロいけど、30枚ずつだったらワイヤレスイヤホンの方がエロい。
語り口が滅茶苦茶だけど、今回のネタの中ではこれでもまだ伝わる方。
意図的にそういうネタ順にしているのか、後半の方になるにつれてどんどん小松さんの主張が尖っていく気がする。
法律を置いて行ってる、とか、このしょうもなさそうな切り口をすごい熱量で語ることで爆笑をかっさらっていく。
谷間の写真を持たされたあゆむさんが律儀に写真を持ち続けているのを「お前いつまで谷間の写真持ってんだよ!」とつっこむのが一番好きだった。「何もしない」的な相方のポジション故の笑い。最近のネタは以前の「何もせずじっと小松の主張を隣で耐える相方」的な方向より、ずっと使い方が上手くなっていて、間違いなく「タンバリン」より面白い。(タンバリンだってあんなに面白かったのに)
2本目「梅干し」
銀兵衛は食べ物に関するネタがめちゃくちゃ多い。
バイト中に別に仲良くないバイト仲間が話のきっかけに「梅干し乗っけたご飯の赤くなった部分好きなんですよね」っていう会話、日本人は頼りすぎてるからビンタしたほうがいい。
自分で書いてても何言ってるかわからないけど、この主張を4、5分のネタでぶつけてくる。
このネタもあゆむさんに梅干しのご飯の美味しさを伝えさせた結果、そんな熱量ではこねぇんだよ、という返しが好きだった。銀兵衛のネタでは毎回相方の比較的一般的な主張を全力で否定する言い回しが最高なのだけど、今回も最高だった。
赤もみじ「カフェの冷房」
赤もみじのネタは過去に1、2回観たことあるくらいだったけど、このネタは面白かった。
銀兵衛のネタが明後日の方向から来る主張・思想なのに対して、赤もみじのネタは日常のちょっとした愚痴を大声で捲し立てていくスタイル。
エンディングのトークでも、割とシャイで主張しない銀兵衛に代わって村田さんが場を支配していた。
大先輩感を勝手に感じてたけど、銀兵衛と年齢も芸歴も1年か2年しか違わないのはビビった。貫禄がありすぎる。
3本目「お年玉」
お年玉をもらう時の顔の正解を見つけられないまま大人になった。
→本田望結ちゃんだけが正解を見つけ出せる。
→彼女は今17歳。
→20歳になるまでに彼女にお年玉を上げられるくらい売れなきゃ続ける意味がない。
→だから銀兵衛はあと3年で終わり。
という飛躍のありすぎるホップステップジャンプ。
鈴木福くんとか芦田愛菜ちゃんの顔まで思い浮かべさせた上で「でも正解じゃない」って言い切る下りが最高。
ただお年玉を貰う時の顔の正解がわからない、っていうの自体は結構わかる。子供なりにめちゃくちゃ考えて、金を貰うこと自体を喜びすぎるのもよくないし、なんかお金じゃなくて気持ちを貰ってるんです〜みたいな顔するのも汚いし、難しい。
「20歳を超えるとお年玉をもらった時にするべき顔を作る筋肉が全部死ぬからもうできない」っていう主張でも笑ったけど、この主張はなぜかエモく感じてしまった。
やってることはバチバチのお笑いなんだけど、観点とか視点の置き方が、この人こんなこと一々考えて生きてきてたのかよ、っていうところにあるので、爆笑しつつ泣きそうになるようなエモさを持ってるのが銀兵衛の凄さ。
エンディングのトークでも赤もみじ村田さんに「この性格で24歳は長生きな方」と言われてて笑いつつホントそうだなと思った。
売れないままお年玉をあげに行く方法を提案するあゆむさんに対して、「あと3年で売れてやろうって言って欲しかった」で締めるのが笑えるし、愛を感じてよかった。
銀兵衛のネタって熱量が暴走するためにオチにあたる部分でなんだかちょっとグニャっとなることが多い中で、このネタの締めはすごく綺麗。
4本目「しいたけ」
「しいたけ食べれないですよね〜っていう話された時、自分のこと嫌いって言われてるみたいになって背もたれからちょっと背中離して前のめりになるからやめてほしい」
ネタの入り方自体は他のネタと同様なんだけど、途中であゆむさんにしいたけの嫌いなところを話させるくだりがあり、完全に企んでたのか、それとも途中で楽しくなってしまったのか、普段ほとんどネタで長尺で喋らないあゆむさんを延々泳がせる(おそらくアドリブ)のが面白かった。
M-1に向けたネタをやります、っていう括りで考えると、アドリブ入れちゃっていいのかな?みたいなことも一瞬明らかに余計なお世話だけど思ったのだけど、
M-1の大舞台でネタをやる時、こうやって瞬発力みたいなものだったり、ネタ自体を楽しむような余裕みたいなものが求められる瞬間も来そうな気がして、そこまで見込んだ上でこれやったんだとしたら、ちょっと凄いなと思った。
アドリブのおかげもあってか、やや箸休め的なネタだった印象。
太陽の小町「ミニマリスト」
理想の結婚相手、ということで提示された要素がミニマリストっぽい、というところから、ミニマリストいじりがスタートするネタ。
初めてネタ見たけど面白かった。どう考えても安田さんがボケっぽいんだけど、つるさんの方がボケらしい。
まぁそれ言い出すと銀兵衛のボケとツッコミってどうなってるんだろうっていう話ではあるけど。
ミニマリストが老人になったら刑務所、とか発想が凄い。ミニマリスト自体をネタにしたりするのもあんまり見たことがなかったし、ベースが自虐だからか嫌な感じもせず、すごくよかった。
エンディングのトークでは安田さんがいじられつつ、要所要所で暴走しがちな展開を大声のツッコミでなんとか締める、という回しで、安田さんいなかったらあのトークどうなってたんだろうという感じだった。
5本目 卒業式
卒業式の胸の花をいつ外すかでその後の人生が決まる。
銀兵衛は食べ物ネタが多いのと同時に、ドレミ転校生なんかだと学校の話が多い。小松さん自身が芸人になってなかったら何になってたか、で学校の先生を挙げてたくらい。
卒業式の胸の花を外すタイミングで、絶妙にその人の性格や主張、社会の中での立ち回りが見える。
見に来た人全員が言ってるけど、このネタはとにかく圧巻だった。
単純なネタとしての笑いやすさ、ということだけで言ったら、これより前の1本目、2本目とかの方がわかりやすくて笑えたかもしれない。
でも、このネタの中で、主張される「学校祭でもっと楽しんでおけばよかった」とかの後悔とか、花を外す瞬間の自意識や、そこにあった葛藤の全てを「っていうの全部青春!」と言い切ることが笑いにつながるのと同時に、滅茶苦茶エモい。
その上で、それらを全部俯瞰して見て体育館から教室に行くまでの間で花を外すのが正解、
だから俺は今ここに立ってる、と漫才師として舞台に立っている事実ごと主張に含める。
うまくまとめられないのだけど、ここで主張されるロジックや記憶は、単なる理屈としてじゃなく、小松海佑という人間の在り方として説得力があり、最後のネタにふさわしい内容だった。
漫才が始まるときに必ずいう「高校の同級生でコンビ組んでます」が前振りみたいになって、このエモとおもしろの同居による爆発力こそ、M-1にむけた武器だなと。
昨年の2回戦で、世の中に動画で自分たちのネタを見てもらえる機会があったことを喜んでいたようだし、2回戦で落ちた時の騒ぎっぷりも、ネタにはしてたけど結構悔しかっただろうから、今年のM-1にかけた意気込みを感じるいいライブだった。
※余談1
ドレミ転校生のファンとしては、作家のたなかさんが地味にうろうろしてたのも熱かった。今回どんな形で関わってたのかあまり知らないのだけど、とりあえず銀兵衛とともに爆売れしてほしい。(銀兵衛より早く売れてる感すらある)
※余談2
客入れ時の選曲がめちゃくちゃ好みで、入ったときには日食なつ子の『水流のロック』。さらにGOMESSの『Poetry』にCreepy Nutsの『板の上の魔物』『バレる!』で、基本的にあゆむさんチョイスらしいけど、どの曲も絶妙に銀兵衛の在り方に重なっていて、ライブ自体のエモさをガンガンに高めてた。
出囃子で『地獄でなぜ悪い』と『はいしんだ』を掛けてるのはなんとなく知ってたけど、『夜に失くす』も滅茶苦茶良かった。5本目で満を辞して『はいしんだ』がかかった瞬間、ファンの女の子が爆笑してて、流石にちょっとどうかとは思いつつ、これぞ銀兵衛感は確かにある。
※余談3
冒頭の掴みで「そういう目で見よう」って決めフレーズ、1本目ではクスクス笑いだったのが、流石に5回一日で聞くとそのくだりだけで別に誰も笑わなくなるのだけど、テンションの違いなのか単に統一されてないだけなのか、毎回微妙に言い方が変わっていて、毎回本気で「そういう目で見よう」って思って言ってるんだな感があってよかった。
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