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シン・デレラ〜人間失格〜

 むかしむかし、あるところにシン・デレラという娘がおりました。シン・デレラはたいそう器量良しで、しかも巨乳で、それに嫉妬した継母と義姉に亀甲縛りと鞭で、躾と称して虐められていたのです。

 ある日、お城から舞踏会のお触れが出されました。その武闘会の参加者の中から、お妃様を選ぶのだそうです。街の娘たちと港区のOLたちは色めき立ちました。これで勝ち組になれる。タワマンの最上階に住める。パパ活をしなくてもよくなる。好きなだけディオールやコーチのバッグを買える。娘たちだけでなく、既婚者のはずの継母までもが色めき立ち、王子様の関心を買おうとワコールのサルートシリーズを買い、デコルテメイクに余念がなかったのです。

 シンデレラは思いました。「私も舞踏会に行きたいなあ。」そう呟くと、どうしたことでしょう。シンデレラの前に魔女が現れたではありませんか。

 「あのとき、助けていただいた鶴です。」

 そう魔女はシンデレラに告げると、魔法をかけました。かぼちゃはBMWに変わりました。ネズミたちはパリピなウェーイ系チャラ男の運転手に変わりました。シンデレラのボロなドレスは、なんということでしょう、胸元も背中もあらわな童貞を殺す服に早変わりです。これで、世間を知らないお坊ちゃんな王子様など手玉に取るのは容易いことです。シンデレラは意気揚々とパーリーナイトに向かいました。

 舞踏会は異様な熱気とグルーヴ感に包まれていました。DJ Oujiによる熱いラップ。生きてることにマジ感謝、国王たる両親の不労所得にマジ感謝。若者たちは夜の渋谷で激しく踊り狂い、行きずりのセックスと酒を楽しみ、裏のVIPラウンジでは非合法の白い粉が回され、肉欲の宴が行われていたのです。シンデレラは我を忘れて踊り狂いました。アルコールと共に白い粉をがっちりキメ、複数の男の肉棒を咥えました。脚を開いて肉欲を貪りました。何人もの男がシンデレラの上に覆いかぶさりました。その中にはDJ Oujiの姿もありました。中に出せることにマジ感謝。いやマジ顔射。

 時は12時。渋谷の街にサイレンが鳴り響きました。警察のガサ入れです。何人も何人も、警察にしょっびかれて行きます。シンデレラも、継母も姉も王子様も、みんな等しくブタ小屋にぶち込まれ、そして最後には禁断症状を克服すべく施設に送られ、つかの間の脱ドラッグ生活を楽しむのです。

 しかし、ドラッグに嵌ってしまった者は、その誘惑からそう簡単に抜け出せるものではありません。シンデレラは禁断症状と幻覚に苦しみながらも、その輪廻から抜け出そうとしていました。苦しい、苦しい。幻覚の中で、シンデレラは裸になり、すべてを脱ぎ捨てて踊っていました。ガラスで作った靴は割れて粉々になりました。シンデレラの足は裸足で、割れたガラスを踏みつけて出血していました。シンデレラは狂ったように笑いました。あは、あは、あはははは。きもちいい!きもちいい!

 留置所の中で、肌はぼろぼろになり、髪の毛も抜けました。ドラッグをキメる前の健康的なシンデレラは、どこに行ったのでしょう。幽鬼のように骨ばった手で、ギョロギョロとした目つきで、ベッドの上で天井を見上げていました。もう、命が尽きようとしていました。

 シンデレラは幻覚の中で、王子様が迎えに来るのを確かに見ました。このブラジャーはあなたのものですか。ええ、私のものです。

 「おお、このおっぱいがブラにジャストフィット!あのとき揉んだおっぱいに間違いありません!」

 薬物によって痛めつけられ、しぼんでしまった身体は、元通りのたわわな果実に戻っていました。Gカップのガラスのブラジャー。それを身に着けて彼女は微笑みました。ようやく、苦しかった人生に平安が訪れたのです。

 人間、失格。もはや、シンデレラは、完全に、人間で無くなりました。いまは彼女には、幸福も不幸もありません。ただ、一さいは過ぎて行きます。

 彼女がいままで阿鼻叫喚で生きて来た所謂「舞踏会」の世界に於いて、たった一つ、真理らしく思われたのは、それだけでした。

 ただ、一さいは過ぎて行きます。

 シン・デレラの微笑みは、薬物によってどんよりとくすんだ肌でもなお、美しく、穏やかでありました。

 おしまい。

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