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今週のヴェリタスから~少子化対策はなぜ有効でないか(4/7付け 中空麻奈氏)

個人投資家が日経ヴェリタスから注目した記事を紹介して私見を述べてみたいと思います。

中空氏の論説紹介

4月7日付ヴェリタスの「異見達見」で、BNPパリバ証券の中空真奈氏が、「少子化対策はなぜ有効でないか」と題して、現在の少子化対策が状況の改善に機能していない理由について興味深い見解を寄せてらっしゃいます。まず日本が令和4年出生数が80万人を割り(2023年は76万人弱)、合計特殊出生率が1.26を記録したことと、お隣の韓国が2023年出生率0.72を記録したことを紹介した後で、「人口数はソブリンの信用力に直結する。~中略~国力に直結する大問題なの」だと指摘しています。

 もちろん現在の円安の大きな原因が、(FRBの高金利維持に加えて)人口減少を背景とする負の需給ギャップの長期的拡大予想にあることは周知の事実です。中空氏の問題意識は少子化対策の予算の使い方で、まず韓国が最近15年間で毎年2兆円を費やしてきたにもかかわらずほとんど効果なく人口数が減少し続けていることから、この生みたくないという意識を変えるには(韓国企業に事例があるそうですが)1,000万円を超える出産祝い金が必要になると述べています。そして(日本で)「申し訳程度の支援金が出ても(中略)子供を産むことへのインセンティブとしては焼け石に水」であるそうです。中空氏は(日本における)支援金が全く不十分であるとしたうえで、さらに効果的な実物支援として、住居費の負担が突出して大きい29歳以下の二人以上所帯(もっともこの世代の持家率は35%を超えるという)に、空き家(空き室)を「国が買い上げたうえでリノベーションを行い、子育て所帯に安く貸し出す」という提案をされています。

 第三の指摘は、欧州のように、各施策にPDCAサイクルで改善を着実に実施し、「異次元の対策」を取るにしても効果測定をすべし、と主張されています。また有配偶率が少ないことには事実婚の認可も一つの選択肢だそうで、2021年度の人工中絶12.7万件のうち夫婦でないと子供が持てないという因習のせいで失われた命がある、財源の手当てだけでなく、「身の回りの小さい工夫が(婚外子にも支援や支援金の一括払いなど)」も意外な効果があるかも知れないと記事を締めくくっています。

多様化する若者の意識

中空氏の投稿記事ではなぜ対策が有効ではないか、と指摘されるいっぽう、ではどうすれば有効になるか、という点では、巨額の現金と住居など現物支援、あとは調査を繰り返すということだけで、少子化に対して画期的な対策がないことがうかがえます。まず驚くのは、夫婦(やカップル)が子供を持ちたい気にさせるために1,000万円級の現金が「インセンティブ」として必要という仮説です。う~ん。「子どもを産むなら金をくれっ!」てこと?子供を持つ、親を介護する、そもそも家族を育むとはそういうことでしたっけ?私は、祖父母も養っている平凡なサラリーマンの家庭で育ちましたが、いま思うことは、ありきたりですが、家族を持つこと以上の幸福はない、ということです。翻って若い世代の人にとって幸福とは何かということですね。ネットにはたくさんの若者の意識調査が紹介されていますが、IT media online (https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2302/28/news072.html)のサイトによると、調査対象のZ世代の若者の55%が結婚するかしないかにかかわらず子供が欲しいと答え、女性は52%が結婚して子供が欲しいと考えているのに対し、男性は51.3%が子供はいらないと考えているそうです。子供がいらないという理由の17.7%がお金の問題であるのに対し、お金以外の問題が42.1%、両方という回答が40.2%と書かれています。結婚しようがしまいが、子供が欲しくない女性の割合は40%もあり、その理由も「育てる自信がない」「子どもが好きではない」「自由がなくなる」などが上位に挙げられています。現在の少子化は若い世代の多様な考え方を正しく反映しており、決して経済的な問題だけに還元できないことがわかります。言い換えると、現代の若者にとって子供への「需要」が不足しているわけで、需要不足を財政政策で解決しようというのは周知のとおり歴史的に見ても困難です。「子どもが好きではない」という若者に1,000万でどう?というのは対話として成り立っているのでしょうか?

財政政策だけで解決できるのか

 この問題には二つのアプローチがあると思います。一つは、子育て支援を無制限に拡充することです。若い世代(特に女性)の意識はともかく、不妊治療も含めて子育てに大金がかかることは事実なので、特に子供の医療や教育にかかる経費を社会で負担してしまうことです。日本の経済政策はトゥー・リトル、トゥー・レイトと揶揄されることが多いのですが、少なくともお金の問題で子供が持てないと考える人たちには「生んでくれたら、あとは国が育てるから」くらいの政府の約束をしましょう。マイナンバーを利用して、とくに低所得層をターゲットにした電子マネーによる補助金や教育バウチャーを活用しながら、惜しみなく経済的支援をしても、子供がいない人たちが反感を持つことはないと考えます。

 また財政だけでなく、倫理的緩和も考えてみればどうでしょう。妊娠・出産は女性のワンオペにならざるを得ませんが、キャリアにとって重要な時期にたいへんな心身の負担と思われます。人工子宮などの研究と倫理的検討を進めてはどうでしょうか。心臓移植にせよ、体外受精にせよ、当初は倫理的拒否感がありましたが、今は拒絶感をもつほうに違和感があります。しょせん倫理は社会と共に変わるもの、人工子宮も動物で安全を確かめながら、倫理的コンセンサスを高め、生命科学を活用して女性固有の負担を軽減するのはどうでしょうか。また両親の言動を学んだ人工知能を持つロボット育児、コミュニティーの元気な高齢者を巻き込んだ子育て支援など産業界や地域の区別なくできることはたくさんあると思います。

 一方、もう一つのアプローチは全く反対で、人口減に無理な政策で対処しないということです。結局、政府(企業、高齢者など)は子供に対する需要があるとしても、肝心の若い人たちが望まない以上、ほとんどの政策は結局効果がないと思います。少子化も市場に(自然に)任せましょう。「子どもがかわいくない」「子育てすれば自由がなくなる」という考えを変える政策はありません。高齢者も近い将来減っていきます。当面の労働力不足には外国人の招へいがよいと考えます。日本経済の大きな障壁は英語と国際的なマインドセットですから、少子化による労働者不足をきっかけにいっきに日本内での国際化を加速し、移民を受け入れることで、総需要不足が回復する可能性がありますね。子供を持ちたくない日本人Z世代の気持ちを無理やり(お金や現物支給で)変えようとするより、日本で働きたいと思ってくれる外国人と共存共栄を図るほうが効率的ですし。結局、今の若い世代の考え方は多様化しているので、財政支援(するなら徹底的にする)と科学的・倫理的規制緩和を組み合わせるか、それとも最終的には国家、民族、種の存続に至るまで市場に任せ、政策主導で対処しないようにするか、どちらが正しいのでしょうか。これさえ、少なくとも政府ではなく、国民(市場)が決めることと思いますが。

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