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宇宙食と乾燥技術 (宇宙食の雑学⑤)

「うへぇーッ、不味い!」
「どうしたのリコちゃん?って、ちょっとちょっと!一体何してるの?」
「何してるって、飯を食ってるんだよ。ただ、いつもお湯を注いで中の四角いブロックみたいなのを溶かしてから飲むスープって食品があるだろ?袋の中身を開けて、この四角い物体をそのまま食ったらさぞ旨み成分も凝集されてるんだろうなと思って中身を食ってみたんだ。」
「それで、味はどうだった?」
「超しょっぱい。無理。」
「だよねー。」
「しかしこのスープの素って言うのか?微細な多孔質の四角い物体。それに異様に軽いよな?まさか・・・これが噂の発泡スチロール飯か!?」
「そんな訳ないでしょう、それに発泡スチロールは食べても人間じゃ消化できないし、お腹も壊しちゃうからダメ。」
「じゃぁいつもこのスープ用パウチに入ってる四角や丸い物体は何なんだよう。古代宇宙文明のオーパーツか何かか?」
「これはね、フリーズドライって製法で出来てるのよ。」
「フリーズドライ?・・何か、聞いた事があるな。でも凍らせて(フリーズ)、乾燥(ドライ)させるのって一見矛盾してないか?だってほら、乾燥させるには熱を加えるだろ、冷やすんじゃなくて。」
「リコちゃんの言いたい事もわかるわ。でも、単に熱を加える方法で食品を乾燥させると、色々不都合な事も起こってくるの。そこで食品を乾燥させるための代表的な方法を大まかに紹介するわね。」

①天日干しや陰干し(自然乾燥)
②熱を加えて乾燥
③油で揚げる
④フリーズドライ

「食品を乾燥させるメリットとしてはまず、細菌やカビからの腐敗を防ぐ事で保存期間を長くする事。少し難しい言い方をすると、水分活性を低くする事が食品の保存期間延長の手段の一つなの。そして水分が抜けた分、軽くなる事で持ち運びと保管管理がしやすくなるというメリットがあるわ。果物などは水分が全重量中の90%と言われているから、乾燥の工程によってどれだけの軽量化が図れるかは一目瞭然ね。」
「何だ、いい事ずくめじゃないか。」
「でもその乾燥の方法が難しいのよ。まずは①の天日干し何だけど、これは魚の干物などを想像してくれれば良いわね。干物は美味しいし旨味もあるんだけど、作るのには干すための広い場所や晴れた日などの気象条件といった制約があるの。それに時間もかかるわ。」
「美味しそうなものを干してたら鳥や動物が狙ってきそうだしな。」
「②の熱を加えて乾燥させる方法なんだけど、そもそも食品に強い熱を加えるとどうなると思う?」
「どうって、焦げたりするとかか?」
「まぁ大体そんな感じね。例えば卵焼きを作る時なんかそうなんだけど、卵は焼く前はほぼ液体だけど、焼けると固まるでしょう?」
「それこそ乾燥して固まったんじゃないのか?」
「普通のガスコンロの火力じゃ1,2分で卵に含まれている全ての水分を飛ばす事は出来ないわ。卵の中身は多くのタンパク質が含まれていて、それに熱が加える事によって変性を起こした結果、白や黄色に固まるのよ。」
「悪い、ちょっと私にもわかる言語で言ってくれないか?何言っているのか分からん。」
「つまり世の中には熱を加えると、その構造が壊れて違う性質に変わってしまうものがあるの。無色透明の液体だった卵の白身が真っ白なかたまりになるみたいにね。これを熱変性って言うわ。この様に、熱を加えて食品を乾燥させようとすると、思わぬ化学変化を引き起こす事になるのよ。」
「食品を乾燥させるにも、どの方法も一筋縄じゃいかないんだな。」
「あともう一つ乾燥させる方法があるわ。これは熱を加えて水分を飛ばすという方法の一つなんだけど、油で揚げるというやり方もあるの。」
「油で揚げる?クレアの住んでた国の天ぷらやトンカツ、からあげクン®みたいな食べ物を作るときに使う技術か?」
「そう。リコちゃんよくからあげクン®なんて知ってたわね?あと私の母の実家のあるイギリスにもフィッシュ&チップスというやはりこちらも油で揚げる調理法ね。それとあと、話は逸れるけれど地球のコンビニの一つローソンで売られているからあげクン®もJAXAで認定している日本宇宙食に”スペースからあげクン”として登録されているの。」
「マジか!あの白いニワトリちゃん、宇宙にもいけるんか。・・宇宙ステーションや月面市の売店に売ってるかなぁ」
「どうかしらね、でもチューブ型の食品しか選択肢の無かった時代と比べて宇宙食の産業は開かれて、より私達にとっても身近になったのは事実よ。」
「それで、なんか油で揚げると水分が抜けるんだろ?でもこの方法もやっぱり、さっきの熱を加えると成分が壊れるとかいうやつが問題なのか?」
「そうね、中にはその方法で乾燥させてから水やお湯で戻しても問題ないものもあるわ。インスタントラーメンの元祖であるチキンラーメンなんかもこの手法を発明したという歴史もあるわね。でも、例えばイチゴとかチョコレートを乾燥させるために油で揚げるのは考えづらいでしょう?油で揚げて乾燥させる方法は、全ての食材に適用できるわけではないの。」
「単純に水分を飛ばすのにも色々な試行錯誤が必要なんだな。」
「そこで、大きな熱を加えずに食品の性質を保ちながら、それでいて乾燥させる技術が必要とされていたの。そして登場したのが、フリーズドライよ。」
「ようやくここで出てきたなフリーズドライ!・・という事は、さっきまでクレアが言っていた問題点っていうのが解決出来るのか?」
「そう、フリーズドライによる乾燥はその工程で加熱の様に高い温度にさらさらなくて良いし、また日光などの光にも晒されるリスクは少ないの。だから中に含まれている成分も壊れずにそのまま乾燥できるってわけ。そう言った経緯もあって、フリーズドライの技術によって乾燥された食べ物はお湯やお水で戻すと風味なども失われずに食べることができる(再現性が高い)と言われてるの。」
「それだけ凄い技術、どうやって乾燥させるんだ?」
「フリーズドライのすごい秘密についてはここのページでは書ききれないから、また次回お話するわね。じゃあここまで聞いてくれてありがとう!」
「またなー、」

<参考文献>


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