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月で一番大きな山はどこ? (宇宙の地理学①)

「うーん・・やっぱムズいかなぁ」
「リコちゃん、何の本を読んでるの?」
「あぁ、”月の登山ガイド”だよ。さっき宇宙ステーションのキオスクで売ってたから衝動買いしたんだが・・」
「へぇー、月にも山がいっぱいあるのね。てっきり月面にはクレーターと平野があるだけかと思ってたよ。」
「おーおー、クレアの今の発言で月に住む全ルナリエン(月出身者)を敵に回したぜ。」
「わぁ、リコちゃんごめんごめん。」
「クレア、月で一番大きな山ってどこか知ってるか?」
「え・・富士山とか?そんな訳ないよねーてへ。」
「それはニホンで一番高い山だろ。月で一番大きな山はホイヘンス山(Mons Huygens)だと言われてる。標高は5,500mだから、3,700mくらいの富士山よりも大きい。地球最高峰で8,000m級のエベレストやK2よりは若干小さいがな。」
「へぇ、月はサイズが地球よりも小さいからそこまで大きな山はないもんだと思っていたよ。」
「まぁ月に来た地球の人は結構そう言うわな。実はホイヘンス山はエラストテネスクレーターの側、アペニン山脈と呼ばれる険しい山地の中にあるんだ。それを地上からどうアプローチするかが登山をする上での難しい課題なんだよ。

〔図1〕ホイヘンス山と有名な地球の山との比較_Hiiragi Fujiwara

「うーん、アペニン山脈ってどこかで聞いたことある様な名前だけど何だったかなぁ・・」
「実はアペニン山脈の名前は地球のイタリアにある実際の山の名前からとられているんだ。だが地球のアペニン山脈の最高峰はコルノ・グランデが2,912m。月のアペニン山脈にあるホイヘンス山の5,500mには届かない・・が、酸素はおろか空気も全くない環境だがな。」
「地球の山ならある程度高くても呼吸は出来る環境だからね。」
「因みに月面には雨の海と呼ばれる平野の北東にアルプス山脈もあるんだぞ。月のアルプス山脈でスイスとコラボしたYouTubeやったらバズるんじゃないか?」
「それはど、どうかしらねぇ・・でも地球と月って空気だけじゃなくて雨や地面の活動など色々条件が違うじゃない?やっぱり月の山って隕石でしわくちゃになって出来たのかしら?」
「失礼な!月にだって火山活動はあったさ。もっとも20億年前には活動をやめたみたいだが・・少なくとも火山活動があったという事は、火山の形成やプレートの動きによって山脈や谷などが形成されることもあったんだと思う。あとはクレアの言う様に隕石との衝突によって生じたクレーター地形なんかもあるな。私的にはティコクレーターが美しくて好きだ。月面での朝や夜の日の低い時間に出来るクレーターとその外輪山の山々が映し出すコントラストは絶景だぞ?背景に地球が収まればなお良い。」
「リコちゃんって機械をいじってるかゲームしてるばかりかと思っていたらそんな素敵な趣味があったのね。」
「月面は地球と違ってレジャーの選択肢が限られてるんだよ。まぁ代わりに低重力だから地球上では出来ないアクロバティックなことも出来るけどな。」
「そう言えばさ、月のホイヘンス山は5,500mだけど重力が小さいから登るのは地球よりも楽なのかな?」
「クレア、よく考えてみてくれ。クレアが月面基地の廊下で地球にいた時みたいに走り出す事がよくあっただろう。その時どうなった?」
「あぁ、月に来た時は・・と言うか地球の実家からこっちに戻ってくる時は良く転んだり浮かんで天井にぶつかったりしてるね。」
「そうだろう?人間が地上を移動するためにはある程度の重力の存在が不可欠なんだ。地球の陸上アスリートが地面を蹴って勢いよくスタート出来るのも、F1のスポーツカーが高速で華麗なコーナリングを決められるのも。地球の持つ強い重力が私達をガッチリ地面に引きつけてくれるからこそ出せるスピードなんだ。」
「へぇ、私が単にドジだったからなだけだと思ってたよ。てへ、」
「クレアだったら多少のドジでもたんこぶだけで済むかもしれないが、月面生まれの私がクレアと同じ勢いでドジったら筋肉量も骨密度も薄いから死ぬわ。」
「地上で出せる速度で影響を受ける要素って重力以外には何があるのかな?」
「それとこれは話が脱線するが、スポーツカークラスになると大気圧によって地面に物体を押さえつける力も考慮されてくる。例えるならミ◯四駆だ。クレアは”かっとべマ◯ナム!”って熱いフレーズを知ってるか?」
「よく分からないよう!」
「とりあえず高速走行下でぶつかる大気を上手く受け流すと地面に車体が押し付けられて、走行が安定するんだ。これをダウンフォースと言うんだが、因みに月面で同じことをやると空気が無いからどんなにエアロパーツでデコっても明後日の方向へかっ飛べるぞ。」

〔図2〕ダウンフォース発生のイメージ

「月面は地球とは移動するのにも一苦労なんだね。」
「そう。だからこそ標高5,500mもある月のホイヘンス山への登頂は地球には無い更なる難易度があるんだ。」
「より安全対策が必要なんだね。」
「20世紀以来、人類は月に向けて大きな一歩を踏み出したばかりだがこの山にもいずれ登頂を達成する人が出てくるかも知れん。フロンティアはいつも、誰でも平等に地球のみんなの上に浮かんでいるのだ。」
「夢のある未来を皆で作れるといいね。」
「それじゃぁ今日のお話はここまでだ。次は何の話をしようか。思いつくままに今トレンドになりそうな宇宙ネタも取り上げていこうと思う。」
「それではまたお会いしましょう。」
「またなー。」


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