おかあさん

先のことを予測立てる癖がある。
大きな目標から日常の生活の小さなことでも、どうしたら一番ベストなタイミングで家事をこなせるかとか、色々考える。
時間が足りないと思ってしまう。与えられた時間はきっと必要なだけじゅうぶんのだろうけれど、焦りの気持ちが「ない」を世界に見出す。だから、朝ごはんのスープをチンしているうちにゴミを捨て、スマホでエッセイをアップし、チンが済んだらご飯をカメラの前に、撮影、用が済んだら次は仕事に出かける準備、、ひっきりなしに、頭の中は「次」を探す。
「次」との追いかけっこは終わりがない。追いかける立場が終われる立場にいつの間にやら変わったり、永遠に「次」を捉えられる瞬間など、訪れないような気がする。
私は放っておくとすぐにやらないといけないことを忘れるし、どこかにぬかりがあったりする。だから、こと細かく予定を立てて、なるべくぬかりがないようにと気をつけている。

スマホで定期券を買った。
今まではカードを購入していたけれど、いつも駅につくのがギリギリになってしまい焦るのが嫌だった。これなら事前に買っておけるし、カバンの中で毎回がさごそカードの入った財布を探す必要もない。
無事に家でスマホ決済を終え定期券を購入し、なんだやればできるじゃないかとちょっとだけ鼻高く余裕を持って駅まで行く。あ、そうだ図書館の本もう読み終わったのだった。ついでに返してから行こう。返却日にもゆとりを持って返せる私、できる大人って感じがして結構いい感じじゃない?と心の中で1人小さくドヤ顔をする。
そんなこんなで駅に着いたのは予定の電車が来る2分前。でも私にはモバイル定期券がある。ちょっと優雅になった気持ちでスマホを改札にかざすと、「ピーーーーーーッ」っとお立ち入り禁止(?)のエラー音が。
改札画面には「チャージ金額が足りません」の文字。え、なんでや?
スマホを確認すると、確かに定期券は買ってある。だけど、新しく購入したPASMO定期券と、ついでに今まで使っていたSuicaカードもついでにスマホに入れていたのだった。そして、メインで使用するカードが後者に設定されている。そちらのカードにチャージ金額がなかったため、改札を通れなかったらしい。
メインで使用するカードの変更方法がわからない。もたもたしていたら電車はやって来る。しょうがないので急いで切符を買って改札を通るも間に合わず‥。電車は無情にも、私を置いて行ってしまった。
せっかく定期券を買ったのに、急いで切符まで買ったのに、両方無駄になってしまった‥。

私はこんなことで、容易く人生に絶望しそうになる。自分のポンコツさが嫌になる。

そんな中で私は自分に問うた。
「この状況のなかで、メリットがあるとしたならどんなことだろう?」
ふと自分の中にいる子供みたいな存在から答えが返ってきた。

「子供ができたら、予定通りにはいかないことばっかりだよ」。

なんかよくわからなかったけど、その答えを聞きちょっと心が落ち着いた。

私は将来子供が私のもとに来てくれたらと願っている。 

そうだ。最近1時間単位で予定を作っていたけれど、予定通りにいくこともあればうまくこなせなかった時もある。そういう時、うまくできない自分を責める気持ちが生まれていたけれど、子供が生まれたらきっと自分の思う通りにいかないのは当たり前だろう。もし今自分が自分に向けている気持ちが、子供に対する母親からの気持ちだとしたら、さぞ子供はきゅうくつに感じるだろう。
自分が自分に対してそれをやってしまっているということは、将来、子供に対してもきっとやってしまう。無意識のうちに、子供をコントロールしようとしてしまうだろう。
私は自分のことを、まちがえることだらけの自分を、「やっちゃったね」と笑って受け止められるくらいのゆとりを、時間的にも精神的にも持っていこう、とそのとき思った。
そう思ったら今日の私の定期券未遂事件は、ただ自分のへっぽこさに絶望するだけの悲しい出来事ではなくて、自分自身を愛することを思い出させてくれる、愛へと私が戻ってゆくための出来事でもあるといつことに気がついた。そう思ったら、私は自分自身に落ち着くことが、少しだけできた。

愛は、自分に与えるだけしか誰かにもまた与えられないのだ。将来きっと出逢う子供の失敗を優しく受け止められる人であれるよう、私の中にすでにいるちっちゃな子供のぽんこつさを「やっちゃったね、かわいいね」とあたたかく受け止めてあげよう。
ますは、私が私の理想のおかあさんになってみようと思う。

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