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「はて?」と違和感を置いていく(まちの不思議 おもしろ探究日記#24)

(本記事は雑誌『社会教育』2024年6月号に掲載された記事を転載しています)

毎朝の日課が出来た。
NHKの朝ドラ『虎に翼』に、毎日励まされる思いで過ごしている。

私の友人には同じ思いの人も多く、それぞれに「朝ドラ受け」をしながら、みんなで好き勝手にやいのやいのと言って、ドラマを楽しんでいる。

日本で最初の女性弁護士の物語で、
社会の中にある理不尽な痛みを痛みとして丁寧に描き、
そこにどう向き合い、どう声をあげて、どう立ち上がり、
社会を変えていこうとするのか、
その一人ひとりの物語が実に丁寧に描かれている。

社会をすぐには変えることはできなくても、
声を挙げていくこと、その声を誰かが拾っていくこと、
そして仕組みを、言葉を、学んでいくということ。
ドラマに出てくる人たちのあり方に、
これは社会教育のすべてが詰まっているドラマだなぁと感じている。

ドラマの中で、甘味処に集まってああでもないこうでもないと議論をするシーンがある。あぁ、いつの時代も、こうやってみんなでやいのやいのしながら学んでいくのだなぁと思う。


ここ数年、私は、パブコメや行政予算、法律や条例などを、
みんなでやいのやいのするという活動をしている。
お堅い真面目な難しい文書も、みんなで「はて?」と
つっこみながら読んでいくと、少しずつ解像度が上がってきて、
日々の暮らしにつながる具体的な事が書いてあるということに
気が付いていく。
生活の中で感じるリアルな痛みはすべて、
法律や条例、行政予算といった難しい話につながっている。

The personal is political.
やいのやいのしながら、弱音を吐く、痛みを共有するということは、
本来とても政治的なことなのである。

以前、パブコメをやいのやいのする会に参加者してくださった方から、
こういった難しいものは、組織のトップの“オジサン”がやるものだと思っていた、と言われたことがある。
この“オジサン”という言葉は、単に中年男性という意味ではなく、
権威や社会的地位を持ち、社会全体の事をよくわかっている人
というようなイメージで使われているのだろう。
しかし、パブコメはすべての市民に開かれている意見提出手続である。

オジサンのものだと思われているものは、
オジサンのものと決まっているわけではない。
そして、その権利を得ようと戦っているのが『虎に翼』の中の人たちで、
その歴史の上に、今の私たちの暮らしはある。


先日、私の推し議員である参議院議員の伊藤孝恵さんの
絵本出版記念パーティーに出席した。
出版されたのは、『はんなちゃんそうり』という絵本で、
駄菓子屋さんになろうか、総理大臣になろうか迷っている
小学生の女の子の物語だ。

総理大臣になりたいと言ったはんなちゃんに、クラスの子たちは
「女の子は総理大臣にはなれないよ」
「女の子の総理大臣なんて変だよ」と言う。

海外では三十代女性の首相も誕生する中、
日本ではまだ女性の総理大臣は過去に一人もいない。
総理大臣はオジサンのものだと思われるのも仕方ないと言える。

夜になっても悩むはんなちゃんのもとに、
突然おばあちゃんのおばけが登場し、
「女の子だってなれますよ!」と言う。

おばあちゃんおばけの正体は、
一九四六年に日本で初めて誕生した三十九人の女性国会議員だ。
そして、はんなちゃんとおばあちゃんおばけは、
いろんな話をしていく中で、仲良くなっていく。

この絵本を描いた伊藤孝恵さんは、
日本で初めて、育休中に在職立候補をして、当選した国会議員である。
おばけのおばあちゃんたちが切り開いた未来を生きている。
「赤ちゃんを育てながら政治家なんて無理だ。」
「母親なら家で子育てをしていろ。」
そんな声を実際にかけられながらも、
子育て中の母親の視点も活かして、議員活動を重ねている。

絵本出版記念パーティー当日、
私は自作の伊藤さんを応援するうちわを持って参加した。

このパーティーは、いわゆる政治資金パーティーであり、
参加費も高く、一般的にオジサンのものだと思われている場である。
その場に、私はお気に入りの服を着てうちわを持って参加した。

同じように、推し活として伊藤さんを応援する仲間も全国から集まり、
みんなでうちわを持って、日々の生活の話から、政治の話まで
楽しく交流する時間となった。

数ヶ月前、党の政治資金パーティーに参加した際は、
スーツを着ている人の群れの中に、
ワンピースを着てうちわを持った私が、
一人ポツンと浮いている状態だった。

あまりにも違和感がある私の存在に、
「うちわ持ってる人がいる」と笑う声も聞こえてきた。
もしかしたら、「けしからん!」と思った人もいたのかもしれない。
しかし、その私の存在を知り、
次は絶対にパーティーに参加する!と決めてくれた人もいた。
そうやって少しずつ仲間は増えてきている。


伊藤さんの言葉で好きな言葉がある。
「まずは違和感をそっと置く。そして、少しずつ慣れてもらう。
 そうやってまわりが慣れていくと、少しずつ社会が変わっていく。」

『虎に翼』の寅子も、
そこに寅子がいることで、たくさんの違和感が生み出されている。
社会の様々なことに「はて?」とつぶやく寅子の姿は、
現代を生きる私たちにとっては共感する存在であるが、
ドラマの中の社会においては「はて?」とつぶやく彼女の姿こそが、
違和感そのものなのである。
しかし、まわりはその存在に少しずつ慣れていく。
そして、社会は少しずつ変わっていくのである。

社会の中にある理不尽な痛みはそう簡単になくならない。
けれど、一歩ずつ一歩ずつ社会は変えていける。
その一歩を進む力を、毎朝ドラマからもらえるありがたい日々である。

さて、今日も一日、がんばろう。



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