STK400
随分と図太くなったものだ。
小学生低学年時代に患った「仰向けに寝て天井の板の目を眺めているとグルグル周りだし口の中に異様な太さの鉄パイプを押し込まれる感覚に陥りパニックになる」病(大学病院まで連れて行かれたが未だに病名は分からない)から始まって、人前で何かをしなければいけない時は決まって涙が溢れ何も出来なくなる病や思い悩む出来事に出くわすと夜ほとんど眠れない病、そして責任ある立場で重圧がかかると何も手に付かなくなる病を本当につい最近まで克服出来ずにいた。
キッカケは何だったんだろう?おそらく友人の「あんたが思ってるほど世の中はあんたの事なんてアテにしてないのよ」が突破口だったかもしれない。とにかく何があろうとそもそも自分は大して期待もされていない訳だから先んじてピリピリ緊張するのは無駄だよなと割り切れるようになったので夜はグッスリ眠れるようになった。
随分と図太くなったものだ。
まぁそれでも大事な節目の仕事を前にすると緊張すんなって方が無理なので、わざと必要もない仕事を増やしてクタクタになるまで頑張って意識を失って倒れ込むように寝る、という秘策も生み出した。加えて現場でも完璧に振る舞う事を放棄して容量オーバーになるとバカのフリをして他人に委ねてより良いアイデアを引き出す術も覚えた。
随分と無責任になったものだ。
でもアテにされてないと理解すると本当にそのぐらいで世界は勝手に回っているのに気付き、良い意味で「こんくらいでイイか…」と諦められる。勘違いした使命感が故の過大なプレッシャーなどどこ吹く風。目の前にある誰でも出来そうな事をコツコツ丹念に全うするのみ。
随分と手抜きを覚えたものだ。
それにしてもあのグルグル鉄パイプ病はなんだったんだろう?未だにふとした時にあの独特の味が口の中に漂うことがあって懐かしくなる。
図太いパイプに負けないぐらい自分も図太くなったのかなぁと少しだけ寂しい気持ちもある。