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『少年Tに飼われた姉弟』(弟視点4) 全部、あいつのせい

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 物心ついた頃には気づいていた。自分の家がすごく貧乏で住んでいる家もボロくて、毎日のご飯もあまり美味しくないことに。子供心に、うちにはお父さんがいないからダメなんだと思っていた。そのせいでお母さんもずっと働いていて、ほとんど遊んでくれないのだ、と。
 かといってお父さんが欲しいとか、お母さんにもっと構ってほしいとか、そういったことを考えたことはあまりなかった。
 それはいつも姉が傍にいてくれたからだ。
 笹谷順平は一人、バラック小屋を出ると、玄関から数メートル先の天神川のほうに向かった。過去には大洪水を起こし〝暴れ川〟と呼ばれる天神川が目の前を流れているというのに、この界隈だけは転落防止用の柵も設置されていない。
 家の前の砂利道を歩いていくと、いきなり崖のようになっている。川底まで7~8メートルはあるので、一歩踏み込んで転落したら死を覚悟しなければならない。
 それこそ物心つく前から順平は母親や姉に「川には絶対行ったら、あかん」と強く言いつけられていた。
 もちろん、小学6年生になった今はいちいち言われなくても近づかない。川のほうに向かったところで何もないから、足を運ぶこともなかった。
 天神川はいつも通り、ドブ臭かった。順平は川の前までやってくると、腰を下ろして、体育座りした。二学期が始まって早一か月、10月初旬とあって、日が傾くのも早い。どこか寂しい気持ちにさせる秋の夕空の下、順平は口を真一文字に結んでいた。
 つい一時間ほど前、姉の夫佐子とかつての親友である脇友彦が裸で抱き合っているところを確認した。
 目撃ではなく確認という言い方をしたのは、順平はそれ以前に、姉の喘ぎ声をバラック小屋の外から聞いたことがあったからだ。姉はその時、喘ぎ声交じりに「友彦君」と呼びかけていた。あまりにも衝撃的な出来事に順平はその場で目の前が眩み、吐きそうになった。
 姉に裏切られた気持ちもあったが、それ以上に男同士とはいえSEXもする仲だった親友の友彦が、こっそり自分の姉に手を出していたことが許せなかった。
 だから学校で友彦を苛めるようになった。この前なんてクラスの女子の縦笛を、友彦のケツの穴に突っ込んでやったほどだ。
 それでも順平の怒りは収まらなかった。いや、怒りというより、真実が分からないことにいら立っていた。
あれだけはっきりと姉の声を聞いたというのに、まだ心のどこかで、幻だったのではないかという疑念に似た希望を持っていた。
 なぜなら友彦は自分と同じ年の小6である。高校2年生の姉がそんな子供を相手にするわけがない。ましてや姉は弟の順平でもたまにうっとり見つめてしまうぐらいの美人だ。姉に言い寄る男が多いことも、家にかかってくる電話から知っている。順平が知る限り、姉はそのすべてを断っていた。お姉ちゃんは真面目だから、男の人と付き合ったりしない、と順平は勝手に思い込んでいた。
 だから友彦なんかと……この目でちゃんと確認しないことには、怒りの矛先をどこに向けていいか分からず、自分が苦しいばかりだった。
 友彦のことも本当は信じていたし、「好き」という気持ちも残っていたと思う。
 学校ではいじめられっ子で、「おっさん」とか「チン毛」とかひどいあだ名をつけられている友彦。ひょろひょろの弱そうな体つきなのに、ヒゲや脛毛、さらにチン毛までボーボーで、おちんちんそのものは皮もズル剥けで、気持ち悪いぐらい大きい。むさ苦しい体からは、オシッコっぽい饐えた体臭がして、クラスの女子からも嫌われている。
 だけど順平は「焼却炉からの冒険」をキッカケに友彦と仲良くなり、今年の夏休みは毎日のように一緒に遊んだ。普通の遊びではない。順平は友彦にペニスをしゃぶってもらって、挙句にはお尻の穴に入れられるというSEXの真似事まで楽しんでいた。
 友彦は恐ろしいほど順平の秘密の願望を察して、それをしっかりと叶えてくれる親友でもあった。順平が姉の下着を穿いてオナニーしていることもなぜか知っていた。それどころか、順平の中にある女の子になりたい気持ちを汲み取り、男同士のSEXの時も女の子のように扱ってくれた。
 気づくと順平は友彦の前で、姉のパンツを穿くようになった。
 友彦にだけは、すべてを曝け出せた。
 こうやって思い返せば、友彦は恐ろしい奴だ。学校では泣いてばかりで、順平といる時も遠慮がちだったけど、イヤラしいことをし始めた途端、人が変わったように積極的になる。意地悪な言葉も囁いて、順平の悶える姿を見て、口元を緩めていた。今から思えば不気味な笑い方だけど、気持ちイイことをされている最中はどうしてか、あのニヤついた顔を向けられると、背筋がゾクゾクして快感となってしまうのだ。
 順平はそうやって友彦に開発されたような気がしてならない。
 いつの頃からか、友彦に抱きしめられてあの鼻がもげるような男臭さに包まれると、順平のおちんちんは痛いほど腫れて、お尻の穴が疼くようになった。
 上になった友彦が「順平君、可愛い」と言いながら腰を振ってくれると、ブサイクな老け顔も可愛く思えて、胸が温かくなった。友彦は汗かき体質で、SEXをしている時なんて、滝のように大量の汗を滴らせてくる。それを体で浴びることもたまらなく好きになった。
 小学生最後の夏休みを通して、順平は紛れもなく友彦のことを「彼氏」と思うようにないっていた。それは男として男が好きというよりも、順平は友彦の前では姉の夫佐子になりきっていたので、女として友彦が好きというほうが正しい。
 友彦の恐ろしさはここにあった。友彦は姉になりたい弟を抱き、本物の姉も抱いていたことになる。


 天神川を前にして、天神川を眺めることもなく、順平は小一時間ほど座り込んでいた。
 押し入れの中で順平が覗いていたことなんて知らない姉は、友彦が帰った後、どこかに出かけた。おそらくスーパーまで買い物に行ったのだろう。もうそろそろ戻ってくるはずだ。
 順平は姉と顔を合わせるのが怖かった。
 友彦との関係を完全に確認した今、まともに姉の顔を見られるはずがなかった。ただ、それは怒りの感情ではない。
 姉と友彦が抱き合っている姿をこの目で確認したことによって、順平の中で昨日までと違った感情が生まれたのだ。
 実際、順平は姉と友彦のSEXを覗き見ている最中、激しく勃起していた。二人に対して裏切られたという感情もウソみたいに消えていた。怒りも嫉妬も湧き上がってこなかった。
 姉の色白な裸や甘えるような喘ぎ声、部屋中に漂う男と女の生々しい匂い……それらすべてがイヤラしかった。
 順平は生まれた時から姉の顔を見ているが、友彦の大きなおちんちんで突かれていた時の姉の泣き顔は、今まで見たどんな表情よりも美人だった。
 姉はやっぱり憧れの人だった。
 そして最後に聞こえたあの言葉。あの言葉を聞いてしまったから、姉と顔を合わせるのが怖いのだ。
 姉は精液を中に出されながら、「じゅん、ぺい……」と口にした。
 その意味が分からない。姉は友彦とSEXしていたはずなのに、なぜ、最後の最後に実の弟の名前を漏らしたのだろうか。
 友彦は友彦で、姉のことを「ナナコ」と呼んでいた。それも謎であるが、順平にとっては姉の呟いた言葉のほうが、ずっと心に引っかかっている。
 聞き間違えたのかもしれない。
 姉も狂ったように悶えていたから、呼び間違えたのかもしれない。
 そうだとしても順平はあの瞬間、こう思ったのだ。
 
 お姉ちゃんに入れてみたい……。
 
 そんなことは今まで一度も考えたことがなかった。確かに姉のようになりたい気持ちはあったが、それはいわば女性的な感覚だ。入れたいではなく、入れられたい願望だった。
 だけど、あの瞬間、順平は一人の男として、姉の穴に雄の象徴を突っ込みたいと思った。
 お父さんは生まれた時からいなくて、お母さんは夜中にならないと帰ってこない貧乏な家で、順平はそれこそ姉と手を取り合って生きてきた。
 順平が物心ついた時から、姉は文句ひとつ言わず、母親の代わりをしてくれていた。
 順平はハッとなって顔を上げた。すでに空は暗くなっていた。この界隈は外灯もないので、すぐに闇に包まれる。闇の奥から、天神川のせせらぎが聞こえていた。
「順平……?」
 不意に背後から声をかけられた。振り向くまでもなく、姉だと分かった。
「あんた、そんなところで何やってんの?」
 姉はいつもと変わらない調子だった。
「あ、うん……」
 順平は振り向けないでいた。今しがたまで姉に対して芽生えた自分の欲望がまだ抑えきれないでいた。
「ご飯にするから、はよ中に入り」
 姉は呆れたような言い方をしながら、順平に近づいてきた。背後から迫る足音と気配に順平は震えおののき、発作的に立ち上がった。
「なんや? ビックリさせんといて」
 いきなり勢いよく立ち上がった順平に、姉は驚いたようだ。
「うん……ごめん」
 順平は振り返りつつも姉とは視線を合わさず、バラック小屋に戻ろうとした。
 スーパーの買い物袋を手に持っている姉の横を通り過ぎようとした時、不意に友彦の匂いを感じた。
 うちにはお風呂がない。だから姉の体にはまだ友彦の体臭が残っているし、お腹の中には精液も入ったままなのだ。
 全部、あいつのせいや。
 順平はバラック小屋の玄関の引き戸を開きながら、そう思った。
 自分が女の子みたいにされたことも、姉が女にされたことも、全部、あいつのせい。
「お腹空いたやろ? 今日、お肉買ってきたで」
 たまには喧嘩もするけど、こうやって姉と仲良く暮らしていた生活を壊したのも、友彦と出会ったせいだ。
「ほんま?」
 順平はようやく振り返って、姉を見た。
 天神川の向こうの吸い込まれそうな闇を背に、姉は自慢げに微笑んでいた。
 その笑みを見て、順平はまた思った。
 実の姉を好きになってしまったのも、全部、友彦のせいだ。
 

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「お姉ちゃん、俺……」
 やっぱり無理だった。
 あの後、姉の作った夕食を食べながらアニメを見て、それから一緒に銭湯にも行った。夕食の時なんて姉の体から友彦の匂いが漂っているような気がして、順平はご飯が美味しく感じられなかった。逆に、姉が銭湯で体を洗い流してくれた後は、いつものシャンプーの香りも一層、清冽に感じることができた。
 結局、姉には何も言えないまま順平は銭湯から帰ると自分の部屋に戻り、早々に蛍光灯の明かりを消した。早く寝てしまいたかった。
 実の姉が同じ屋根の下にいるというだけで、気持ちがそわそわして落ち着かない。銭湯の前で姉が出てくるのを待っていた時なんて、本当に最悪だった。夕方に覗き見た姉の裸体が生々しく脳裏によみがえり、友彦と愛し合っていた現実を否応なしに思い出してしまう。そのくせ、股間は痛いほど腫れてきて、その場でシコシコしたいぐらいだった。
 俺もお姉ちゃんとしたい……必死に考えないように努めても、自分の欲望を押し黙らせることは無理で、ただただヤキモキするばかりだ。
 銭湯ではいつも以上に体を綺麗に洗った。嫌いな歯磨きも丹念にやった。今さらながら石鹸で髪の毛を洗っている自分が恥ずかしくなった。こんなに髪の毛がゴワゴワしていたら恰好悪いじゃないか。
 お風呂上りにはドライヤーというものを初めて試した。鏡の前に座ってドライヤーをしながら、前髪を伸ばしたり曲げたりして、少しでも男前な顔になろうとしていた。
 理由は言うまでもなく、姉に恰好いいと思われたいからだ。自慢の弟としてではなく、一人の雄として、実の姉を振り向かせたいと順平は無意識に考えていた。
 つまり順平は、家の中にいながら、好きな女の子の前で緊張してしまう状態が常に続くことになったのだ。
 ましてや姉は銭湯から帰った後はTシャツに短パンという夏用の寝間着姿となる。居間ではだらしなく寝転んで、テレビを見ていた。スラリと伸びた素足や桃のような形のお尻にどうしても視線がいってしまう。
 もっとじっくり見ていたいけど、鑑賞すればするほど「友彦には触らせていたくせに」といった気持ちがこみ上げてきて、やるせない。
 このままでは気がおかしくなりそうで、とうとう順平は後ろ髪を引かれる思いで自分の部屋に戻ってきたのだ。
  かといって、それは何の解決にもならなかった。むしろ、一人になると余計に欲望が燃え盛り、どうしようもないほど悶々としてくる。
「じゅん……ぺい……」
 順平をひとしお苦しめているのが、耳にこびりついているあの言葉でもあった。
「お姉ちゃん、俺……」
 順平は返事をするように独り呟いた。
 やっぱり無理だった。
 明日もまた順平のいない時間帯を狙って、姉と友彦は二人の時間を楽しむかもしれない。それを知らない振りでやり過ごすなんて、耐えられるはずがない。
 決着をつけたい。
 それは順平がまだ12歳の少年であることも大きく影響していた。良くも悪くも、浅はかで思いついたことは、いますぐに実行しようとしてしまう。やってやる! と心に誓ったら、一人でどんどん盛り上がってしまうところもあった。
 そのタイミングで、階段を上がってくる音がした。姉もそろそろ寝るのだろう。隣の部屋の襖の開く音がして、それから蛍光灯の紐を2~3回、引っ張る音もした。
 順平は隣の部屋と繋がる襖の隙間に視線をやった。明かりは漏れていない。どうやら姉も寝ようとしているようだ。
 順平は布団から上体だけを起こして、襖の向こうに声をかけた。
「お姉ちゃん……」
 意識していたわけではないけど、思いつめたような暗い口調になってしまった。
「ん? どうしたん?」
 姉は弟の様子が変と分かったのか、心配そうに返事をした。それから順平の返事を待たず、姉のほうから襖を開けてきた。
 どちらの部屋も蛍光灯が消えているから、家の中は真っ暗だ。
 そのせいで、開かれた襖から現れた姉のTシャツと短パンの白さが、月明りのように見えた。同時にふんわりと姉の甘い香りが順平の部屋にも入ってきた。
 姉の匂いを嗅いだ途端、順平は情けないほど胸がときめいた。
「……もう寝るん?」
 とりあえず何か話をしたかった。
「うーん。まだ寝ないと思うけど……」
 姉は順平の視線の高さに合わせるように、布団の傍にちょこんと座った。
「……わかった」
 自分でも会話になっていないことは分かっていた。
「どうしたん? さっきからずっと変やで。何かあったんか? ちょっと電気つけるで」
 姉は起き上がって蛍光灯の紐を引っ張ろうとした。
「いや、電気はつけんといて」
 順平は慌てて、思わず姉の手首を掴んだ。こんなふうにしっかりと姉の手を握ったのは何年ぶりだろう。細くて柔らかく、スベスベとしていて、「女の子」だと強く意識した。
「そうなん?」
 手首を掴まれていることは全く気にしていない様子で、姉は不思議そうに言う。
「うん……」
「どうしたんや? 学校で嫌なことでもあったん?」
 姉は再び座った。順平も姉から手を離した。
「ううん、そうやないんやけど」
 まだ手に残る姉の感触を気にしつつ、順平は口籠るように言った。
「ほんまに?」
 部屋が暗いせいか、姉は順平の顔を確認するように覗き込んできた。暗闇の中でぬぅ~と迫った姉の唇を前にして、順平は思わず生唾を飲んだ。
「……うん」
「でも、なんか変やで」
 姉は何度も「なんか変」と言ってきた。理由を聞きだすまで、自分の部屋に戻りそうもなかった。姉にも心当たりがあるから、探りを入れているのかもしれない。
 順平も、いつまでも煮え切らない態度を取るのは良くないと思った。
「……俺、聞きたいことがあるねん」
 順平は大きく息を吸ってから、珍しく低い声を出した。
「え? 何? 真面目な話?」
 順平のただならぬ気配を感じ取ったようで、姉は自分の髪をしきりに触り始めた。
「うん……」
 途端に落ち着かない態度を取り始めた姉に対して、順平もまた怖くなった。このまま話を進めてしまうと、もう普通の姉弟に戻れない。その覚悟がなかなか出来ない。
「もしかして、友彦君のこと?」
 姉のほうが先に覚悟を決めたように、その名前を口に出してきた。
「え? う、うん……」
「友彦君と何かあった?」
 姉は順平の目をしっかりと見据えていた。
 姉にすれば順平が何を知っているのか、不安で仕方ないはずだ。
 それでも逃げずに問いかけてくるところに、大人の、女性の強さを感じた。
 順平はそんな姉の迫力に触発された。
「……俺、今日、覗いてた。お姉ちゃんの部屋の押し入れで」
 胸の中でつかえていたものを、一気に吐き出した。
 一瞬、殴られると思った。それほどその時の姉はカッと目を見開いて、信じられないものを見るように、順平を睨み付けていたからだ。
 思わず順平は目を閉じた。
「……」
 数秒経っても、殴られることはなかった。目を開けると、姉は呆然自失といった表情で、暗闇の宙を見つめていた。
 それからしばらくして、ようやく「そっか……」と呟いた。
「なんでなん?」
 一番分からないことから聞きたかった。
「……ごめん」
「謝らんでもええよ……別に。でもなんで友彦なんかと」
 順平は好きな女の子にフラれたようなショックを受けていた。
「ごめん……順平も友彦君のこと、好きなのを分かっていたのに」
 姉のこの言葉に今度は順平が絶句した。
 なぜ、友彦との関係を姉が知っているのか。友彦が告げ口をしたのだろうか。たちまち凄まじい怒りがこみ上げてきた。
「違うで……友彦君から聞いたんやないんで。うちが、見てしもうたんや」
「え?」
「夏休みに、順平と友彦君がしているところ……あんたがお姉ちゃんの下着を穿いて……」
 怒りに震えていた全身がたちまち恥ずかしさで熱くなった。
 なんということだ。一番見られたくない姿を、一番知られたくない人に暴かれたのだ。
「お願い、もうそれ以上は言わんといて……俺、この家にもうおられへん……」
 姉に対して芽生えた気持ちも、まさかこんな形で終わるとは思わなかった。あんな姿まで見られたとなれば、とてもじゃないが、これから一緒に暮らすのは無理だ。
 順平はふらふらと立ち上がった。
「違う! そういうつもりで言ったんやない」
 姉も立ち上がり、順平の肩を抑え込んできた。こんな状況にも関わらず、いつの間にか自分が姉よりも背が高くなっていることに気づいた。
「だって、俺……変態やん……」
 姉の下着を穿いて、同級生の男子とSEXをしている弟なのだ。姉はそのことを知っていたくせに、今日まで黙っていた。そのことが辛くて仕方なかった。
「順平が恥ずかしいのは分かるけど、お姉ちゃんだって、全部見られてしまっているんやから……」
 姉は順平の肩を掴み、なだめるように擦ってくる。
「……」
 あれほどパニックになっていたというのに、順平は少しだけ落ち着きを取り戻した。
 言われてみれば、姉も同じなのだ。
 お互い知られたくない姿を見られてしまっているのだ。
「一緒やろ? ね……座って。ちゃんとお話ししよ」
 姉はすがるような言い方で諭してきた。
「……うん」
 真っ暗な部屋にも目が慣れてきて、姉の表情もぼんやりと見えるようになっていた。こんなに必死な顔の姉に見つめられたのは初めてのことだった。
 お互い布団の上に座ると、姉は一から説明するようにゆっくりとした口調で話し始めた。
 友彦とそういう関係になったのは、順平との男同士のSEXを見た後で、バラック小屋の裏手で洗濯をしている時に迫られたということ。
「最初は嫌やったんやけど……あんたは知ってる? 友彦君のお姉さんのこと」
「友彦にお姉ちゃん? 一人っ子と違うん?」
「ちょうど私と同じ年のお姉ちゃんがいてん……亡くなっているんやけど」
「え? 死んだの? 事故? 病気?」
「ううん……自殺」
 これだけでも十分に信じられない話だったが、姉はさらに話を続けた。
「……順平のことを信じて話すから、誰にも言わないであげてね。友彦君、そのお姉さんと結ばれていたんや」
「……どういうこと?」
 背筋に凄まじい悪寒が走った。
「だから、その、恋人みたいな関係になっていてん」
「うそ? 姉弟でヤッていたってこと?」
 口にするのも憚れる話だったが、順平は胸が妙にざわついた。
「そう……でも、そのことがご両親にバレて、お姉さんだけ田舎に引っ越しさせられたんやって。それからしばらくして、お姉さんは……」
 姉はここまで話すと、順平の様子を伺うように視線を向けてきた。
 次から次へ想像もしていなかった話を聞かされ、順平はただただ愕然としていた。
「友彦……」
 友彦と過ごした今年の夏の思い出が走馬灯のように駆け回っていた。
「言い訳になると思うけど、お姉ちゃん、友彦君が可哀想に思えて……」
 亡くなった姉の代わりになってあげた、ということだろうか。
 順平の姉は、友彦の姉でもあった。
 姉にとっては、順平も友彦も弟だった。
 そして、姉と弟が結ばれることもあるのだと知った。
 

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