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これは狂気か?救済か?「ミッドサマー」

世界中で話題になったこちらの映画「ミッドサマー」。ご存じの方も多いかもしれません。日本では2020年に劇場公開されましたが、一足早く2019年で公開された海外で観た人たちが「これはヤバイ」「見る麻薬」「途中退室してしまった」などという感想が並び、期待と恐れ、怖いもの見たさで私は公開初日に映画館に足を運びました。

結果:やばかったです。

ただ怖い・グロいだけではなく、ホラー映画・・・とも言えないような感覚「フェスティバル・スリラー」と呼ばれるようになった新しいカテゴリーを作った映画で、間違いなく観る価値はあるものでした。ただ感想として好き嫌いは分かれるもので、「無理」という人と「結構好き」という人、私の周りでは半々ぐらいにハッキリ分かれていました。
傾向として、グロいものが苦手・最近ちょっと心身疲れ気味・明日大事な予定があるという方は観ないほうがいいです。
私は映画を観たその日は、ベッドの中に入っても色々考えてしまい全然眠れませんでした。翌日ぐらいまで引きずります。
あと恋人同士で観るのもやめましょう。家族で観るのもおすすめしません。

もしちょっと興味があるんだけど、怖いな~って方は、まずこの映画を製作したアリ・アスター監督の前作、「ヘレディタリー/継承」を観ることをおすすめします。
アスター監督の長編映画監督デビュー作で、評価も高く「21世紀最高のホラー映画」と絶賛されたものです。
観たら分かるのですが、じわじわと精神を削られていく怖さ、お願いだもうこれ以上やめてくれ・・・という監督作品独特の恐怖感があります。それに耐えられたらミッドサマーに進みましょう。
また、少し長いですがミッドサマーはディレクターズ・カット版の方が内容が多いぶん物語を理解しやすいので、監督は是非そちらを観てほしいとおっしゃっていました。

ちなみにアスター監督は、「ヘレディタリー/継承」は家族映画で「ミッドサマー」は恋人の映画、とコメントしており、監督自身としてはホラー映画を作っているつもりはないようです。
これを聞いたら、ちょっとアスター監督について興味がでてきました。彼は今まで一体どんな人生を歩んできたんでしょうか。あのキラキラした瞳でなぜこんな映画を作り出せるんでしょう。不思議です。
彼は短編映画を昔制作していたようで、そちらも観てみたいのですがまだ私は観れていません。ただ内容を聞く限りやはりストーリーだけでも十分地獄でした。興味のある方は調べてみてください。

前置きが長くなってすみません!それでは紹介していきます!!


物語のあらすじ(ネタバレなし)

主人公の大学生のダニーには、双極性障害(躁鬱病)のある妹がおり、ある冬の日両親を道連れに一酸化炭素中毒で無理心中をしてしまいます。家族を一気に皆失ったダニーは心に深い傷を負い、恋人のクリスチャンだけが頼りの状態でした。
一方クリスチャンは精神不安定になってしまった彼女に同情しつつも、正直重荷にも感じており、別れたいという気持ちが募っていきます。

そんな時、クリスチャンの友人のスウェーデンからの留学生ペレから「自分の故郷の村で、90年に1度のミッドサマー(夏至祭)が今年開催されるので見に来ないか」と誘われます。
クリスチャンは男友達を誘って行こうとしますが、ダニーにその話が伝わり、仕方なく彼女も一緒に行くことになりました。
ダニー、クリスチャン、その友人のマーク、同じく友人のジョシュ、誘ったペレの5人でスウェーデンの集落ホルガ村に到着し、美しい自然と優しく歓迎してくれる村人に楽園のようだと感動する一行。

そして夏至祭が始まり、皆で食事をとった後アッテストゥパンという儀式が行われます。それは村人の中で年長者である男女二人が崖に上り、そのまま身を投げて自殺するという衝撃的なものでした。ですが1人は即死できず落下した痛みでうめいており、そこに他の村人が頭にハンマーを振り下ろしとどめを刺します。
それらはホルガ村では普通の文化であり、村人は全員72歳になると皆同じ事をするという説明をされますが、何も知らず見ていたダニーたちにとっては驚きと恐怖でしかありません。

これをきっかけに美しい楽園ホルガ村は残酷な儀式にあふれた地獄へと豹変し、友人たちも1人また1人と消えていくようになります。

こうして、祝祭がはじまりました。


村の雰囲気、自然と民族衣装の素朴な美しさ

そもそもなぜこの映画をこのブログで紹介しようと思ったのか、最初に「美しい映画」を紹介すると言っていなかったか?と皆さんお思いでしょう。

それは、この映画は恐怖と美しさを両立させている珍しいタイプだったからです。

主人公たちが訪れたホルガ村は、自然豊かなのどかで美しい村でした。しかも白夜でいつまでも昼のような明るさで、空には青空がいつも広がっており、地上では花が咲き乱れ、一見天国にでも来たかのような、そんな雰囲気があります。
また村人たちは皆刺繡が施された白い民族衣装を着ており、それもまた可愛らしいのです。

3ミッドサマー2

老若男女それぞれ白を基調とした服を着ているのですが、ラストでダニーは特別なお花たっぷりの華やかな衣装を着せられます。その美しさも圧巻です。

始めにこの映画を観た人は、このホルガ村の様子を見ただけで美しさに感動するでしょう。
しかし物語はその美しさを残したまま、恐怖と残酷さを見せてくるのです。
画面も常に明るいので、グロい様子もしっかり細部まで確認できます。もう本当やめてくれ。

そしてこの映画には多くの絵画や壁画やタペストリーがあちこちに登場します。これらもどれも魅力的で美しいタッチで描かれているものですが、よく見ると全て「ミッドサマー」の映画のストーリーが表現されたものになっているのです。
背景として小さく映る絵画にも全て意味があり、2回目・3回目と観て伏線的な要素を探す楽しみがあるでしょう。(ただ精神に負担がかかるので私は2回目鑑賞はもう無理です)
絵画や儀式についても考察しがいのある映画なので、それらを調べてみるのも面白いのではないでしょうか。


ダニー演じるフローレンス・ピュー

ここで主人公ダニーを演じたフローレンス・ピューについてご紹介を。
彼女は2014年に役者デビューしていますが、おそらく日本で一番有名になったきっかけはやはりこの「ミッドサマー」でしょう。
演技力は高く、精神が不安定な状態、クリスチャンへの絶望・悲しみ、ラストの涙を流しながらの美しい笑顔と様々なダニーを見事に演じ分けました。

彼女が出演した映画「若草物語」も素晴らしかったですし、最近ではマーベル映画の「ブラック・ウィドウ」にも出演しています。
これからの彼女の活躍に、まだまだ期待できそうですね!!
とても楽しみです!!


これはダニーにとってのハッピーエンド

この映画は主人公ダニーからすると、救済と解放が得られた笑顔で終わる一応ハッピーエンド?というかたちで幕を閉じます。
アスター監督は「ダニーは狂気に堕ちた者だけが味わえる喜びに屈した。ダニーは自己を完全に失い、ついに自由を得た。それは恐ろしいことでもあり、美しいことでもある」と脚本に書いています。
(そうなんです。美しいんです。実際ラストシーンのダニーは映画の中で一番の美しい輝きを見せます。でもやっぱり恐ろしいのです。)
しかし一方恋人のクリスチャンの立場からこの映画を観ると?マークやジョシュは?そしてペレは?
「ミッドサマー」の好き嫌いが分かれるのは、観た人がだれに共感したかの違いに大きく関わってくるでしょう。

またこの映画ではホルガ村の特徴「共感」が何度も表現されています。
ダニーがショックで泣きながら過呼吸を起こした時、村の女性たちも一緒に泣きわめきながら彼女の手を握ったり背中をさすります。
村人が儀式で苦しんでいる時も、見ている村人たちも一緒に苦しそうに叫びます。
これらからホルガ村では「」は許されず、あくまで共同体として存在していることが分かります。
私はこの映画は正直好きとは言えません。それはグロいからでも怖いからでもなく、共同体特有の同調圧力というものを強く感じたからです。私の苦手なもののひとつです。

最後に、ダニーは自分の居場所を見つけ、新しい家族を手に入れて幸せになったように見えますが、それはただ恋人のクリスチャンから依存先をホルガ村に変えただけであり、自立はできませんでした。
孤独ではなくなりましたが、共同体の一員になったことで、これから彼女の個としての意思は尊重されなくなるでしょう。
それでも彼女は幸せになれるのか、それはダニーにしか分かりません。

強烈なインパクトで観た後も余韻を残す、忘れられない映画でした。



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