最後の友人をようやく少し好きになれたと同時に関係を終えた話


年齢を重ねる度に他人との繋がりが音を立てることもなくスルリスルリとほどけていく中、ずっと仲良くしてくれていた専門学生時代からの友人がいた。


会えば転職の迷いであったり不安の解消であったり何かしらの相談事が多かったのだが、いつも頼りにしてくれていた。俺は頼られるのは嫌いじゃないので真剣に忖度することなく意見を述べていた。


彼は3年前に結婚をした。付き合って長い相手だった。不貞を働くようなタイプの男ではないのだが、最初から相手に流されて惰性で付き合っている感じだった。ずるずると相手の家族とも仲良くなり後に引けなくなったと(これは本人がそう言っていた)

他人の人間関係に対しては意見を求められない限りは口に出したくはない。ただ口に出さないだけで不快感や違和感はあった。


…………

おれはそもそも男同士の関係に本当に不向きなんだ。本来、男同士って相手の恋愛事情なんか関係なく仲良く出来るみたいなんだけど、オレは相手の色恋沙汰や貞操感に嫌悪を感じるとそのままダイレクトに相手への嫌悪に繋がってしまう。

友人と呼ぶしか関係性が見つからないから友達なだけ。他の人間として好きな方々とは友達にすらなれない。友達ってなんだ。おれは友達という概念を捨てた。

………

話を戻そう。


3年前に彼の結婚式に参加した。そこで初めて彼女さんに会った。昔からずっと話に聞いていた職場で知り合いズルズルと惰性で付き合っていた彼女さんだ。この娘、本当に彼の事が大好きで……それがスゴく伝わってきて、勝手に胸が締め付けられた。



結婚式後も変わらずに3ヶ月に1度は誘ってくれた。飲みに行くと変わらずに「いや~結婚早まったわ~」などと言う。彼女の式場での幸せそうな顔がチラつく。

今までスルー出来ていたものが無視できなくなってきた。やはり、実際に相手の女性と知り合ってしまうとオレは結構キツかった。

何故不快感があるなら誘いを断らないのかと思うかもしれないが、たぶん自分の中の違和感をいつか拭い去り、"最初から何もありませんでしたよ~"って無かったことにしたい希望があったんだと思う。




2年前の11月末

彼と会ったのも連絡を取り合ったのもこれが最後


また定期的な飲みに誘ってもらい2人で飲みに行くことになった。ここでの相談が、

子供を作ろうと思う。と。

彼は転職ばかりで職種も定まっていなかったので
かなり薄給なのは確か。

妻が子供欲しがっているから。と。

今の給料じゃやっていけないから副業しようと思う……いやー大変だよ。と。

甘い。甘過ぎる。これは命3つ分の話だぞ。
……とまでは言わなかったが割とこの時点で苦言を呈した。お互いに話し合って子供を作らずに幸せに暮らす選択肢だって同じ道幅で用意されているはずだよ。と。


「だって女性はみんな子供欲しいでしょ」

たぶん彼のこの言葉で堰が切れた。
※この嫌悪感には彼との因果関係はないので多少申し訳ない気持ちはある

ここまで見えてる世界が違うのかと思った


もうダムが崩れたように今までの不快感を全て口に出してしまった。「流されるように付き合い続け、流されるように結婚して、流されるように子供作るの?退職はすぐに決めるのにな!」などと。

いったいオレは何様だよ……と、心の中で自分に失望するくらいの冷静さはあった。勢い余って言い過ぎたのはそれが突発的な感情ではなくずっと蓄積されて用意されていた言葉だったから……冷静に冷静なまま言い過ぎてしまった。

流石に彼も怒った。
知り合って初めて怒ったところを見た。

金がない夫婦は子供を作るなってこと?そうじゃないでしょ?自分が稼いでるからわかんないのかもしれないけど、俺と同じくらいの給料で子供作って幸せに暮らしてる夫婦だって知り合いにいるよ!と。

これに対してもかなり酷いことを言ってしまった記憶がある。おそらく彼に同じ様に文章を書かせたらオレはかなり醜悪な人間として書き連ねられるだろう。……いや、優しい男だからな、多分うまく辛辣には書けない。


この日から彼に対して1つの仮説が思い浮かんだ。いや、何故今まで考えなかったんだと思った。もしかしたら彼の"彼女と惰性で付き合っている感"も、"結婚早まったわ~"も、オレに対する気遣いだったんじゃないか。

何だかんだで浮いた話を聞かされることもないオレに対して"彼女とか結婚とか面倒くさいから君が羨ましい"という態度を示す、彼なりの俺に対する歩み寄りだったんじゃないか。本当は言葉とは裏腹に昔から彼女にちゃんと恋をしていて愛していたんじゃないか。

もしそうであればやっと
俺は彼の事が少しだけ好きになれる

それと同時に

どちらにせよ

俺はもう会わなくていい



居酒屋で口論したあとそれでも互いに大人の対応で話を中和させて、店を出た。最初はお互いもう一件くらい飲みに行くつもりで街へ出たはずだが、当然雰囲気は良くない。

彼は完全に俺に委ねてきた。

どうする?もう一件いく?

たぶんね、ここは
ターニングポイントだったんだ。



















今日はもう帰ろっか。








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