五月病
あぁ、やる気が出ない。
部屋で一人床に寝っ転がった。僕は兎に角やる気が無かった。テレビもやる気が無いのか、薄く砂嵐を映し出している。人の姿が原型を留めていないんだが。音もザザザと鈍い音を立てるだけだった。
背の方に在ったリモコンを寝返りし取り、ダメ元でチャンネルを変えてみる。
「もう五月になりました。五月といえば五月病が流行り⋯⋯ザザ⋯⋯。」
一瞬綺麗なキャスターが映ったかと思えばまた映像が荒れだした。何でこんなに砂嵐が映るのか⋯⋯。
其れにしても、そうか。五月か。桜もとうに散って、一時期の公園の人混みは無くなり、元通り爺さんと婆さんが散歩している位になった。慥かに五月だ。此れは五月病か。
そろそろ動かなくては、と思うのだが、気怠くてとても動けない。いや、動きたくない。というか、よく考えれば休みだし、動かなくてはならない理由も無いし、エトセトラエトセトラ⋯⋯。ごちゃごちゃ言い訳を並べ、また寝返りを打つ。瞬間、背中にゴツ、と固いものがのめり込んだ。
「いたぁあっ?!」
反動で起き上がり、見ればリモコンが在った。背中を摩りながら、もう起き上がってしまったのでついでに立ち上がる。背伸びをすると、肩や指や首やらがポキボキと痛々しい音を立てた。未だ、テレビはザザザと五月蝿く、そして、ぐぅ、と腹が鳴いた。
「⋯⋯何か、食うか。」
気怠さを抱えつつも、キッチンへと向かい、お湯を沸かし、適当に取ったカップラーメンの蓋を開ける。カレーのスパイスが鼻腔を擽る。カレーラーメンか。余程腹が減っていたのか、カレーラーメンが丁度僕の要望に沿っていたのか、分からないが、ゴク、と喉が音を立てた。
そろそろか、と空腹が待ちかねて顔を出しかけていた時、ポットを見ると、何と、コードが挿さっていなかった。
「⋯⋯くそぉお。」
思わず声が出た。コードを挿すともう一度電源を入れ、暫く待つ。お湯の沸いた音が鳴ると、カレーラーメンに注ぎ、薬味やら何やらを入れ、蓋を箸で抑え、テレビの前の机に置き、五分待つ。また、カレーの香りがした。ザザザという音に混ぢってゴクと喉の音が鳴る。ピピピというアラームの音を聴き、速やかに蓋を外し、カレーラーメンへ箸を忍ばせる。ズズズと音を立て、麺が口に飛び込んでくる。ああ、美味しい。
ふと、気付いた。未だ砂嵐のテレビの裏へ回り、コンセントを一つゞ確認してみると、ああ、やっぱり。一つ外れかけているコードを見付けた。ギュ、と押し込むと、キャスターの声が聞こえた。
「五月病に成っていて、面倒でも食事はきちんと取りましょう。」
にこやかに女性キャスターが云う。
「はい。」
何故か返事をしてしまって、直ぐに恥ずかしくなって、ラーメンを啜る。カレーラーメンは五月病をも倒す。スパイスが口に鼻に広がる。⋯⋯今日何もしてねぇじゃねぇか。
「くそぉお⋯⋯。」
カレーラーメンを貪り食いながら、綺麗な女性キャスターを眺めた。何かもう、どうでもいいか。やる気出ないし。