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療法士の当事者研究を終えて(2020年6月12日)

「療法士の当事者研究」第一回にご参加頂いた方に、心より感謝いたします。

当事者研究とは、北海道浦河町にある精神障害者のグループホーム「べてるの家」でソーシャルワーカーに従事していた向谷地生良氏が、何度も加害行為を繰り返してしまう青年・河崎寛氏に対して加害行為を<爆発>として研究してみることを提案したことに始まります。

「『精神障害者』とは、言葉を、語ることを封じられた人々である。」(向谷地、2002)と述べられている通り、歴史の中でも精神障害者は社会から、そして医療従事者からもスティグマを向けられ、言葉を封じられるだけではなく、暴力を受けたり差別されたりと人権を侵害されてきました。

筆者(遠山)は、現在まで精神科病院、精神科デイケア、精神科訪問医療、と精神科領域の作業療法士として従事をしてきました。なので、今回の「療法士の当事者研究」という場が出来たことに喜び、「医療者の内なるスティグマ」というテーマには大変興味深く聴いてました。

しかし、ハームリダクションやハウジングファーストの具体例を聴くうちに「あれ…?もしかして支援者がいなくても、いや、いない方が当事者が回復していくこともある…。」と気づきました。そして、それまで私自身が“支援”と称して、実は当事者を傷つけ、言葉を奪っていなかったかと振り返ると、思い当たる出来事が頭に浮かび、身体がこわばる感覚がしました。当事者が自分自身の言葉を取り戻すために発展した当事者研究を、支援者側が使うことの意味に思いを巡らせました。

しかし、ワークショップやフリーディスカッションで参加者の方々の今までの苦労を聴き、同じ思いをしているのは自分ひとりだけではないと、ほっと安堵する感覚や、療法士同士だからこそ分かるエピソードに連帯を感じるのも事実でした。

当事者研究を支援者側が使うことの意味とは?

「療法士の当事者研究」研究会の第一回目から難問にぶつかりました。たしかに、支援者の当事者研究は他でも行われていて広がりをみせています。しかし、それだけを理由にこのまま取り組んでいっても良いのでしょうか?一旦、立ち止まって考えてみる必要があると思いました。

支援者が当事者研究(およびSST(Social Skills Training))を行うことについて、向谷地氏(2002)はこう述べられています。

 「浦河では入院患者さんのためのSSTに並行して、PST(Professional Skills Training)と称した職員のためのSSTをおこなっている。これは「オレたちはSSTにすごく助けられてる。看護婦さんだっていろいろ大変だろ?オレたち以上にSSTをやったらいいんでないかい?」という早坂潔さんの一言がきっかけになってはじまった。患者さんに対して、PSTでは、職員もべてるメンバーも入院中の人たちも、みんな一緒になっておこなう。セッションの方法は基本的にSSTを踏襲したものだが、職員の困りごとをテーマにするところが違う。」 (べてるの家の「非」援助論 P178)

「浦河赤十字病院の精神科では、毎年四月にセレモニーをおこないます。セレモニーでは、全員が集まって、看護師一人ひとりが「自分はこういう弱い部分をもっています」をということを発表します。その弱い部分というのは、今年一年の課題でもあるのですね。」(べてるの家の「当事者研究」 P284)

おぉ、当事者の方が勧めてくれたのかぁ。そして支援職も使っている。それなら、私たちも使ってもいいよね!

…と安直に思う一方、衝撃的なことも書かれていました。

「以前、精神科病棟の若手の看護婦たちが、看護職員全員を対象に「精神障害者に対するイメージ調査」を実施したことがある。(中略)事前の予測としては「他部門の看護婦の精神障害者に対するイメージは、精神科の看護婦に比べて悪い」というものだったが、その結果は非常にショッキングなものであった。精神科病棟の看護婦のほうが、他の部門の看護婦より「拒絶的態度」が一五%も上回るという結果が出たからである。」 (べてるの家の「非」援助論 P213)

精神科の看護師がスティグマが強い…?

この結果について、精神科病棟の看護師は常に入院時の病状の悪い状態と向き合っていることを一因として挙げています。これは、精神科領域に関わらず、「リハビリの夜」で熊谷氏(2009)が、リハビリの限界とクライエントの不満を「障害受容」という言葉で支援者が当事者を抑圧していると指摘していることと通底していると考えました。支援が上手くいかない時、それらは当事者に対するスティグマとして、支援者に内在化してしまうのです。その自覚を持つ必要があります。

トラウマインフォームドケアの観点では、組織が当事者の回復を支える場として機能するために、まず組織の安全を実現させる実践が求められるとして、健全な組織作りの構成要素を指し示しています。それらは、今後「療法士の当事者研究」を営むうえで、当事者に対するスティグマを強化しないようにする大切な観点で、運営側として学んでいく必要があると思いました。

今回の研究会では、遠方からお越しの方や、経験年数も幅広く参加いただきました。参加者の方の多様性と関心の高さから、これは療法士の広範囲でなかなか語るという場がないのではないかと思いました。まずは、共に同じ場にいることから、少しずつ語るところから始めてみましょう。そこから、当事者の回復へ繋がる私たちの回復に成り得るのだと思います。

執筆(遠山)

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