【放線冠のラクナ梗塞後】ボディーイメージの歪みに伴う動作障害に対する理学療法案|2023.5.15公開予定
はじめに
「自分の体じゃないみたい...という訴えが聞かれているけど...」
「起立や歩行で、非麻痺側優位の動作になっている...」
このような症例を目の前にした時、うまく治療できなくて悩む場面もありますよね。
脳の構造は複雑で、これを行えば必ず治る!というものはありませんが、
適切な知識がなければ、その治療が状態を悪くしていく事も考えられます。
この動画では、放線冠のラクナ梗塞後の、
動作障害に対して、解決の助けになる知識を説明していきます。
また、ラクナ梗塞だけでなく、他の脳疾患や、
時に運動器疾患でも応用できる知識にもなっています。
少し難しい話も出てくるので、
超超簡単に知りたい方や、楽して知識を得たい方はこの動画を見ないようにお願いします。
それなりの時間をかけて作成しているので、本当に必要な人にしっかり見てほしいのです。
最後までしっかり見る事で、内容が十分に理解できる構成になっているので、
ぜひ最後までご視聴下さい。
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ではでは、本編に進みましょう〜。
本編
ボディーイメージの異常
まずは、ボディーイメージについて説明していきましょう〜。
ボディーイメージは、「意識できる自分自身の身体についてのイメージ」になります。
自分の体はこんな感じだというイメージや、
こんな感じで動いているというイメージですね。
障害に関わるボディーイメージの変化としては、
四肢切断や、人工肛門などが挙げられます。
四肢切断では、切断された部位があるようなボディーイメージが抜ず、
また、切断された部位が、今はないというボディーイメージを形成しなくてはいけないですし、
人工肛門は、肛門の位置が変化しているボディーイメージを変えなければいけません。
身近なところで言うと、姿勢のイメージとかが分かりやすいかもしれませんね。
自分では良い姿勢だと思っていても、写真で見てみたらなんか違う見たいな状態は、
ボディーイメージの異常になります。
そんなところで、ボディーイメージとよく似ているモノも、ついでに説明しちゃいましょう。
ボディスキーマとペリパーソナルスペースです。
ボディースキーマは、行動する時に無意識に使われる自分の体の情報で、
運動する際に、無意識下で使われている身体の情報になります。
ボディースキーマの歪みがあると、
身体が思うように動かせず、
ボディースキーマが洗練されていると、
動作の正確性が増加します。
また、ボディースキーマは、
身体だけでなく、道具などにも拡大するのが特徴ですね。
道具を使う際には、その道具も自分の身体の一部であるかのように、
道具を含めた身体図式が生成されます。
お箸で、食べ物とお皿の感覚を見分けられたり、
自分の体より遥かに大きい車を、自分の体のように操作できるのは、
この機能によるモノですね。
ペリパーソナルスペースは、身体を覆う領域の感覚になります。
概ね、四肢を伸ばせる範囲内の情報処理に使われる感覚で、
座る時の座面の位置や、
寝返りする時のベットの幅、
などの動作の補助となる感覚になりますね。
この機能に支障が出ると、
極端に椅子の端に座ってしまったり、
寝返りの時に幅が狭いのに動作を実行してしまったりします。
さてさて、ボディーイメージに話を戻して、
このボディーイメージの異常について簡単に説明しましょう。
脳卒中後の患者さんは、
「自分の体が思うように動かず、鉛のような感じがする」
「自分の足で支えている感じがしない」
という、ボディーイメージの異常が確認できる事が少なくありません。
実際の腕の重さは変わっていなくても、
運動麻痺等により、「重い」というボディーイメージの異常をきたし、
それにより過剰に力を入れてしまったりします。
しっかり足で支えられるのに、
感覚障害等により「支えている感じがしない」というボディーイメージの異常が生じ、
非麻痺側優位の起立動作になってしまうといった支障をきたしていきます。
評価と対象
評価
まずは評価について説明していきましょう〜。
今回の介入で特に必要な評価をお伝えしていきますね。
ざっと次の7つになります。
脳画像評価
全身状態(バイタル、合併症)
BRS
感覚評価(SIAS感覚)
NRS応用
起立動作
歩行動作
脳画像評価では、脳損傷の部位を確認しましょう。
放線冠の位置はここになります。
全身状態では、バイタルや、合併症を確認しましょう。
そもそも、積極的な訓練が可能な状態なのか、
訓練の負荷量を観察するために確認します。
また、糖尿病やそのほか疾患がある時は、
改善が遅くなったり、困難になる可能性も出てくるので、
ここも踏まえて、予後を予測していきます。
BRSでは、麻痺の回復段階を確認しましょう。
SIASやフューゲルメイヤーでも評価できますが、
BRSは、比較的早く評価できるので今回はBRSで進めていきます。
評価方法はざっとこんな感じ。
※
感覚評価は、SIASの感覚の項目を活用しましょう。
感覚評価の判断基準は、教えられ方によって若干の違いが出るので、
統一されている、SIASを活用することで、
情報の差位がなくなります。
評価方法はざっとこんな感じ。
上肢触覚 U/E light touch(手掌)
0:強い皮膚刺激もわからない。
1:重度あるいは中等度低下。
2: 軽度低下、あるいは主観的低下、または異常感覚あり。
3:正常。
下肢触覚 L/E light touch(足底)
0:強い皮膚刺激もわからない。
1:重度あるいは中等度低下。
2: 軽度低下、あるいは主観的低下、または異常感覚あり。
3:正常。
上肢位置覚 U/E position(母指or示指)
指を他動的に運動させる。
0:全可動域の動きもわからない。
1:全可動域の運動なら方向がわかる。
2:ROMの1割以上の動きなら方向がわかる。
3:ROMの1割未満の動きでも方向がわかる。
下肢位置覚 L/E position(母趾)
趾を他動的に運動させる。
0:全可動域の動きもわからない。
1:全可動域の運動なら方向がわかる。
2:ROMの5割以上の動きなら方向がわかる。
3:ROMの5割未満の動きでも方向がわかる。
NRS応用では、疼痛評価によく用いられるNRSを応用して、
ボディーイメージの評価を行っていきます。
麻痺側下肢の支持感覚と、麻痺側上下肢重量感覚について、
0〜10の11段階で評価していく感じですね。
以下の基準で評価してみましょう。
麻痺側下肢の支持感覚
「支持感覚が全くない=0」〜「完全に支持している=10」
麻痺側上下肢重量感覚
「重い感じがまったくしない=0」〜「最大に重たい=10」
起立動作
ここでは、動作観察を行いましょう。
屈曲相、離殿相、伸展相に分けて評価できればOKですが、
全体的な印象や、下肢・体幹・上肢に分けてみれてもOKです。
屈曲相、離殿相、伸展相に分けて評価することは、よく指導されているので多いと思います。
そのため、ここでは、部位ごとに分けて評価してみましょう。
上肢:動作中の上肢の全体的な印象は?相によって変化はある?
体幹:動作中の体幹の全体的な印象は?相によって変化はある?
下肢:動作中の下肢の全体的な印象は?相によって変化はある?
歩行動作
引き続き、動作観察を行いましょう。
IC、LR、MSt、TSt、PSw、ISw、MSw、TSwと各相に分けて評価するのもOKですが、
今回は、もう少し評価しやすく、項目を絞って観察を進めましょう。
全体像:全体的な歩行の印象はどうか?下肢、上肢、体幹の印象は?
麻痺側立脚相:立脚相の印象は?
麻痺側遊脚相:遊脚相の印象は?
一通り評価を説明したところで対象についてお話ししていきましょう。
次の章で、アプローチ案を説明していくのですが、
そのアプローチの効果が高い状態を説明していきます。
もちろん対象にならなくても効果はある可能性もありますし、
逆に対象であっても上手く効果が出ないこともあるでしょう。
このあたりの温度感は、日々臨床をしている皆様なら分かるかと思います。
ただ大切なのは、知識をつけることなので、
この知識によって、他の症例に活かせる日が来るのは間違いないです。
ではでは、対象としては、
脳画像評価で、放線冠メインのラクナ梗塞があり、
糖尿病や整形外科的既往がなく、
BRSⅢ程度、SIAS感覚項目3程度の症例。
さらに、NRS応用で、
麻痺側下肢の支持感覚が、3/10前後、
麻痺側上下肢重量感覚が、7/10前後、
かつ、起立や歩行動作において、
非麻痺側優位の動作になっている症例であることが挙げられます。
よくある状態としては、
起立時に、麻痺側下肢の股関節外旋・足関節内反が伴っているパターンで、
麻痺側下肢への荷重が、視診でも少なくなっているのが分かる状態になります。
加えて、麻痺側上肢が前方に垂れ込み、
伸展相での、体幹の伸展を阻害しているケースも多いですね。
歩行では、
全体的に体幹前傾位・股関節屈曲位かつ、
上肢が前方に垂れ込み、左右に同様している状態が多いですね。
麻痺側立脚相では、麻痺側の骨盤後方回旋と、
股関節の屈曲・外旋、足関節内反の運動パターンが、
麻痺側遊脚相では、非麻痺側体幹の側屈と、
股関節の屈曲・外旋、足関節内反の運動パターンによる「ぶん回し歩行」が見られるのが特徴です。
評価結果を参考に、アプローチを進めていきましょう〜。
アプローチ案
ではでは、アプローチに進んでいきます。
大きく次の5つを行なっていきましょう〜。
❶麻痺側下肢に対する介入
❷麻痺側上肢に対する介入
❸起立動作への介入
❹立脚相への介入
❺歩行動作への介入
❶麻痺側下肢に対する介入
起立動作、歩行動作共に見られている、「股関節外旋位、足関節内反位」の状態は、
足底がしっかり接地できないのに加えて、荷重感覚が逃げやすい状態でもあります。
この状態は、筋紡錘やゴルジ腱器官へ荷重感覚が適切に伝わらず、
ボディーイメージの異常を招きやすい状態とも言え、
また、感覚が伝わりづらい事で、さらに麻痺側下肢を使用しなくなり、
さらにボディーイメージの異常を助長するという悪循環にも陥りやすいのが特徴です。
そのため、全ての介入の前に、介入しておく事をおすすめします。
肢位:座位
手順:
①腓腹筋を外側方向に修正しつつ、股関節中間位に誘導する
②母趾球を軸に足関節内反を、足底全面接地位まで修正する
③足背部もしくは膝上部から床面に向かって圧を加える
ポイント:
股関節外旋と足関節内反によって、腓腹筋が内側に移動している
本介入により、正常に近い床半力情報が伝播できる
足底からの感覚情報が不十分だと、ボディーイメージの異常が起きやすい
❷麻痺側上肢に対する介入
BRS上肢Ⅲ程度の場合、随意性が低下しているので、
上肢が動作に上手く参加できず、
むしろ動作の阻害因子になってしまう事が少なくありません。
先ほどの章で説明した状態でも、
起立、歩行ともに動作の阻害因子になっていましたよね。
そんなところで、麻痺側上肢へのアプローチも行なっていきましょう。
肢位:座位
手順:
①小胸筋や大胸筋にストレッチかけつつ、肩甲帯を正中位に誘導する
②IST muscles(僧帽筋、菱形筋、前鋸筋、小胸筋)を促通しつつ、肩甲帯を正中位に保持させる
③ ローテーターカフ(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)を促通しつつ、肩甲帯を正中位に保持させる
ポイント:
小円筋や大胸筋の短縮があると、肩甲帯が前方突出し上肢が前方に垂れ込みやすくなる
IST musclesは肩甲胸郭関節の安定に関わるため、促通する事で肩甲帯を含む上肢のポジションを調整できる
ローテーターカフは肩甲上腕関節の安定に関わるため、促通する事で肩甲帯を含む上肢のポジションを調整できる
❸起立動作への介入
❶❷で修正した上下肢のポジションを意識しつつ介入しましょう〜。
肢位:座位
手順
①下肢のポジションと肩甲帯-上肢のポジションを正中位に保持させる
②「①」の状態を保持できるよう介助しつつ、麻痺側への荷重を促しながら起立を行う
③ 「①」の状態を保持できるよう介助しつつ、麻痺側への荷重を促しながら着座を行う
ポイント
麻痺側への荷重を行う際は、転倒のリスクに十分に配慮する
あらかじめ麻痺側下肢の膝折れのリスクが少ない事や、すぐ介助に入れる環境を整えておく
本訓練によって筋出力と荷重感覚の統合が図れ、ボディーイメージ再形成を促せる
❹立脚相への介入
起立動作への介入と同様、❶❷で修正した上下肢のポジションを意識しつつ介入しましょう〜。
肢位:立位
手順
①体を支えられる台やポールを用意し、非麻痺側上肢で軽く把持してもらう
②下肢のポジションと肩甲帯-上肢のポジションを正中位に保持させる
③「②」の状態を保持できるよう介助しつつ、麻痺側への荷重を促しながら非麻痺側下肢のステップを行う
ポイント
麻痺側への荷重を行う際は転倒のリスクに十分に配慮し、すぐ介助に入れる環境を整えておく
本訓練によって筋出力と荷重感覚の統合が図れ、ボディーイメージ再形成を促せる
セラピストの片足で、非麻痺側下肢の膝折れや支持具合の状態を確認できると良い
❺歩行動作への介入
これまでの介入で練習してきたものを、結合していきます。
肢位:立位
手順
① セラピストは後側から対象者の両肩に軽く手を置き、対象者には歩行を開始してもらう
②セラピストは各立脚相で、対角線上に圧覚を加える
③ 対象者は体幹中間位を保ちながら、歩行を継続する
ポイント
麻痺側への荷重を行う際は転倒のリスクに十分に配慮し、すぐ介助に入れる環境を整えておく
セラピストが手を肩に置く際は、歩行の邪魔にならないよう細心の注意を払う事
本訓練によって荷重感覚の運動の統合が促され、ボディーイメージの再形成を図れる
おわりに
「コスパ良く学べる方法」はあっても、
「楽して簡単に学べる方法」はない、
と言い切れる思っています。
ちなみにコスパ良く学べる方法は、
継続が必要なものか、良い師に出会えて学べるのがほとんど。
そんな素敵に師匠がすぐに見つかればいいですが、
僕は見つける事ができなかったので、それなりに大変でしたがひたすら継続しました。
(まあ、結果的にPT人生が良い方向に激変したので結果オーライです)
そんな継続のコツを、皆さんにも是非共有したいので、
実は継続のコツに関するスライドを現在作成中です。
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