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今の食事に「少しのタンパク質をプラスする」だけでも筋肉が増える最新エビデンス


 「筋肉を増やすためには、タンパク質を多く摂ろう!」

 タンパク質は筋肉を作る材料になる重要な栄養素です。そのため、よく雑誌やネットメディアでは、筋肉を増やすために多くのタンパク質を摂取しようと謳われています。

 では、どれぐらいのタンパク質を摂れば、どのくらい筋肉が増えるのでしょうか。

 この問に現代の栄養学はこう答えています。

 「今の食事に牛乳1杯や卵1個といった少量のタンパク質をプラスするだけでも筋肉は増える」

 2020年、タンパク質の摂取量と筋肉量の増加における用量反応関係を明らかにした世界で初めてのメタアナリシスが報告されました。用量反応関係とは、ある物質の量(タンパク質の摂取量)を段階的に投与して、生体の反応(筋肉量の増加)との間に見られる関係のことをいいます。

 メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。

 今回は、このメタアナリシスの結果をもとに、少量のタンパク質をプラスするだけでも筋肉量が増えるという最新エビデンスをご紹介しましょう。



◆ 牛乳1杯や卵1個の摂取で筋肉量が0.39g増加する!


 筋肉のもととなる筋タンパク質は、いつも合成と分解を繰り返すことによって筋肉を新鮮に保ち、力をしっかりと発揮できるようにしています。

 筋タンパク質には寿命があり、ある期間を超えると分解されます。この分解される量と同じ量の筋タンパク質を合成することによって筋肉量が一定に保たれます。

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 筋肉量を増やすためには、筋タンパク質の合成量が分解量を上回らなければなりません。

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 筋タンパク質は何を材料にして合成されるのかというと、それが必須アミノ酸です。

 体内で合成できないアミノ酸を必須アミノ酸といいます。食事でタンパク質を摂取すると腸で必須アミノ酸にまで分解されて吸収されます。吸収された必須アミノ酸をつかって筋タンパク質が合成されるのです。これが、筋肉量を増やすにはタンパク質の摂取が大事であると言われる理由です。

 しかし、ここで研究者たちにある疑問が浮かびました。

 筋肉量を増やすためには、タンパク質の摂取量を増やせばよいのですが、では、どのくらいのタンパク質を摂取すればどのくらいの筋肉量が増えるのでしょうか?

 このタンパク質の摂取量と筋肉量の増加における用量反応関係を解析したのが国立健康・栄養研究所と株式会社明治の共同グループです。

 2020年、共同グループはタンパク質の摂取量と筋肉の増加量との関係についてのメタアナリシスを報告しました。

 メタアナリシスの対象は、タンパク質の摂取量が筋肉量に与えた影響について検証した105件の研究報告(被験者5,420名)です。これらの研究報告をもとに、1日あたりのタンパク質の摂取量が筋肉量の増加に与える影響について解析されました。

 被験者数      5,420名
 平均年齢      47.2歳(19歳から81歳まで)
 タンパク質摂取量  介入群 0.64~3.50 g/kg/d
           対照群 0.52~2.00 g/kg/d
 平均介入期間    平均19.8週間(2週間から18ヶ月まで)

 その結果、筋トレを行っていない場合、「1日に体重1kgあたり0.1g」という少量のタンパク質を現在の食事にプラスするだけでも、筋肉量が平均0.39g増加することが示されました。

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Fig.1:Tagawa R, 2020より筆者作成

 体重1kgあたり0.1gのタンパク質というと、体重70kgであれば1日あたり7g(70×0.1g)のタンパク質の摂取量に相当します。この摂取量は、今の食事に牛乳1杯(タンパク質6.8g)または卵1個(タンパク質7.7g)を追加するだけで筋肉量の増加が見込めるということです。
*食品のタンパク質量は「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」を参照

 これは毎日、体重×0.1gのタンパク質の摂取量をプラスして摂取しつづけると、3ヶ月ほどで筋肉量が「平均390g」増加することを意味しています。

 しかしながら、これにはある前提条件があることもわかりました。

 それは「今の食事で摂取しているタンパク質の摂取量が1日あたり体重×1.3g未満である」ということです。


◆ タンパク質を摂取しても筋肉量が増えづらくなる転換点とは?


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