理想の父👨
百貨店では、父の日ギフト売り場がとても賑わっていた。
母の日や父の日💐のイベントは日頃の感謝の気持ちを形にできる素敵な日ではあるけれど、人によっては残酷な日になりうるかもしれない…。
私も父はいない。
大人になってからの最初で最後の父の日のプレゼントは、靴下だった🧦
紳士服売り場に入る機会がそれまで全くなかったので、ドキドキしながら入った😳
かなり挙動不審だったのか?綺麗な店員さんが「何をお探しですか?」と優しく聞いてくれた✨
「この中で高級でお洒落に見える靴下はどれですか?」と、困らせる質問をしてしまった。
店員さんはお見通しだった。
高級な靴下を提示したところで、この子の予算オーバーだろう、と🤔
そして紳士用靴下の知識は何もないだろう、と。
プライドを傷つけない誘導が店員さんはとても上手だ👏
「お父様はどんな雰囲気ですか?」と聞かれ、私は思わずこう答えた。
「気軽な雰囲気です!」
嘘だ…💔
どこからどう見ても気軽な雰囲気ではない。気軽どころか、気難しそうに見える。
カチッとしたスーツを着てアホ毛の1本も許さない、というイメージしかなかった。
「それでしたら、少しカジュアルでお洒落な感じのものはこちらになりますね」
見せてくれたのが、黒地に紫色のストライプ柄とブルーの水玉模様の靴下だった。
「これにします!」即決した。
ギリギリ予算内だったのと、紳士用靴下の基準が全く分からないので、オススメが間違いないだろうと思った😗
いい買い物ができた🧦🎶
自己満足で、そのまま実家に送った。
私は父がその靴下を履いたところは最後まで見られなかった。
嘘でも、履いているよーという写メを送ってくれるほど器用な父ではなかった🙄
私は靴下のことはすっかり忘れていた。
ある日突然、母から電話あり「少しでも帰ってこれない?お父さん、余命3ヶ月ないって言われた。」
実家に向かう飛行機の中で、突然のその言葉を必死に処理しようとしたけれど出来なかった。
久しぶりに会った父は、知らない人になっていた(顔も体もガリガリになり自力で歩けなくなっていた)。
急遽両親は都内に移り、有名な病院の腹水治療も免疫療法も出来ることは全てしたけれど、もうそういう段階ではなかった。
仕事が終わってからお見舞いに行く、の日々が続いた。まるでお見舞いの数だけ死へ近づく、そんなお見舞いだった。
あの時ほど感情を無にしようとした時はなかったけれど、わりと上手に振る舞っていたようで、その時職場のどのスタッフからも変化に気が付かれなかった。
転職したてということもあり、いきなり休みます!も言いにくかった。
小雨の降る日だった☔️
意識が薄い父をただ横で見守っていた。あぁ…、今日も同じか…。
「明日も仕事だからそろそろ帰るね。また明日くるね。」と言った。
ただでさえ口下手でどう接していいのか?いまいち分からなかった父。
病気になったからといって、急に私からベラベラ話すなんて無理だ。1人突っ込みコントでもするのが正解だったんだろうか。
その日は物凄く疲れていた。
雨なのか?涙なのか?もはやわからなくなってきた。
その夜、なぜか私は携帯の電源を切った。通常では考えられない行動だ。
次の日も仕事で携帯のアラームを設定しているし、ただでさえ朝の弱い私。
こんなに疲れて起きれなさそうな時に携帯を切る、なんてありえない。
でも、あの夜たしかに自らの意思で電源を切った。
その日はよく眠れた。
朝7時。
こんなにちゃんと眠ったのはいつぶりだろう…?
携帯の電源を入れたら、一瞬にしてただ事ではないことを察した。
6時半から何度も母からの着信履歴があった。
何があったか?折り返さなくても分かる。折り返すだけ時間の無駄だ。
おそらく人生で一番のスピードでチャリを飛ばした。
なぜチャリだったか?
いつでも自分が駆けつけられるように、チャリで行ける距離で在宅治療をしていたからだ。
そこまでしたのに…すぐ駆けつけられなかった。
それどころか、自らの手で携帯の電源を切った。
そのことを何年も引きずっていた。誰に話しても、きっとお父さんはもういいよ、ありがとうという気持ちでそういう行動をするように仕向けたんだよ、と言うだろう。
でも、当の本人は都合よく綺麗に解釈なんて出来るはずがない。
去年の父の命日、母は言った。
「ずいぶん派手な靴下だな、履く勇気がないよ、と照れ笑いをしながらも何度も何度も眺めていたんだよ。まぁ、職場には履いて行けなかったみたいだけどね。」
照れ笑い…?🫨
そんな表情は私は知らない。
せめて、履く勇気ないけれど嬉しいよ、とメールくらい送ってくれればよかったのに💦
まだスマホがなかった時代に、父が家の電話で楽しそうに話していた大学時代の友人。
毎年父の命日に来てくれる。
「本当にバカな奴だな。こいつの面白いところも黒い過去も俺は語れる。一番知るべき娘が何も知らないなんてこんなバカな話があるか。○○ちゃん(私)、気が向いたらいつでも連絡して。いつでも行くし、積もる話が沢山あるから!」と。
…来年の命日は、話を聞いてみようかな。
父の親友のおじさんと一緒に、父が大好きだった久保田を交わしながら🍶沢山父の話を聞く。
面白い話も黒い話も。
私に出来る償いかもしれない…💐
私は、ちびまる子ちゃんの父ヒロシが結構好きだ。
かなり呑気で呆れるほど滅茶苦茶なことを言ったりもするけれど、まるちゃんとくだらない話をして一緒に笑ったり…💕ちょっと憧れる。
偉大な父じゃなくてもいい。完璧なんかじゃなくていい。
あの日店員さんに思わず「気軽な雰囲気です!」と答えたのは、きっとそれが私の一番の願いだったと思う…🫠
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