2010年代の20曲ヘッダ

2010年代の20曲 _ ⑭三浦大知 「Cry&Fight」 (2016)


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「新しいポップスター」 は大ベテラン

「実力があるのに売れないのが不思議」「○○が売れてるのに●●の実力が評価されないのは納得いかない」

「実力」とは何かという厄介な問題はあるものの、「圧倒的な歌唱力」「思わず見とれてしまうダンスパフォーマンス」「世界のトレンドとマッチしたトラックメイク」といったスキルと市場での評価というのは必ずしも一致しない。かつて森光子が「あいつより うまいはずだが なぜ売れぬ」という句を詠んだというエピソードがある通り、この手の声はいつの時代においても芸能の世界(の一部の場所)で渦巻いている。

2010年代半ば、具体的に言えば2016年5月6日の「ミュージックステーション」出演以降の三浦大知の大活躍は、「実力」への評価と「人気」という結果がリンクしたとても稀有な例と言えるだろう。以前からライブでは披露されていた「無音シンクロダンス」というハイレベルなパフォーマンス(これは当人のみならず、彼が「チーム」と呼ぶダンサーたちの鍛錬の賜物であることは言うまでもない)が地上波歌番組を通じて「発見」されたことで、三浦大知は一躍「やばいことをこなすアーティスト」として認知されることとなった。

「Cry&Fight」のSeihoなど時流ともリンクするクリエイターとの共同作業によって生み出される楽曲は、ジャンルを超越したダンスとまろやか歌声を活かしたボーカルが乗ることでさらに輝きを増す。2018年にはNao'ymtとがっぷり四つに組むことで「純国産のオリジナルダンスミュージック」とでも言うべき『球体』という名作も生まれた。

また、2010年代の音楽シーンにおける重要な場でもある音楽番組でのコラボレーションにおいて無類の強さを発揮していたことについても言及しておきたい。ベースとなるスキルの高さと「相手を立てながら自分も目立つ」をやりこなすメンタリティによって、MIYAVIとの「Dancing With My Fingers」などの名演も多数生まれた(Mステでのパフォーマンスだったが、この先オフィシャルに映像が残らないであろうことが残念でならない)。

傍から見ていると「苦節20年」というようなことを言いたくなるが、実際には「報われないと思ったことがない」というポジティブな思考の持ち主は、この先も我々が驚く凄まじいアウトプットを自然体のまま見せてくれるに違いない。


ライジングプロダクションの逆襲

三浦大知の大ブレイクと機を同じくして、彼が所属する芸能事務所のライジングプロダクションの活躍が目立ったのも2010年代後半の音楽シーンにおけるトピックの一つである。

長年地道に活動を続けてきた男性3人組グループw-inds.は、橘慶太のトラックメイクのセンスが(三浦大知の時と同じく)「発見」されたことで音楽ファンの間での注目を高めた。レトロなソウルからEDM以降のダンスミュージックまで、海外のトレンドをキャッチしながら日本のポップミュージックのフォーマットに落とし込む彼らの音楽は、一時期日本の音楽シーンを語るうえでの定型句となっていた「ガラパゴス」とは一線を画するものだった。また、長年彼らを支えてきたファンが発揮するSNSでの拡散力も、話題の創出に一役買っていると思われる。

2018年には90年代から2000年代初頭のJポップシーンにおけるトップランナーの一つでもあったDA PUMPがまさかの大復活を遂げる(前年には事務所の大先輩、荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー」のリバイバルヒットもあった)。「U.S.A.」が文字通りの国民的唱歌となり、年末の大型歌番組にも連日登場。ミュージックステーションスーパーライブで「U.S.A.」と合わせてデビュー曲「Feelin' Good -It's PARADISE-」を披露する姿には、特に熱い思い入れがあるわけではない自分にもかなりグッとくるものがあった。

今ではミュージックステーションの定番出演者となっているDA PUMPだが、「U.S.A」でMステに登場する前の出演は実に21年前である。「非ジャニーズの男性パフォーマンスグループはMステに出られない」という噂はもはや「公然の秘密」として語られてきたが、DA PUMPの躍進はそういった「タブー」が徐々に打ち砕かれつつあることの証左だろう。芸能界の空気が明らかに変わりつつある中、2020年代には「健全な自由競争」が行われることを楽しみにしたい。


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